赤い糸の先には この小指から出ているであろう赤い糸とやらを見てみたいと思うのは私だけではないはず。 私はそう考えながら机に肘をついて自分の小指とその奥にいる男子の姿をじっと眺めた。 たぶん、きっと…いや、絶対! この小指からあの人に向かって赤い糸が延びているんだ。 「何をしているのですか。」 冷たい声が脳みそに鳴り響く。 私はびっくりして私の小指とあの人とぴったり合っていた焦点をずらしてしまった。 「あああ。その声は、か…河合君ですか?」 そこにはクラスの女子どころか学校中の女の子の憧れの的である河合君が立っていて、私を見下している。 この河合君は怖いし、周りのファンの人も怖いし…何より目立つから関わりたくはない人物。 それなのに河合君は何かと私にちょっかいを出してくる。 「そうですけど、そんなことより僕の質問に答えていただけます?」 ますます冷たくなる声に私はビクビクしながら答えを考えた。 周囲から痛いくらいの視線(主に女子)を浴びている自分、可哀相。 で、河合君の質問はなんだったか。 私が何をしているかってことか…何って小指から延びる赤い糸の事を考えてるわけで、でもそんなメルヘンで子どもっぽい事言ったら河合君はまた見下した目で私を見るに決まってる。 ていうか、河合君は何で私なんかに声をかけてくるのか…私のときめきタイムを邪魔しないで欲しいよ。 もしかして私の事が好きなのか、チクショー! 「自分の世界に入り込まないでください。」 「うぇっ!?」 私の頭をわしづかみにして、無理矢理視線を合わせられれば、そこにはいつも通り冷たい目をした河合君が私を見下していた。 恐怖心からなのか河合君の持つ不思議な力のせいなのか背筋に汗が流れていく。 「あのっ、つまり…私の小指はメルヘンで……そこから出る赤い糸はどこに繋がっているのか気になって、でも、河合君は散々私を馬鹿にするけど私の事が好きなのかなって考えてました!」 ごっちゃになった頭で一生懸命文章を作ったが、小学生ですか自分。 ああ、きっと河合君の視線は芭蕉先生の言葉を使うとシロップのかかっていないかき氷のような視線になっているに違いない。 恐る恐る視線を上げると、そこにはさっきと代わらない河合君がいた。 「……河合君?」 「えぇ、好きですけど。」 そういうと河合君は私の頭から手を退かし、その手で私の顎を捕らえた。 その手つきはまるでドラマや映画のラブシーンみたい。 教室から悲鳴に似た声が上がり、耳を通り過ぎていく。 「だから、なまえが他の男を見つめているのが気に食わないのです。」 「え?はっ??」 悲鳴の中にぽつりと響いた河合君の落ち着いた低い声。 そんな色っぽい声を聞かされたら不覚にもときめいてしまうじゃない。 「まさか鈍い貴女に気付かれているとは夢にも思いませんでしたが…。」 一瞬河合君は視線を反らしたがすぐに私の視線と合わせて少しだけ笑ったような気がした。 「そんなわけで、僕の彼女になってください。」 そういうと河合君は私の手をぎゅっとにぎりしめた。 なんて河合君らしくない事をしてくれているんだ、私の脳みそはショート寸前ですよ。 「あ、いや…でも私の赤い糸は河合君に繋がってないかもしれないじゃん。」 遠回しにお断りの言葉を述べると、今度こそ河合君は笑って見せた。 「何を言っているのですか、ちゃんと繋がっているじゃないですか。」 そういわれ、河合君がにぎりしめていた自分の手を見るとそこには小指からキラキラと輝く赤い糸。 その糸の先には… 「………河合君だ。」 「文句は無いですよね?」 冷静に考えれば子供だましなのに、今の私にはこの糸はまるで運命の糸のように見える。 そこに持ってきて“NO”とは言わせぬ河合君の眩しい微笑みに私はただ頷くことしか出来なかった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 赤い糸の先には/曽良 fin 2010.09.14 |