晴れの作り方 どんよりと重たそうな雲。 その雲から落ちる雨はなんとも欝陶しい。 私は窓の外を眺めて小さくため息をついた。 何かあったわけでもないのだけれど、心が晴れない。 雨のせいかもしれないし遅れてきた五月病かもしれない。 こういうとき、部活に入っていればよかったと思うけど今更入部しても…と思ってしまい結局この心にかかる靄を振り払えずに教室に残る毎日。 「んーー…。」 長い時間同じ姿勢をしていたせいで凝った肩をほぐしていると、教室のドアが開いた。 「おや、なまえさんではないですか。」 聞き慣れた声がしたので振り向くとそこには同じクラスの河合曽良君がいて。 「曽良君じゃん。こんな時間までどうしたの?」 「僕は忘れ物をとりに…。」 「わざわざ学校まで戻って来たの?」 「いえ、僕は生徒会ですので。なまえさんはどうしたのですか?」 曽良君はそういいながら自分の机へ向かう。 「私は…わかんない。」 不思議だなぁ、なんて笑いながら言うと曽良君は忘れ物を持って私の隣の席に座った。 「何かあったのですか?」 とても真剣な目。 普段の行動を見てると冷たい人のように感じるけど、曽良君はいい人だと最近気付いた。 「ううん、何もないよ。」 「……。」 私の言葉に満足いかないのかその視線から解放してくれない。 「…でも、なんかもやもやするの。」 「もやもや…ですか?」 曽良君は私の言葉を復唱しながら首を捻った。 「そ。一体なんなんだろう。」 私以上に真剣に考えだした曽良君は数分考え込んだ後、私を見て笑った…ような気がする。 「もやもやを吹き飛ばすために何か新しい事を始めてはどうですか?」 「うーん、今更部活なんて入りたくないしなぁ。」 特技なんて持ってないし、なんておどけて笑って見せると私の笑いに合わせるように曽良君は目を細めた。 「では、部活ではなくて他の事。」 「他かぁ。例えば何かある?」 部活以外考えたことが無かった私は首を捻って考える。 「そうですね…。」 曽良君がオススメしてくれることって言ったら俳句かな。 芭蕉先生の弟子だとかで結構有名らしいし。 「僕の恋人、なんてどうです?」 「なるほど、曽良君の恋人かぁ…。」 さらりと紡がれた言葉に私は意味をきちんと理解できずに、ただ復唱をした。 しかし、言葉にして気付く。 「そそそ曽良君の恋人っ!?」 「はい。僕の恋人です。貴女の心に靄がかからないようにしてあげますよ。」 そっと握られる手。 そこから伝わる曽良君の熱に心臓がバクバクと鳴りだした。 「あ、はは。何か新しい冗談?」 握られた手を引こうとしたが、曽良君は解放してくれない。 それどころか手の甲にキスなんてしてくれちゃって。 「ーーーーーっ!!」 「僕は本気です。」 曽良君の熱い眼差しが私を射ぬいて、教室の空気が止まったように感じる。 動けなくなってしまった私を見て曽良君は静かに笑う。 「答えは急がなくていいです。」 握られた手が解放されて私は自由になった。 支えを失った私の腕は重力に逆らえずだらりと力無く肩からぶら下がる。 「あ…」 「明日、この時間にまた来ます。その時に聞かせてください。」 そういうと曽良君は忘れ物を持って立ち上がった。 目線だけ曽良君に向けると、今まで見たこともないような優しい顔をしている。 「では、また明日。気をつけて帰ってくださいね。」 私の手を握っていた手で私の頭を撫でると、一度も振り向かず教室から出ていってしまった。 心を落ち着けるために深呼吸をして外をみると、雨が止み雲の隙間から太陽の光が溢れている。 更に、私の心にかかった靄が晴れていることに気が付いてしまった。 「ふふっ、本当に靄が晴れてる。」 明日、この時間どころか朝一番に曽良君に答えよう。 私はドキドキと煩い心臓をそのままに鞄を持って家路についた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 晴れの作り方/曽良(学パロ) fin 2010.06.21 |