今日は山崎さんが屯所に戻ってくる予定の日。 これを逃したら、自分が情けなさすぎてもう二度と山崎さんの顔を真っ直ぐ見れない気がする。 本当に馬鹿なことをしちゃったけれど、ちゃんと山崎さんの顔を見て謝らなくちゃ…。 このまま山崎さんから離れてしまうのは、我慢できない―――。 わたしはバクバクする胸を押さえながら、屯所の門の前をうろうろと彷徨った。 もう陽はだいぶ傾いて、東の空には闇の帳が降りだした。 そこにはひときわ明るく輝く一番星。 冷えて冴えた空気の中に浮かぶその清廉な光があまりにも綺麗で、ちっぽけで浅ましい自分の愚かな過ちを恥じる。 ちょっと話せるようになったからって、ちょっと同じ空間に居ることが叶ったからって、距離が近づいた気になって、舞い上がったりして本当に馬鹿……。 あれから数日たった今でもあの時の山崎さんの困惑の顔と戸惑いの瞳、そしてあの言葉が鮮明に脳裏に浮かんで離れない。 『こういう事は…困る、』 山崎さんはあんな状況でもわたしを投げ飛ばしたりせずに気を遣ってくれていたのに、これは本当に身勝手な事とは分かってはいるけれど、拒絶されてしまったというショックが大きすぎて、今すぐにでも逃げ出したくなる。 この期に及んでみっともないと思う。緊張でガクガク震える脚も不安に怯える動悸も情けない。 また、拒絶されたらどうしよう…。 これは山崎さんが悪いんじゃない。わたしがただ一方的に好きなだけ。 なのに直接拒絶されるのは怖くて辛いだなんて、これはただの我が儘だ。 なんて自分勝手な女。 本当にイヤになる…。 どうしても俯いてしまうわたしの足元はもう真っ暗で、ますます心細さが募る。 山崎さんに会いたい、 でもどんな顔して会ったらいいか分からない… それに、もう夜になるのに山崎さんは帰ってこない。 もしかしたら今日はもう戻ってこないかもしれない。 ………そうだよ、今日はもう帰ってこないんだ。 逃げだしたい臆病な気持ちに都合のいい言い訳をつけて、屯所の門へくるりと身体を向けた瞬間、 「浅井君…?」 「――っ、」 今、一番恋しくて、一番聴きたくない声に呼び止められた。 戻 * 次 |