天の川を越えた先へ

「無限に広がる大宇宙」

玄関から意味不明な単語の羅列が聞こえる。
なまえはまさかと思い大急ぎで玄関へ足を運ぶと、そこには予想通り音信不通だった恋人が立っていた。
久しぶりに会った恋人は大きな笹を担いでいて。

「太子…?」

「邪魔するぞ。」

なまえの驚きに気付いていないのか、相変わらずのマイペースぶりを発揮してずかずかと家に入っていくとベランダにその笹を置いた。

「さて、準備できた。」

笹が倒れないように手摺りに紐で括りつけたりと手際よく準備を済ませる。
ぼんやりとその作業を見ていたなまえは作業が一段落したところで、ようやく声をかけることができた。

「あの…まさか七夕の、準備?」

「ん?ああ、今日は七夕だろ。」

未だに理解できていないなまえを余所に鞄から短冊やら七夕グッズを机に広げていく。

「あの、あのさ…」

あっという間に七夕色に染まった己の部屋に呆然としながらも太子に恐る恐る声をかけた。

「ん?これか。今日の夕飯だ。」

太子はそう言うと鞄から取り出した素麺をなまえに渡す。

「え、太子泊まってくの!?」

「何を今更、当然に決まってるではないか!」

フン、と偉そうに鼻を鳴らして笑う。

「ねぇ、ちょっと待ってよ…急過ぎてわけわかんない。」

なまえはそう言うと太子に恐る恐る触れた。
その温もりを感じたからなのか、なまえの大きな目から涙が溢れてしまいそうだ。

「今まで何してたの?何で連絡したのに返してくれなかったの?」

久しぶりに、本当に久しぶりに二人は会った。
今まではどれだけ仕事が忙しくても連絡だけは取り合っていたのに、数週間前からぱったりと取れなくなってしまったのだ。

「心配…したんだよ?」

搾り出したような細い声と溢れる涙がここ数週間のなまえの不安を表している。

「あー、それは私の部下が携帯を取り上げたから…。いや、そんなことはどうでもいいな。」

そう言うと太子はなまえの体を強く抱きしめた。

「不安にさせて悪かった。」

腕の中で震えるなまえの背中をゆっくりと撫でてやると、鼻を啜る音がした。

「なまえ、顔を上げんしゃい。」

その言葉に嫌々と首を横に振るなまえに、太子は無理矢理顔を上げさせる。

「や…今、顔が」

太子は涙で赤く腫れたなまえの瞼に何度も優しくキスを落とした。

「ほれ、せっかく久しぶりに会えたんだから顔を見せんか。」

真っ直ぐと自分を貫く視線に恐る恐る涙で霞む視線を絡ませて、改めて愛しい人が自分の目の前にいるのだと実感した。

「太子…。」

「なっ…泣くでない!」

一度緩くなった涙腺からはとめどなく涙が溢れてしまう。
なまえは再び太子の胸の中に崩れ落ちていった。



















「ね、もう仕事は大丈夫なの…?」

少し落ち着いたなまえが自分から顔をあげると、そこには困ったような表情をした太子がいる。

「いや、今が一番忙しいかもしれん。」

「なっ…なんで!」

確かに淋しかったが、仕事を放り出してしまうなんてとんでもない。
特に太子が大切な役職に就いていることを知っているだけに、なまえは血の気が引いていくのがわかった。

「空の上で織り姫と彦星が会ってるのに私たちが会えないなんて悔しいじゃないか。」

「なにそれ。」

「それに、仕事なんかよりなまえに会いたかったからな!」

雨が降ろうと槍が降ろうと仕事で部下が鬼のように怖くても…

「私はなまえと一緒にいることを大切にしたいんだ。」

太子は会えなかった日々を埋めるようになまえを強く強く抱きしめて、耳元でそっと囁いた。

「天の川なんて私の力で取り払ってやるさ。」





















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天の川を越えた先へ/太子
fin
2010.07.13

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