*独占欲 「何処にも行くな。」 そう言って私を抱きしめる太子の声は震えているような気がした。 「私の視界から消えないでくれ。」 まるで母親から離れるのを嫌がるような子どものような、そんな言い方。 見上げるとそこには今にも泣き出しそうな顔をしている。 「太子には馬子さんもいるし妹子も竹中さんも調子丸も…女中さんもいるじゃない。私なんかがいなくても平気だよ。」 子どもをあやすようにゆっくり背中を撫でてあげると、太子は必死に首を降る。 「どんな人もなまえの代わりにはならん。」 そう言うと太子はよりいっそう私を強く抱きしめた。 私が逃げないように、二人が溶け合ってしまうほどに。 「私はなまえにとってそんな男にはなれないのか?」 不安そうに言う姿にはいつもの自信溢れる太子の面影は見つからなかった。 「そんなことない。」 「なら、私から離れないでくれ。」 隙間も見当たらないくらい私と太子は密接しているのに、それでも不安なのか太子はもっと強く抱きしめた。 「……うん。」 太子の切なそうな声に不覚にもときめいてしまった私は今日もまた光の当たらない狭い檻のような世界に閉じこもる。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 独占欲/太子 fin 2010.09.21 |