特等席

昨夜夜更かしをして本を読んでいたせいか、どうにも眠たいなまえは目の前にあるクッションを抱き抱えて床に横になった。
本当は太子に会いに来たのに、珍しく真面目に仕事をしているらしくなまえは太子を見つけることが出来ず今に至る。

「うー…やばい、寝ちゃう。」

徐々に重たくなる瞼を開こうと声を出してみるが、瞼は言うことを聞かずなまえは眠りに落ちていった。

太子が部屋に戻ると、クッションを大切そうに抱きしめて眠るなまえが目に入った。
なまえが自分の部屋に侵入するのはいつもの事だし、特に咎めたりはしないが眠っているのは初めてで少し不思議な感じがする。
太子は隣に腰掛けるが、気配に気付かないのか余程深い眠りなのか目を覚ます様子はない。

「なまえ…起きんしゃい。」

太子はなまえの頬を撫でながら声をかけた。
その声と頬に与えられた刺激に徐々に覚醒するなまえ。

「ん…おかえりなさい。」

起きたばかりで舌足らずな喋りと眠たそうななまえの表情に、太子は頬が緩むのを感じた。

「何で私の部屋で寝てるんだ。」

頬を撫でていた手を額に移し前髪に触れると、なまえは気持ち良さそうな顔をする。

「太子を、待ってたんだけど…。」

「そうか。」

心地良さからなのかまだ眠たいのか、なまえの瞼が再び閉じていく。

「なまえ、また寝る気か!?」

「んーん。」

太子に指摘され、なまえはごまかすようにクッションに顔を埋めた。

「こらっ、なまえ起きんか。私がいるのだから寝るでない!」

再び眠りの体勢になったなまえを起こそうと太子は肩を叩いたり声をかけてみるがピクリともしない。
どうにかしてやろうとなまえが腕に抱くクッションを引っこ抜こうと試みるがびくともしない。
それどころか

「やだー。」

と言って抵抗までする始末。

「んなっ!私とクッションとどっちがいいんだよ!」

涙目になった太子が訴えると、なまえはめんどくさそうに顔をあげた。

「今はクッションがいい。」

「わ…私は聖徳太子だぞ!」

「偉い人なんでしょ。知ってる…」

顔をあげるのも億劫になったのかなまえは再びクッションに落ちていく。
しかし、太子はそれを阻止してなまえの顔を覗き込んだ。

「わかった、寝るのは良いがクッションは無しだ。」

「なんで?」

寝るのを邪魔されたなまえは怪訝そうな顔をする。

「そこは私のポジションだからな。」

「ごめん…キモいわ。あっち行って。」

「もー、なんだよ!一緒に昼寝してやろうと思ったのに!」

「怒んないでよ。」

「もう知らん!」

そう言うと太子は体育座りをしながらメソメソと泣き出した。

「んもう…。」

なまえはクッションを手放し、泣き出した太子に寄り添って小さな声で「ごめんね」と呟いた。
すると太子は、あっという間に機嫌をなおして寄り添うなまえを抱きしめる。

「クッションはもう使わない。」

「じゃあ、私を抱っこするか?」

太子に抱きしめられて、既に瞼を閉じてしまったなまえ。
無防備な顔にそっとキスを落とすとなまえは甘えるように背中に腕を回した。

「んー…太子が腕枕してよ。」

「そうか、それもいいな。」

二人して床に横になってお互いの体温を感じながら眠る。
これが二人の特等席。





















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特等席/太子
fin
2010.06.23

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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