反省の色はない 「ねぇー聞いてよ、鬼男君。実は昨日さ…」 ニヤニヤと閉まりのない顔で閻魔が喋り出すと、鬼男と呼ばれた褐色の肌をした男(正確には鬼)はため息をついた。 「昨日下界のなまえっていう人間に笑ってもらえた話は聞きました。」 ピシャリと言い放つと、閻魔はゆっくりと瞬きをして鬼男の顔を眺め、笑う。 「あれ?言ったっけ?」 「何回も何回も…耳にタコができそうです。」 「上手い事言うね、君。」 冷たく言い放っても懲りていない閻魔は緩みっぱなしの表情で続ける。 「でも何回でも言いたくなるくらい可愛かったんだよ、これホント。」 早く会いたいなぁ、とぼやく姿は現世で恐れられている「閻魔大王」だとは思えない。 「ごく普通の女子高生だと思いますけどね。」 鬼男は興味なさそうに休憩後に入ってくる人間のファイルを揃えた。 「なっ…なまえのこと見たこともないくせにそういうこと言わないでくれるかな?」 机をバンバンと叩きながら怒りを表現する閻魔。鬼男は露骨にめんどくさそうな表情をする。 「一度見たとことありますよ。」 「………へ?」 「あんたが仕事放棄したときに僕も下界に降りたじゃないですか。」 もう二度と忙しいときに逃走しないで下さい、と小言も付けながら説明をすると、閻魔は不機嫌そうに口を尖らせた。 鬼男は言い過ぎたかと思い慌てて口を押さえたが、閻魔の機嫌を損ねたのはそこではなかった。 「そういえばなまえ、鬼男君のことイケメンって言ってたな…。」 「いけめん?」 聞き慣れない言葉に鬼男は首を傾げたが、閻魔にその姿は写っていない。 それどころか立ち上がり、ブツブツと呟きながらふらふらと扉に向かって歩いている。 「鬼男君がイケメンなら、オレは何!?」 「はあ!?」 「ちょっとなまえに会って確かめてくる!」 そういうと鬼男の制止を振り払い、ニヤニヤと笑いながらいつものように下界へ行ってしまった。 裁きの間に一人残された鬼男は大きくため息をつき、次から休憩時間のときには扉に鍵を付けようと心に決めるのであった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 反省の色はない/閻魔 fin 2010.11.17 |