目の前の扉の奥にいる人間の少女なまえはちょっと変わっている。
先日死んだばかりのなまえは、天国行きを嫌がり鬼になることを望んだ。
前例の無いことだったので僕も大王も驚いたが、なまえは嬉しそうに笑う。

今日は、そのなまえが鬼になるために大王と契約をする日である。
大きな扉の向こうには大王となまえがいる。
鬼になったら、朽ちない体の代わりに永遠に大王の元で働かなくてはならない。
しかも、二度と現世に生まれることは無く、良い事等何一つない。

僕は何度もなまえに天国に行くよう言ったが、なまえは僕の心配をよそに笑うだけ。
それどころか

「私が鬼になって一緒に働くのは嫌ですか?」

なんて言うもんだから、何も言えなくなってしまう。


どれくらいの時間が過ぎたのだろう?
僕の仕事も一通り終わった頃、扉から大きく欠伸をした大王が出て来た。

「あ、大王。」

僕が、お疲れ様です。と声をかけると、ニヤニヤ笑って

「何、なまえちゃんのことそんなに気になっちゃってたの?」

なんて言いやがったから、爪を出して脅してやった。

「あ、いや。うん。一応終わったんだけど…」

大王がそういうと、なまえが扉から出て来た。
その姿は契約をする前と何も変わらない。
角も爪もない、まったく変わらない。

「え?」

僕は思わず言葉を失ったように何も言えなくなった。
なまえは口を尖らせている。
たぶん不機嫌なのだ。

「閻魔様の馬鹿…。」

なまえは大王を睨みながら小さな声で言った。
大王は困ったように笑う。

「普通人間から鬼になることはないから、完全に鬼になれなかったんだよ。」

あやすように優しくなまえの頭を撫でて、いつものように裁きの机に座った。

「さて、オレは鬼の仕事はよくわからないから、後は鬼男君に任せたよ。」

そういって笑う。

めんどくさいことは、僕任せですか。

僕はため息をついて、まだ不機嫌そうななまえを連れて外へ出た。
なまえは自分の頭を摩りながら僕のあとをついてくる。

「ねぇ、角ってあとから生えてきたりしないんですか?」

余程角がなかったのがショックだったのだろうか?なまえは諦められない、といった目で僕を見つめた。

「ない、でしょ。」

僕がそう答えるとがくりと肩を落し、俯いた。

「そんなに、角がほしかったの?」

落ち込むなまえに問うと、なまえは頭だけ縦に動かした。
本当に変な子だな。

「でも、角が無い方がいいよ!」

僕はなまえを励まそうと思って、そう言った。

「どうしてですか。」

なまえの表情には昨日までの笑顔はなく、怒ったような悲しいような…そんな顔だった。

「えーっと、」

咄嗟に言ってしまったので、この先の事を考えていなかった。

「ほら、ないじゃないですか。」

なまえは再び顔を伏せる。

ふと、先程の大王となまえのやり取りを思い出して、僕はなまえの頭に手を置いた。
なまえが顔をあげると、わしゃわしゃと撫でてやる。

「ちょっ…!」

なまえは制止の言葉を述べたが、僕は止めずに言った。

「こうやって、頭を撫でやすいだろ!」

ニッと笑いながら言うと、なまえは驚いたような顔をした。
次第にその顔が赤く染まる。

「馬鹿!」

そういうと、僕の鳩尾に重い一発を決めてどこかに行ってしまった。






大王のときは怒らなかったのに、本当に変わった奴…。



















―貴方とお揃いがよかったの!














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鬼男/角
fin
2009.10.27

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