「あの…、お茶を、お持ちしました」



山崎さんの部屋の前でわたしは襖越しに声をかける。



今日は泊まりの仕事から帰ってきて山崎さんは非番のはず。



いち早く山崎さんの帰りを伝え聞いた伊東さんが、朝早くわたしを叩き起こし、お茶の煎れ方を教えてくれた。



ドキドキとする胸を押さえていると、やがて襖が開いて、中から山崎さんが顔を出した。



「浅井君…」

「お仕事お疲れ様でした」

「あ、あぁ」



山崎さんは少し面食らったようにわたしとお茶を交互に見やる。



「どうしました?」

「いや…、俺に茶など…」

「皆さんにもお出ししましたから。山崎さんもどうぞ」

「そうか…、ありがとう」



山崎さんはやっと納得したように肩の力を抜いて、わたしを部屋に招き入れてくれた。



『其の一、安心させて笑顔で押し切る』



成功です!伊東さん!!



わたしは心の中でガッツポーズをした。





山崎さんの部屋の中はとても綺麗に片づいていて、足の踏み場もない新八さんの部屋とは雲泥の差があった。



部屋の一角には医学書の並ぶ本棚があり、薬草なども幾つか置いてある。



真っ直ぐ背筋を正して正座する山崎さんの前にお茶を置くと、山崎さんはありがとうと言ってゆっくりと湯飲みを手に取った。



湯気の立つお茶を、一口、二口…。



コクリと嚥下した山崎さんは、伏せていた顔を上げて息をついた。



白皙の頬が少し緩んで、心なしか雰囲気も柔らかい。



それがなんだか嬉しくて、わたしはほんわかした気持ちで山崎さんを見つめた。



「……」

「……」



いつも気を張りつめているみたいに鋭い空気を纏っている山崎さんを、こんな風に緩ませられるのは鯉だけじゃないはず。



わたしも、ほんの少しだけでも山崎さんを癒せていたらいいな…。



「……」

「……」

「……」

「……」

「……浅井君、」

「っ、はい」



不意に呼ばれ、わたしは内心驚きながら姿勢を正す。



山崎さんは膝の上まで湯呑みを下ろし、少し戸惑ったように視線を泳がせた。






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