ポッキーゲーム 「お邪魔します。」 そういいながら玄関を抜けると、部屋の奥からなまえが顔を出した。 「お邪魔しますじゃなくて、ただいまでしょ?」 釘を刺すように言われ鬼男は慌てて言い直す。 「た…ただいま。」 なまえと同居を始めてもう2週間経つというのに鬼男は「ただいま」が上手く言えない。 今までなまえが一人暮らしをしていた部屋をそのまま使っているせいでもあるのだが。 「おかえりなさい。」 なまえはニコリと笑って鬼男を迎え入れると紅茶を作って差し出した。 「あ、ありがとうございます。」 「ん、ちょうどお菓子買ってきたとこだったからいいの。」 時計の針は3時を指している。いつもなら殺風景の机に色とりどりのお菓子が置かれていた。 「なまえさんがこんなに買うなんて珍しいですね。」 なまえと向かい合うように椅子に座り、目に入ったお菓子を手に取って眺めると、なまえが「安かったの」と主婦のように呟くので鬼男は少し擽ったくなってしまう。 「どしたの?」 「い、いえ!あの、これ…ポッキー食べます?」 「うん。」 鬼男は照れを隠すように手の中のお菓子を開いた。 「ポッキーなんて学生ぶりかも。」 嬉しそうにポッキーに手をのばすなまえを見て鬼男も頬が緩む。 「なまえさんがポッキー食べてるところなんてあまり見たことがないですよ。」 「えー?嘘だ。」 少しずつなまえの口に消えていくポッキーを眺めながら、鬼男もポッキーに手を出した。 「だって、ほら生徒会室でポッキーゲームしたじゃない。」 「へ?なまえさんもやってました?」 「ゲームはやってないけど、ポッキーは食べてた。鬼男は閻魔に遊ばれてたから知らないんじゃない?」 「ああ、なるほど。」 昔話を楽しみながら消えていくポッキー。 お互い一緒に過ごしたあの生徒会室での出来事を思い出して笑いあう。 「今でもやってるの?ポッキーゲーム。」 「閻魔先輩がよく買ってきますから…。」 「あの馬鹿は相変わらずね。」 ふと気がつくとポッキーは一つ。二人は手をのばしたままお互いの顔を見合った。 「鬼男は学校でしょっちゅう食べてるでしょ。」 「なまえさんはダイエットするとか言ってませんでした?」 火花を散らすように睨み合っていたが、思い出したようになまえが提案した。 「あ、じゃあさ。ポッキーゲームしようよ。実はやってみたかったの。」 なまえは楽しそうに言うと、ポッキーのチョコの部分をくわえて鬼男を見つめた。 「えっ、ちょ…」 「んー、たべひゃうよ。」 プラプラとポッキーを揺らし、挑発するように鬼男を見たなまえは勝ち誇ったように口角を上げる。 素でイラっとした鬼男はなまえの言葉を聞いて身を乗り出した。それを見てなまえも身を乗りだし、鬼男はポッキーをくわえる。 「…。」 「………。」 二人は互いにポッキーをくわえたのを確認するとゆっくり食べ始めた。 相手がポッキーをかじるたびその振動が伝わる。 鬼男は極力なまえを見ないよう視線を下げていたが、そのことに気付いたなまえは食べるのをやめてポッキーを落とさないよう注意しながら口を開いた。 「何よそ見ひてんの。」 「………〜っ。」 「こっち、見て。」 なまえの言葉に恐る恐る視線を上げる鬼男。パチリと視線が合った瞬間、鬼男は口からポッキーを離した。 「無理っ、です!」 机に平伏し首を横に振る鬼男を見てなまえは残りのポッキーを全てたいらげながら笑う。 「これ、私の勝ち?」 「…まぁ、そうです。」 いつまでも顔を上げない鬼男の頭を突くと、鬼男は逃げるように立ち上がった。 ほんのりと赤い頬を隠すように斜め下を向いて喋る鬼男に、なまえは笑いを隠せない。 「でも、このゲーム具体的なルールがあるわけじゃないんですよ。」 そんなに赤くなった顔が見られたくないのか、リビングへ行きソファに横になっている。 「鬼男こっちおいでよ、紅茶冷めちゃう。」 「…僕は猫舌なんです。」 「そんなの初めて聞くけど。」 いつまでも照れている鬼男をみて、またポッキーを買ってこようと決めたなまえは冷めた紅茶を啜りながらほくそ笑んだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ポッキーゲーム/鬼男 fin 2010.11.13 |