早朝の秘密話

太陽の光からもう起きる時間がきたことを体が感じ取りなまえは徐々に覚醒していく。
朝食を作り芭蕉を起こすといういつもの作業を熟さなければ、と頭の片隅でこのあとの行動を思い浮かべた。
しかし、布団から出たくない。
何でこんなわざわざ寒い中に自分の身を投じないといけないのか。
すっかり目が覚めた今では布団の中にいても寒いような気持ちになってしまいなまえはゴソゴソと足と足を擦り合わせた。
しかし、冷たい足同士では暖かくなるどころかますますなまえの体感温度を下げるばかり。
ふと隣を見ると気持ち良さそうに眠る芭蕉がいる。幸せそうな表情にあちらの布団の中は自分のよりも温かいのではないかとなまえは思った。

「……………。」

ゆっくりと上半身をあげ、芭蕉の布団に近づいていく。布団から出ると朝の冷たく渇いた空気がなまえの体を包み込み小さく震えてしまう。
なまえは気配を殺し、背を向けて眠る芭蕉が起きないように気を遣いながら素早く布団に潜り込んだ。

「………………はぁ。」

布団の中は考えていた以上に温かく感じた。そして布団の質がいいのだろう触り心地がいい。
肌触りと温もりの良さになまえの口から安堵の息が漏れる。
また布団から持ち主の香りがして、まるで芭蕉に抱きしめられているように感じなまえは一人で悶えていた。

「…………ん」

その気配を感じ取ったのか芭蕉はゆっくりと寝返りをしてきた。
なまえは芭蕉とぶつからないよう体を移動させたが、その衝動で芭蕉の目が開いてしまった。

「…、ぅあ………なまえ…………ちゃん?」

「お、おはようございます。」

もはや逃げ場はなくなまえは笑顔で芭蕉に挨拶をする。

「えっ!?な、に………うわわ……寒っ!!」

突然の事に寝ぼけた頭がついていくことができない芭蕉は驚いて体を動かした。
その途端布団が動き中の暖かい空気が隙間から漏れていく。

「やー、そんなに動くと暖かい空気が逃げちゃいます」

なまえはそういいながら芭蕉の体を押さえ付けた。

「………!」

「………」

二人がじっとすることで布団の空気は再び暖かくなり二人の体を優しく包み込んだ。

「ね?暖かい。」

「う…うん。」

完全覚醒した芭蕉はお互いの距離が近いことに戸惑った。何よりも寝巻姿で同衾というなんとも爽やかな朝には似合わない状態がより芭蕉を混乱に追い込んでいた。
そんなことを知らないなまえは暖を求め無防備に芭蕉に擦り寄ってくる。

「なまえ、ちゃん。」

「ふぁい?」

暖かさと心地よさに包まれることで、忘れかけていた眠気を思い出し始めているなまえはウトウトと眠りの世界へ旅立とうとしていた。

「ちょっ…何寝てるの、ほら起きよう?」

芭蕉は上半身を起こしなまえの肩を揺らした。

「やーだー」

眠りを妨げる芭蕉の手をなまえは払い、もぞもぞと布団の奥へと潜っていく。

「私も起きるから、ね?」

「…………。」

いつまでも抵抗姿勢だったなまえだったが、芭蕉の優しい呼び掛けに頭をあげた。

「ほら、起き…どわっ!?」

芭蕉が油断したころになまえは芭蕉の裾を引っ張り布団の中に引きずり戻した。

「駄目です。芭蕉さんがいないと寒いじゃないですか。」

「いや、だだだから一緒に起きよう?」

ますます密接する体に芭蕉は心臓が飛び出るのではないかと思うほど緊張している。
少しでも離れようと試みるがなまえがそれを許さない。
それどころかなまえはついに芭蕉の胸にすっぽりとおさまってしまった。

「なまえちゃんっ!」

「芭蕉さんは…芭蕉さんは、私と一緒に寝るのが嫌なんですか?」
恐る恐る自分を見上げる瞳。芭蕉はなまえのこれに弱い。

「〜〜〜!」

「私は芭蕉さんともう少しだけこうしていたいです。」

控え目に芭蕉の服を掴む小さな手に胸を打たれ、芭蕉はついに折れて自分にしがみつくなまえを優しく包み込んだ。
密接することでお互いの体温が伝わりあいなまえはますます幸せそうに微笑んでいる。
その幸せそうな表情に芭蕉の頬も緩んでしまう。

「ふふ、芭蕉さんの心臓の音がする…」

「う、うるさいかな?」

「ううん、心地いいです。」

二人だけに聞こえるよう小さな声で囁き合えば、お互いその声を逃すまいとさらに近くなっていく。
その光景は布団で暖を求める恋人ではなく秘密を共有し合う恋人のように見えた。

























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玲音さんリクエスト
早朝の秘密話/芭蕉
fin
2010.10.01

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