TRICK and TREAT 「あ、こんにちは曽良く…兄さん」 今日は久しぶりに芭蕉さんの家で句会があるので弟子である私たちは芭蕉さんの家に集まっている。 芭蕉さんは私の俳句の師匠であり、学校の担任だ。だから休日まで会うのは変な感じがする。 「昨日ぶりですね、なまえ」 「あはは、それ芭蕉さんにも言ってね」 曽良君も同じ学校に通っていてしかも同じクラスなので必然的に毎日顔を合わせていることになる。 クラスで会うときは「曽良君」だけど、俳句の世界では曽良君の方が長いので「曽良兄さん」と呼ばないといけないのがめんどくさい。 「そういえば、今日はハロウィンなんですよ。なまえは知ってましたか?」 「え?ああ…知ってますけど」 それが何か?という意味合いを込めて首を捻ると曽良君は右手を私に差し出した。 「TRICK and TREAT」 「なんかセリフが違う気がする…」 「いいから早くお菓子を出してください」 甘いものが好きな曽良君は舌打ちをしながら私に催促をする。 ハロウィンなんて子どもっぽい行事楽しむのなんて芭蕉さんくらいだと思ってたら、曽良君もやるのか。 そんなことを考えながら鞄を漁る。 「はい、どうぞ」 差し出した右手に飴とチョコを数個置いた。 「これだけですか」 「…何か文句でも?」 「少ないです」 ここは「いいえ、なんでもありません」って言って遠慮するもんなのに…遠慮を知らない人だな。 私は渋々鞄の中にあるありったけのお菓子を曽良君に渡す。 「これで全部です」 「では、いただきます」 曽良君は手に置かれたお菓子を自分の鞄にしまうと、飴を一つだけ取り出して口に放り入れた。 ああ、その飴高かった気がする。美味しいんだよね。 「曽良、兄さん!TRICK or TREAT」 甘い香りが伝わる。私もお菓子が欲しくなって曽良君に催促をした。もともと私のお菓子なんだから一つくらい私にくれてもいいと思う。 曽良君は私を見つめた後、足を止めた。私も一緒に足をとめる。 「いいですよ」 「え?本当に!?」 期待に目を輝かせて手を出すと、その手を引かれ曽良君の胸に飛び込むこととなった。 「ちょっ…曽良く……」 慌てふためく私を余所に曽良は、私の顎を捕らえそっと口づけをした。 「!!」 曽良君は驚いて硬直する私の唇をこじ開け、曽良君が舐めていた飴を入れた。 口の中に甘い味が広がる。 「はい」 飴が私の咥内におさまると曽良はあっさりと私から離れていく。 「…はい?」 私は甘い飴の味と曽良君の香りにくらくらして曽良君の唇をただ眺めていた。 「悪戯です」 「いたずら…」 そういえば“TRICK and TREAT”って言っていたな、なんて思考を張り巡らせる。 「足りませんか?」 私の視線の先に気付いていたのか、曽良君は口角を上げ再び私に近寄ってきた。 「いやっ、足りました!もう十分…」 後ずさる私を捕まえてさっきと同じように曽良君は私を胸に引き寄せる。 思わず体を固くする私の耳元でそっと囁いた。 「冗談です」 「へっ…」 離れていく曽良君はいつも通り冷ややかな雰囲気だったが、目が楽しそうに笑っている。 「さ、そろそろ行きましょう」 「曽良…くん?」 「どうしましたなまえ、遅れますよ」 少しずつ遠ざかる曽良君は鞄から新しい飴を取り出して口に放り投げた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ TRICK and TREAT/曽良(現代) fin 2010.10.31 |