それからわたしはお決まりの詮議にかけられた。 重苦しい空気の中、未来からやって来たことの証明にボールペンや電子手帳や携帯電話を見せると、わたしの前に並び座る近藤さんはただただ目を丸くし、土方さんは眉間にぶっとい皺を寄せ、山南さんは困ったように微笑んだ。 行くところも帰る場所もないと切々と語れば、人情の人、近藤さんは心の底から同情した様子で屯所への滞在を許してくれた。 近藤さんが決めたことには異論を唱える気がないのか、土方さんも山南さんも渋々わたしがご厄介になることを了承してくれた。 初めは慣れないことばかりで戸惑ったけど、二ヶ月も経てば少しは勝手が分かるもの。 屋敷の掃除、朝夕の食事の手伝い、洗濯、それらを毎日男装でこなす。 一番困ったのは着慣れない着物だけど、着付けは嫌々ながらも土方さんがやってくれるし、四六時中それを着て動き回っていればだんだんと違和感もなくなってきた。 近藤さんの遠縁の子だと紹介されたわたしに、新選組の隊士の人たちも良くしてくれる。 「よし、綺麗になった!」 午後の掃除を終えて、わたしはいそいそと中庭へ向かう。 廊下の角からこっそり覗き込むと、中庭の池の前に山崎さんが一人で佇んでいた。 まだ肌寒い空気の中、ただ池の中を見つめている。 余程、鯉が好きらしい。 あの山崎烝が、土方さん以外に入れ込むものがあったなんて驚きだ。 非番の日の午後は彼はだいたいここに居て、日頃纏わりついた殺伐として澱んだ空気を禊ぐかのように、静かに水面を見つめている。 あの日、生きた彼の体温に触れた瞬間から、わたしは生身の山崎烝に恋をしてしまったようだ。 彼が屯所に居ることは稀で、あまり姿を見かけることもないから、土方さんに強引に取らされる非番はとても貴重。 明日からまた暫くお目にかかれない姿を、ここぞとばかりに凝視する。 彼は時折手の平の餌を池に落とし、ぱしゃぱしゃと音を立てる色とりどりの鯉を眺めていた。 「…っち、羨ましいな鯉…」 「舌打ちとは。貴方、見かけによらず柄が宜しくありませんのねぇ」 「ひぃっ…ぐ」 いきなり真後ろからねっとりとした口調で話しかけられて、わたしは驚きのあまり声を上げそうになって慌てて口を両手で塞ぐ。 そのまま恐る恐る振り向くと…、 戻 * 次 |