大切な事なのに、どうして肝心な言葉が出てこないの?



疲れて帰ってきた山崎さんを引き留めて黙り込むなんて、わたしはどれだけ山崎さんに迷惑をかけたら気が済むんだろう……。



なんで言えないの?
どうして何にも出てこないの?



不甲斐なさすぎる自分を、屯所の門扉にぶつけたい。



焦燥感と自己嫌悪で頭の中がぐらぐらと煮え立つばかりで顔さえ上げられない。



北風に煽られた忙しない篝火の爆ぜる音に、焦りだけが募る。





どれくらいそうしていただろうか……?



もう完全に混乱して頭から煙が出そうなわたしは、山崎さんが下ろしていた手を自分の胸元へ上げた衣擦れの僅かな音にはっと我に返った。



「……」

「……」

「……」

「……浅井君、」

「っ、……は、い」



山崎さんは少し困ったような顔をして、わたしをまっすぐ見つめた。



「あの後、身体は大事無かっただろうか?」

「―――っ」



沸騰していた頭に、一気に冷水を浴びせられたような衝撃を感じた。



「その…、相当酔いが回っていた様子だったので…」

「……」



わたしはあんな醜態をさらしたのに、山崎さんはわたしの身体を、心配してくれた。



あんなに迷惑なことをしたのに、山崎さんはそんなこと微塵も感じさせないで、ただひたすら気遣わしげに……。



「……」

「浅井君……?」



茫然としているわたしを心配そうに覗き込む山崎さん。



わたしは……



わたしは……



「っ…」

「!?」



気付いたら、わたしは山崎さんに背を向けて全力疾走で走り出していた。



「浅井君!?」



山崎さんの声が遠くに聞こえ、わたしはそれが届かない場所まで行かないと居ても立っても居られないという勢いで屯所の中を駆けて自分の部屋に飛び込んで押し入れの中に逃げ込んだ。



わたしは、わたしはなんて自分勝手なんだろう。



山崎さんに迷惑かけておいて、この数日、自分のことばかり。



勝手に傷ついた自分を慰めて護ることばかり考えて。



なのに山崎さんはわたしの事まで気遣ってくれて、さっきだって疲れているだろうに根気よくわたしが話し出すのを待ってくれて。



自分勝手なわたし。
優しい山崎さん。






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