心臓が、ドクンと波打って不規則に胸を叩く。 息苦しくて、声を聴いた瞬間に呼吸が止まっていたことにようやく気づいて口を開いたけれど、歪む動悸が邪魔してうまく空気が吸えない。 囃し立てるような鼓動がうるさい。 わたしはなんとか一つ息を吸い込み、それをこくんと飲み込んでからゆっくり振り向いた。 もうとっぷりと暮れた闇の中、門前の篝火に照らされたその人は、 「こんな時間にどうかしたのか?」 いつもと変わらない冷静な眼差しで、 「……なにか火急の用事でも?」 いつでも新選組の事を考えている。 いつもは夕餉の後片付けをしている頃で、戦う術など持っていないわたしが夜に屯所の外に出ているなんてことはまずないことで、だとしたら新選組に何かあったのではないかと、山崎さんは纏う空気をピンと張り詰めさせた。 山崎さんで頭がいっぱいの自分がみっともなく感じるくらい、この人は新選組の事だけを真っ直ぐに見つめている。 「浅井君…?」 返事をしないわたしを不審に思ったのか、山崎さんは怪訝そうにわたしを見つめた。 「あ、……あの、大丈夫です、何事もない、です……」 それだけ絞り出すように言うと、山崎さんは微かにホッとした様子で表情を和らげた。 ああ…、山崎さんだ…。 山崎さんの雰囲気がふと柔らかくなるこの瞬間がわたしの一番幸せな瞬間で、なんだかそれが物凄く久し振りに訪れたように感じて泣きそうになってしまって俯いた。 もっとこの空気を感じていたいけど、わたしはわたしの目的を果たさなければ……。 未だに震える膝を抑えるように腹部に力を込めて、何度も頭の中で繰り返し練習した言葉を伝えるため、ぐっと奥歯を食い縛って山崎さんを見上げる。 「あのっ……」 ガバッと顔を上げたわたしを、山崎さんはほんの少し不思議そうに見つめ返した。 「あのっ…」 言わなくちゃいけないのに、山崎さんの静かな瞳に見つめられると、何故だか言葉が出てこない。 「あ、の……」 勢いをつけたつもりだったのに悄々と気持ちが萎びて顔が下がっていく。 山崎さんはわたしの言葉を待ってくれているのに、伝えたいお詫びの言葉が出てこない。 戻 * 次 |