眠り姫へ ※「昼休み」「幼なじみの弱点」の続きのようなものですが単品でも楽しめます。 お茶を準備する、という僅かな時間。 そう僅かな時間だと妹子は思っていたが、幼なじみのなまえにとっては違ったらしい。 「男の部屋で寝るかな、普通…。」 彼氏の部屋ならまだしも妹子となまえは友達よくて幼なじみの関係だ。 無防備に寝顔を曝すなまえは安らかで、でもどこかマヌケ面。 それでも愛しいと思ってしまうのは、自分が彼女に恋い焦がれているから。 「なまえ。」 念のため声をかけてみるが反応はない。 「熟睡…か。」 信頼されているといえば聞こえはいいが、要するに自分は男として見られていないという証拠。 妹子は持ってきた飲み物を机に置いて、なまえが眠るベットの隣に腰掛けた。 耳を澄ませば規則正しく繰り返される寝息が聞こえる。 このまま寝かせてあげるのが優しさか。 はたまた欲望のまま彼女に覆いかぶさって、あの柔らかそうな唇を奪い自分は男だと証明して見せるのが正しいのか。 暫くはそんな葛藤をしながら横目でなまえの寝顔を見ていたが、雄の本能には逆らえず静かに立ち上がった。 「なまえが悪いんだ。」 そう小さく呟いて自分を正当化した。 なまえの顔の横に片方の手を置いて顔を覗き込むと心臓がドキドキと騒ぎだす。 もう片方の手で柔らかな頬を包み込むと、なまえは小さく動いた。 「…なまえ。」 これが最後の呼び掛けだ、と決めて声をかける。 目を覚ましてほしいと思う良心と、目を覚ましたらなんて言い訳をしようと焦る小心者の自分。 しかし、結局小さく動いただけであとは何の反応もなかった。 「……。」 妹子は心を決めてゆっくりとなまえに近づいていく。 近づけば近づくほどなまえの匂いが強くなり、心臓どころか体中が熱くなっていくような感覚に陥った。 あと、数センチで二人の距離が無くなる。 そこで妹子の体は止まった。 「…………はあ。」 今ここでなまえにキスをしたとして、自分と彼女の関係は何か変わるのだろうか? そう考えたら急に今の行為が虚しくなっていく。 妹子はベットから下りて熱くなった体を静めるため持ってきたお茶を一気に飲み干した。 お茶と一緒に自分の欲望が喉の奥に流れていく。 「今日こそ告白して…それからキスしてやる。」 コソコソするのは好きではない、だったら真っ向からぶつかってやろう。 妹子は掌をにぎりしめて決意を固める。 それから、すやすやと寝息を立てるなまえをたたき起こした。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 眠り姫へ/妹子 fin 2010.07.22 |