真実の光

突然後ろから誰かに抱きしめられた…いや、「誰か」と言うと語弊がある。

突然後ろから「彼氏」に抱きしめられた。
それは抱きしめというより私を縛る綱のように固く強い束縛のようで。
彼はあまりスキンシップをとる人間ではないので、つい他人事のような言葉が出てしまったのだ。

「曽良…?」

私を拘束する腕に手を重ね、曽良の顔が見えるように少し後ろを向くが曽良は私の肩に顔を埋めこちらを見てはいない。

「曽…」

「声を聞かせてください…貴女の声を。」

微かに震える声で囁かれ背筋が震えてしまう。

「貴女の声が聞きたい」

まるで壊れたカラクリのように何度も何度も同じことを繰り返す曽良。

「曽良?」

理由はわからないが曽良が望むなら叶えてあげたい。私の喉が潰れるまで彼の名前を呼び続けてあげよう。
重ねた手に力を込めて彼の名前を呟くと、よりいっそう強く抱きしめられた。

「僕は…」

ようやく別の言葉を紡いだ曽良の口から溢れ出たのは悲しい色をした言葉達。

「僕には何が正しいのかわからない。貴女への愛も…貴女からの愛も……」

そこまで言うと曽良は言葉を詰まらせてしまった。
曽良が生み出す沈黙が私たちの時を止めてしまうような錯覚。

「この温かい光のような日々全て幻なのではないかと思ってしまう。」

曽良の言葉は耳から侵入して私の脳を理性を溶かしてしまう。

「私は曽良を愛しているよ。」

「…。」

「そして、曽良の愛はちゃんと私に届いてる。」

甘えるように彼の頭に自分の頭を擦り寄せれば、少しだけ曽良との距離が近くなったような気がする。

「幻なんかじゃなくて…この体温も全て現実。」

肩に顔を埋める曽良に手をのばし、子どもをあやすように何度も頭を撫でた。
すると曽良は私を抱きしめた腕を解放して、ゆっくりと私から離れていく。

「曽良?」

振り向いて曽良を見上げると目を赤く腫らせた曽良が私を見つめていた。

「曽良…。」

今度は私から曽良を抱きしめる。曽良は何も言わず私を受け止めてくれた。

「ねぇ、曽良。」

「…何でしょう。」

抱きしめる腕に力を込めると、曽良もまた私を強く抱きしめてくれる。
でもさっきのような束縛するような抱きしめ方とは違うような気がした。

「私はずっと曽良の中にある悲しみを溶かしていく光になるから…」

「………!」

「だから、もう幻なんて言わないで。」

「ありがとう、ございます。」

弱々しいお礼の言葉が私の耳に響く。
しかし、その声には悲しみの色は殆どなかった。




















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真実の光/曽良
fin
2010.08.29
(2010.08.29〜2010.11.02)

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