「……そんなに見られると、その…」 言いにくそうに山崎さんは手元に視線を落とした。 しまった、見つめすぎた……。 『いいこと?お茶を出したら早めに退室するのよ。気持ちを解した後は余計な振る舞いは逆効果。長居は無用ですわ』 失敗しました、伊東さぁん……。 わたしは心の中で泣きながら自分をたこ殴りし、平静を装いながら頭を下げた。 「っ、失礼しました。それではわたしはこれで失礼致します」 「あ、ああ」 怪訝顔の山崎さんに一つ、笑みを見せ、わたしは部屋を出た。 『其の二、度の過ぎない笑顔を絶やすべからず』 山崎さんの部屋を出て、厨の手前の角を曲がったとたん、一気に気が抜けてわたしはお盆を抱えて壁に額を押し当てた。 ちょっと失敗しちゃったけど、初めてまともに山崎さんと喋っちゃった!しかも部屋にまで入れちゃうなんて…。 「〜〜〜っ、幸せ…」 ぐりぐりと額を左右させながら、わたしはドキドキする胸にお盆を押し付ける。 ああやばいどうしよう、山崎さんと二人っきりに…。山、山崎さんと二人…。 あらゆる妄想がわたしの脳内を桃色に染めていく。 「……あ、そんな…、いけませんわ…山崎さん…」 「何がいけませんの?」 「ひっ」 いきなり真後ろからかけられた声に、わたしは驚愕して振り向いた。 「あ、伊東さん…」 「んもう、待てども待てども報告が無いから心配して来てしまいましたわ」 「あ…」 そうだ、緊張してがちがちのわたしの背中を押してくれた伊東さんに、終わったらすぐに報告に行きますって言ってたんだ…。 わたしは慌てて頭を下げた。 「す、すみません」 「何かやらかしたのかと懸念しましたが、どうやら取り越し苦労だったようですわね」 伊東さんは片手で口元を押さえてクスリと笑みを浮かべた。 「えっ?」 「良い顔をしていますわ」 伊東さんは目を細めながらよく手入れされた繊細な指先でわたしの頬を撫で、わたしはますます自分の頬が上気するのを感じた。 戻 * 次 |