ギャップ たまに太子は私の知らない人になる。 本当に知らない人になるわけじゃなくて、太子の雰囲気が違う人のようでとてもかっこいいと思う。 たぶん妹子も竹中さんも調子丸さんも知らない太子の姿。 「た・い・しー!」 いつものテンションで太子の部屋に入ると、何の返事もリアクションもなかった。 私は慌てて自分の手で口を押さえゆっくりと部屋を見回してみると、予想通り太子は机の上に難しそうな本や書類を広げそれらと睨めっこしている。 「…。」 音を立てないように部屋を去ろうとすると太子が口を開いた。 「少し待ちんしゃい。」 「え…」 太子の方へ視線を移すと相変わらず机の上の書類と睨めっこをしている。 「すぐに終わるから」 そういうと、一瞬だけ私を見てふわりと笑う。 「あ。いいの?」 私が怖ず怖ず聞くと太子は器用に片方の眉を上げてみせた。 「嫌なら帰ってもいいぞ?」 「や、やだ。ここにいる。」 大人しく床に座ると、今度はニッコリと笑い再び机にある書類へ視線を落としてしまう。 今の太子にはこの静かな部屋も、難しそうな書類も全てが合っていて、私の心臓は馬鹿みたいに動いた。 しんと静まった部屋に私のドキドキと高鳴る胸の音が響かないかとハラハラしたが部屋に響く音は時々太子が紙をめくる音だけで。 太子にこんなにドキドキするなんて悔しいけど、本当にかっこいいんだから仕方ない。 でも、あと30分もすればいつもの太子になっちゃうんだろうし、このかっこいい姿を瞳に焼き付けておこう。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ギャップ/太子 fin 2010.05.28 (2010.05.28〜2010.07.10) |