キャンディ

「あー、腹減った。」

誰もいない生徒会室で閻魔はぽつりと呟いた。誰の返事もないかわりにグゥと腹の虫が鳴く。
時間的にはおやつの時間というべきか。

「やっぱりパンはダメなんだな…。」

机にある書類の上に頭を置いて昼間食べた惣菜パンを思い出していると、扉が静かに開いた。

「失礼しまーす、って先輩もう来ていたんですか。」

やってきたのは1年生のなまえ。
生徒会の紅一点だ。

「閻魔先輩が一番乗りなんて珍しいですね。」

「あー、うん。」

返事もそこそこに済ませると再び書類に頭を戻した。
なまえはいつもと雰囲気の異なる閻魔に首を傾げたが、仕事のために閻魔の後ろを通り自分の机へ向かう。
なまえが通りすぎると閻魔の鼻にふわりと甘い香が漂った。

「…ぶどう?なまえ、ぶどう持ってるの?」

クンと鼻を鳴らすと、確かになまえからはぶどうによく似た甘い香りがする。

「ぶどう?ああ、飴の匂いです。」

なまえが口を開くと甘い香りが強くなり、よく見ると赤い舌には確かに飴がある。

「オレにも頂戴。」

食べ物に瞳を輝かせる閻魔。
やっとこの空腹から解放されると希望に満ちた目をしている。

「いいですよ、ちょっと待ってください…」

なまえは手を鞄に入れて飴を探した。
しかし、飴が見当たらない。
確認のため中身を全て取り出してみるが、やはりない。

「あー、先輩…もうないですね。」

「うそっ!?」

「本当です。」

空腹の限界に近い閻魔は一瞬の希望を打ち崩され放心している。

「わ、私の食べてる飴をあげましょうか…なんちゃって。」

あまりにも惨めな様子の閻魔を和ませようとなまえは渾身のギャグを言ってみたが、それがまずかった。
その言葉を聞いて閻魔はゆらりと立ち上がりなまえのもとへ向かう。

「あ、の。先輩?」

無言のまま自分の前に立つ閻魔に若干の恐怖を覚えるが、笑顔のまま声をかけた。

「今の言葉取り消し無しだからね。」

閻魔の大きな手がなまえの顎を捕らえ、徐々に自分に迫ってくる。

「へっ…!?」

なまえは反射的に逃れようとしたが、閻魔の方が少し早く動いた。

「いただきます。」

「ちょ、まっ…んんっ!」

待って、というなまえの言葉は閻魔に飲み込まれてしまう。
唇を塞がれたと思ったすぐ後にはヌルリと生暖かい生き物のようなものがなまえの咥内に入り込んできた。

「ん…ふぅ」

ヌルリとした感触のものが自分の舌を絡め取り、その上にあった飴を溶かしていく。

「…ん、…っ…」

逃げようとして舌を引いても、どこまでも追いかけてきて飴を溶かす閻魔。
ついに苦しくなって閻魔の胸を数回叩くと、ゆっくりと離れていく。
そして、名残惜しそうに唇に触れるだけのキスを落してにっこりと笑った。

「ごちそうさま。」

そう言って悪戯に微笑んだ閻魔はなまえの頭をポンと撫でて自分の席に座った。

「その飴、けっこう美味しいんだな。」

ただ放心してしまっているなまえに構わず閻魔は続ける。

「また頂戴ね。」

勿論口移しで、と満足そうに笑う閻魔の言葉に状況を理解したなまえの声にならない悲鳴があがった。



















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キャンディ/閻魔
fin
2010.07.17

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