天体観測

「そうだ、なまえ。明日星の観察に行く?」

そういったのは私の近所に住んでいてしかも、私の家庭教師をしてくれている妹子兄ちゃん。

「…なんで?」

私は解き途中だった算数の計算式から目を離し、隣に座る妹子お兄ちゃんを見つめた。

「こないだ理科の天体がわからないって言ってたでしょ。その事を話したら明日僕の友達が天体観測しようって言い出したんだよね。」

「私なんかが言っていいの?」

「うん。ていうか、なまえのためにするみたいなものだから平気だよ。」

不安げに見つめる私の頭を優しく撫でてニッコリと笑う妹子兄ちゃん。
こうして私の生まれて初めての天体観測が決まった。




夜に外を出歩くなんて夏祭りとかそういったイベントでしかないから、私のワクワクはピークに達している。
公園までの見慣れた風景なのに、まるで別の道のようだ。
浮かれた私を見失わないように、妹子兄ちゃんは私の手をしっかりと握りしめてくれて。
妹子兄ちゃんの手の温もりが余計に私をハイにすることなんて、たぶん気付いてないだろうな。

「今日来る人って妹子兄ちゃんの高校のお友達?」

「友達と先輩。生徒会のメンバーなんだ。」

ふーん、と相槌をうちながら妹子兄ちゃんの友達を紹介してもらえるのが凄く嬉しかった。
お喋りをしながら歩いていたせいか、公園に着くともう人が集まっているようで。

「お、来た来た。」

「お待たせしました。」

最初に私たちに気付いたのは前髪を全て結っている人だ。
他の人は私服なのに、この人だけ何故かジャージ。
私が不審そうに見ていると、ニッコリと微笑んでくれた。

「私は聖徳太子だ、なまえ。」

初対面の人に名前を呼ばれ少し警戒して、妹子兄ちゃんの手を握っる。
すると、妹子兄ちゃんは私の不安に気付いてくれた。

「なまえのことは僕が紹介してあるんだ。」

「そ、そうなんだ。」

ホッと胸を撫で下ろすと妹子兄ちゃんは今日集まったメンバーを順番に紹介してくれた。

「今の人が会長の太子先輩だよ。あの人と同じ学年なのが、一人で望遠鏡を覗いてる人、あの人が閻魔先輩。」

妹子兄ちゃんの指す方を見ると、既に天体観測を始めてる人がいる。
私が視線を送るとすぐにその視線に気付き、手を振ってくれた。

「で、その望遠鏡を持ってきてくれたのが鬼男先輩。」

妹子兄ちゃんの視線に合わせると、背の高いちょっと怖そうな人がいる。

「よろしく、なまえちゃん。天体観測は宿題なの?」

「ううん。でも授業でよくわからなかったから…。」

警戒心丸だしの私を怖がらせないように鬼男さんは気を使ってくれる。

「勉強熱心なんだ。」

「えへへ…。」

少し会話しただけで見た目とは異なり優しそうな人だという雰囲気が伝わり私は安心した。

「あとは…ああ、あのベンチに座ってる人。あいつが僕の同級生の河合。」

よく見ると確かに公園の隅っこにあるベンチに一人座っている。

「河合が来るなんて以外だったなぁ。」

妹子兄ちゃんが呟くと太子さんが河合さんを呼んだ。

「曽良!そろそろ天体観測始めよう。」

河合さんはゆっくりとこちらにやってきて、私をじっと見つめた。
冷たい目が私を貫いたけど、不思議と怖くない。

「あの、こんばんは。」

「こんばんは。」

河合さんがこちらへくると、一人で望遠鏡を覗いていた閻魔さんも輪に加わった
ぐるりと見回すと自分よりも年上のお兄さんに囲まれてなんだか不思議な感じ。

「よし、みんな集まったな。」

太子さんはそういうと私を呼んだ。

「なまえせっかくだからこっちきてみんなに挨拶しんしゃい。」

「えっ!?」

「太子そんな無茶振りしないでくださいよ!なまえやらなくてもいいんだからね。」

妹子兄ちゃんは私を庇ってくれたが、せっかく私のために集まってくれたのにお礼の一つも言わないなんて失礼過ぎる。
私は太子さんの横に立った。

「あの、私はなまえっていいます。今日はよろしくお願いします!」

深々と頭を下げると太子さんが私の頭をわしゃわしゃと撫で、他の人達が拍手をしてくれた。
私は恥ずかしくて慌てて妹子兄ちゃんの後ろに逃げた。

「なまえちゃんは照れ屋さんだな。」

閻魔さんは妹子兄ちゃんに隠れる私を見て楽しそうに笑っている。

「で、天体に詳しい人っているんですか?」

和気藹々とした雰囲気をぶち壊す一言を述べたのは河合さん。
一瞬無言となり、お互いにその顔を見合っている。

「そんな事だろうと思いました。」

河合さんはそういうとため息をついて再びベンチまで行ってしまう。

「まぁ、折角望遠鏡を持ってきたし…なまえちゃん見てみなよ。」
「え、あ…いいの?」

「勿論!」

私は鬼男さんに呼ばれ初めて見る大きな望遠鏡に駆け寄った。

「えーっと…どうすればいいかな。」

鬼男さんは私のために望遠鏡の焦点を合わせようとしている。
すると、閻魔さんが口を開いた。

「鬼男君、それ位置とかずらさなくていいよ。」

「へ?」

「なまえちゃん、覗いてごらん。」

私は閻魔さんに言われたように覗いてみた。
望遠鏡を覗くと肉眼では見えないような星がキラキラと輝いている。

「わぁ…」

「そろそろ7月だし、一応天の川を中心にしといたんだ。」

「七夕って織り姫様と彦星様!?」

毎年七夕の日に空を見るけど、曇っていたりこんなふうに見た事ないから感動しちゃう。
望遠鏡から目を離し閻魔さんを見ると、閻魔さんは自慢げに鼻を鳴らす。

「そ、彦星ってのはアルタイル。織り姫はベガの事。そこにその二つは入ってるよ。」

「へぇー。」

私も隣にいた鬼男さんや妹子兄ちゃんも驚いているようだ。

「閻魔先輩が天文学詳しいなんて知りませんでした。」

「オレは鬼男君達の知らないところで頑張っているってわけさ。」

せっかく意外な一面を披露した閻魔さんだったが、今の一言で台なしだ。
閻魔さんは鬼男さんにどつかれている。

「いててっ、趣味程度だよ。たまに山とか海に星を見に行ったりとかするけど、今度なまえちゃんも行く?」

「えっ、あ。行きたい、です!」

まさか私に話題が来ると思わなかったのでびっくりして咄嗟に言葉が出ちゃったけど、天体観測って案外楽しいみたいだしいいかな。

「じゃあその時はまたこのメンバーで集まるか!」

太子さんは嬉しそうに笑う。
大きな声だったので河合さんにもちゃんと聞こえていたらしい、遠くから河合さんの声が聞こえる。

「めんどくさいので僕は呼ばないで下さい。」

「生徒会メンバーは強制参加だ!」

ベンチで発言をする河合さんの言葉を拒否して、次回の天体観測の予定が決まった。
妹子兄ちゃんも楽しそう顔をしてる。

「あのー…こんな時間に何をしてるのかな?」

聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
私達が振り向くと私の担任の先生が立っているではないか。

「まっ…松尾先生!」

「ってなまえちゃん!?ちょ、本当に何をしているの君達!」

こんなときに担任の先生に会うなんて最悪だ。
私は叱られることを覚悟していたが、松尾先生の後ろから河合さんが声をかけた。

「おや、芭蕉さん。貴方こそこんな時間に何をしているのですか。」

「え?そ…曽良君?」

「芭蕉先生!」

「あれっ、妹子君に太子君に閻魔君!?」

「へぇー、芭蕉先生まだ日和小学校で働いてるんですね。」

「ああ、鬼男君もいるんだ。懐かしいなぁ。でも、なまえちゃんは何でここにいるの?」

松尾先生は再会を懐かしんでいるようだったが、私の方を見て少し不安そうに呟いた。

「私、妹子兄ちゃんのお友達と一緒に天体観測をしてるんです。」

「そっか、それはよかったね。」

松尾先生は叱るどころかニッコリと笑いながら受け入れてくれた。

「でも、高校生がこんな時間まで小学生を連れ回すのはちょっとなあ。」

「芭蕉先生、お説教してるとなまえが帰る時間が遅くなるから今日は見逃しんしゃい。」

「うーん、そうだね。次からはちゃんと保護者とか交えてやるんだよ。」

「はいはい。」

「ありがとうございます!」

「じゃ、みんな気をつけて帰ってね。」

松尾先生の出現により慌ただしい解散になってしまったけど、松尾先生が妹子兄ちゃんや他の人と知り合いだってことがわかったしいいかな。

「妹子兄ちゃん。」

帰り道も私は妹子兄ちゃんと二人で歩いた。

「今日はありがとう。」

「楽しかった?」

「うん!他のみんなにも伝えてね。」

「わかった。伝えとく。」

空を見上げると遠くで星がキラキラと輝いている。
私は次に開かれるであろう天体観測に期待をしながら家路についた。




















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亜梨沙様リクエスト
天体観測/オール(現代)
fin
2010.06.18

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