非日常を日常に 最近僕は天国に行くことが日課になっている。 理由は大王が見回りをしないとか、大王が仕事をしないとか…いろいろあるけど大きな決定打は一つ。 「鬼男さん。こんにちは。」 今、僕に声をかけてくれた木陰に腰掛けてニコニコと微笑む少女に会いたいから。 「こんにちは。なまえさん今日もひなたぼっこですか?」 なまえさんは最近ここにやってきた魂だ。 まだ生きていた頃の記憶もはっきりしていて僕に現世の話をしてくれる。 僕は偶然を装って挨拶をしてなまえさん近づいた。 「はい。今日も天気が良いのでひなたぼっこです。鬼男さんは見回りですか?毎日ご苦労様。」 僕を労ってくれているのかなまえさんは頭を軽く下げてくれた。 艶やかな髪がさらさらと流れ、僕の目はそこにくぎづけになりそうになる。 「い、いえ!これも仕事ですから。」 「鬼男さんは真面目ですね。少し休憩ってことで私とお話ししませんか?」 ぽんぽんとなまえさんは隣の地面を叩きながら微笑んだ。そこに座れという意味だろう。 僕は一瞬考えたふりをしてから笑って見せた。 「…そうですね。」 ドキドキと高鳴る胸の音が伝わらないように、少しだけ距離を置く。 木漏れ日が僕を照らす。 眩しくて目を細めるとなまえさんの手が僕の服の袖を引いた。 「そこじゃ眩しいですよ、もう少しこっち。」 確かに太陽の木漏れ日が僕の顔に当たっているが、これ以上近寄るのは恥ずかしい。 しかし、僕の緊張に気付いていないなまえさんは更に服の袖を引く。 「ね?もう少しこっち来て。」 僕は存在し始めてから初めて自分の肌の色が濃くてよかったと心から思った。何故なら顔が赤く染まっていくのが自分でもわかるから。 たぶんなまえさんには僕の頬に熱が集まっているなんて気付いてないだろう。 「は、い…失礼します。」 恐る恐る近くで腰掛けると心臓が馬鹿みたいに高鳴っている。 ドキドキと心臓が耳元で鳴っているような錯覚に陥った。 「鬼男さん?」 体を固くする僕を見て不思議に思ったのかなまえさんは僕を真っすぐに見つめていて、僕もなまえさんから目を離せなくなってしまった。 「あのっ…なまえさん!」 緊張のせいなのか自分で何をしているのかわからないくらい混乱している。 自重してくれ僕の口! 「?」 突然のことなのにちゃんと僕の次の言葉を待ってくれるなまえさん。 「そっ…その、いや…つまりあれです。」 今僕の動きに音を付けるならギシギシとかギギギ…みたいな機械音がよく似合う。 なんて冷静に考えている自分もいるのに実際の僕は緊張しすぎてみっともないダメ鬼だ。 「……あ……っ天国には、慣れましたか?」 やっとのことで搾り出した言葉はこれだった。 言い終わってからがっくりとうなだれたかったが、なまえさんの視線があったので僕は懸命に笑顔を作る。 「はい、おかげさまで。」 「それは…よかったです。」 嬉しそうに笑うなまえさんにつられて作り笑いから心からの笑顔にかわる現金な僕。 しかし、次の瞬間頭が真っ白になるような言葉をなまえさんはくれた。 「これも全部鬼男さんのおかげですよ。」 「そうですか…って、僕っ!?」 「はい。鬼男さんが天国の案内をしてくれたり私のつまらない話しに付き合ってくれたからです。」 ありがとうございます、と頭を下げられてしまい僕はただ慌てることしか出来なかった。 「これからも忙しいでしょうけど、こうして鬼男さんと一緒にお話しとかしたいですけど…どうでしょうか?」 控え目だけど決して僕を離さない瞳、僕はごくりと生唾を飲み込んだ。 「もももも勿論です!なまえさんのためなら毎日でも来ます!」 勢い余ってなまえさんの手を掴んでしまったけど、笑顔でごまかしておこう。 なまえさんはびっくりしたからなのか白い肌を赤く染めている。 「ありがとう。」 はにかむなまえさんは僕の手を優しく握り返してくれた。 「これからもよろしくね、鬼男さん。」 「こちらこそ、よろしくお願いします!」 これからは大王のサボりを言い訳にしないで堂々と天国の門をくぐれそうだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 非日常を日常に/鬼男 fin 2010.07.28 |