「い、伊東さん…っ」



そこには、いつも独特の空気をこれでもかと醸し出している伊東さんが立っていた。



伊東さんはおもむろにわたしの両肩に手を置き、そのまま、ずいっとわたしの肩越しに中庭を覗き込んだ。



上品で奥深い伊東さんの香の香りがわたしの鼻孔を擽る。



「あら…、山崎君じゃありませんか」

「あ、あの…」



伊東さんはなにやら含みのある笑みを口元に浮かべ、真っ赤になったわたしに視線を戻した。



「ふぅん…、そういう事ですか…」



な、なにがそういうことなんだろう?わたしが山崎さんをストーカーしてたってバレた?恋してるってバレバレ?まさか…女だってバレちゃった?



どぎまぎするわたしの前で伊東さんは口元に片手を軽く当ててくすりと笑った。



「憧憬とは…、自らの心身を高める素晴らしい感情ですわ」

「…?」

「憧れの人にもっと近づきたいという貴方の気持ち、私は応援しましてよ」

「…は?」

「いつも土方君の側に居る貴方が山崎君に目を向けていたとは、少し意外でしたが…」



伊東さんは困惑するわたしの前で少し考えるようなそぶりする。



あ、憧れ…?



そうか、男の子が先輩の男性を柱の陰からこっそり眺めてるんだから、それは憧れ以外の何者でもないよね……、うん。



女だってバレたらここから追い出して田舎の自分の実家に送ってやるって土方さんに脅されているわたしは身バレしていないことにホッと胸をなで下ろす。



そんなわたしの肩に、伊東さんはポンと手を置いた。



「宜しい。私が山崎君と貴方がもっと近しくなれるよう、色々と指南して差し上げますわ」

「…え?」

「励みなさい、浅井君」

「えぇえええ!?」




伊東さんは眩しいくらいににっこりと微笑んだ。





終 / *
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