距離 僕と君の距離はあと15センチ。 僕はごくりと生唾を飲み込んだ。 目の前には仕事の愚痴を零すなまえ、僕は話しを聞くふりをしながら目線を下げる。 そこには無防備にさらけ出された左手。 右手は思い出したようにひらひらと動かしたりお茶を持ったりしている。 僕は自分の右手をゆっくりとなまえの左手に向かって移動させていく。 あと10センチ…! 「どう思う!?妹子。」 突然そう聞かれて、びくりと肩が跳ねてしまった。 その反動で近づいた手がまた離れてしまう。 「え?ああ…うーん。」 僕が答えを濁すとなまえはつまらなそうな顔をして小さくため息をつく。 「ま、妹子ならそう言うと思った。」 一通り話しが終わったのか、なまえは残りのお茶を飲み干して立ち上がった。 もう少しで触れられたはずの手があんなにも遠くに行ってしまう。 僕は咄嗟に手を延ばし、なまえの手を握ってしまった。 「何?」 その行為をなまえは引き止めだと思ったらしく、僕の方をじっと見つめている。 「あ、いや…なまえ。」 恥ずかしくて、顔が赤くなってきたぞ。 「その…仕事が嫌なら、さ。」 僕は視線を散々泳がせて、結局俯いた。 「うん。」 「僕の…お、お嫁さんになればいいと、思う。」 恐る恐る視線をあげると首まで赤く染めるなまえ。 微かに震えているように思える。 「…………。」 「あ…勿論これは一つの案だよ?他にもいろんな方法があると思うし…!」 沈黙が怖くていろいろと言い訳を喋っていると、なまえが口を開いた。 「……そうね、その案も方法の一つに付け加えておく。」 「う、ん。」 真っ赤になった顔を隠すように僕は俯き、なまえは上を向く。 気まずくなってなまえの手を解放しようと力を緩めると、なまえが僕の手を強く握った。 「妹子、その…ありがと。」 見上げると嬉しそうに笑うなまえと目が合って、僕まで嬉しくなってしまった。 僕と君の手の距離0センチ。 ついでに心の距離も0センチ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 距離/妹子 fin 2010.08.08 |