「新八さんてさ、何でいつもあの黒い手袋してんの?」

「えっ」

「えっ、じゃなくてさ、何でいつも手袋してんのかなって」



もえこに言われふと向こう側にいる新八さんを見遣ってみれば特に稽古をしているわけでも何でもなく、平助と二人で兄弟喧嘩のような戯れをしているのが眼に映った。

ぼうっとしながら何を考えているのかと思えば、考えもしなかったまさかの疑問。

そんなところ、素朴過ぎて気付きもしなかったなぁ、と少しだけ視線を向けて、それから今までの日常を思い返してみれば確かにと小さく頷いた。



「着流し姿も見ないよね」

「オフ用のね」

「いつもバンダナしてるし」

「この時代じゃ鉢巻かな」

「首のあれはおまじないに使う何かかな?」

「流石にそれはないでしょ」



上から下まで眺めてみれば疑問は更に増えていって、言い出したらキリがない。

だけどやっぱり最終的に目に付くのは黒い所為か、はたまた新選組内でも誰もしていない所為か、その手袋に目が行く、うちら風に言えばグローブだ。

鉢巻は気合を入れるためとか、髪の毛が落ちてこないようにとか色々理由付けは出来て、首のもお洒落だと思えば特に違和感は、ない、と思う。

でもそのグローブもとい、手袋は理由を考えても見当たる物はなかった。

滑り止めとかそういうわけでもなさそうだし、寧ろ邪魔なんじゃないかって素直に思ったり。

じゃあ、と考え付いたのはお洒落で、それを思ったと同時に頭にふっと浮かんだものがあった。

ものっていうか、ポーズっていうか、科白っていうか、何というか、



「ウィッシュ!」

「………は?」

「や、元総理の孫…いつもグローブしてるじゃん」



言いながら、胸元で腕を交差させ中指と薬指を折ってシャキーンと効果音が鳴りそうな俊敏な動きをやってみせれば、もえこは一瞬、きょとんと眼を丸くさせた。

それから理解に至ったのはすぐのこと、ぶっと噴き出すと同時に、座っている床板をバンバン叩いて、



「やめ、おま…やめて!想像したじゃんか、新八さんがウィッシュってやってるところ!」

「ロック散歩もね…」

「やーめーろーよー!」

「カックンカックン動くんだよ、うぃ〜とか言いながら」



ここまで来たら悪ふざけだ、調子に乗ってウィ〜なんて変な声を上げればもえこはさっきよりも声を荒げて笑いこけるし、こんなの、解る人じゃなきゃ解らないツボ。

一緒になってキャッキャと自重もなく笑い転げていれば、すぐ向こう側にいる新八さんと平助が何やら愉しげなわたしたちに気付くのは直ぐで。



「なーに笑ってんだぁ?随分愉しそうじゃねーか」



ゆっくりと歩を進めながらいつもの爽快感のある笑みで二人並びながら近づいてきて、だけどその表情を見てわたしたちは更に爆笑してしまったのだ。

別に新八さんの顔が面白いとかそういうんじゃなくて、ウィッシュというネタが面白いわけではなくて、ただ何となくなんだけど一度ツボった笑いは中々収まらない。

すぐ目の前で、そんな風に馬鹿笑いしているわたしたちを怪訝な顔をするわけではないのだけど不思議そうに見遣るから、わたしは仕方なく口を開いた。



「ね、ねえ、新八さん、手をさ、こうやってみて」

「ん、んん?こうか?」

「そうそう!シャキーンって感じで!」

「しゃき…ん?こうでいいんだろ?」

「ん、そう!」



断言するように言い放てば、自然とシャキーンとなる新八さんは凄いと思う。

それからさっき自分で言ったように言葉を少し大きめの声にして、言ってみてと教えると、特に疑いもなく彼はウィッシュと唱えてくれて、だけど、



「うぃっしゅ!………でいいのか?」



口調が完全にひらがなっぽさを残しているのと、あまりの違和感のなさに再び爆笑してしまいそうになったわたしたちは、息ぴったりとはこのことかと言わんばかりに超高速で頷いてみせる。



「いいっ!いいよ、新八さ…っ」

「言う割には笑ってんだが…何があるんだぁ、こりゃ?」

「違うよ、それは未来の世界での挨拶だよ…っ」

「本当かぁ…?じゃあもえこ、お前もやってみせろ、ほれ、うぃっしゅ!」

「……くっ、うぃ、うぃっしゅ!」

「挨拶なんだろ?もっと大きな声で!うぃっしゅっ!」



背景に煌く何かが見えたのは気のせいじゃない、はずだ、あれは確かに見えた。

それから新八さんはウィッシュが気に入ったのか解らないけれど、事あるごと決めポーズとしてそれをするようになり、いつの間にか新選組でウィッシュを知らない者がいなくなったとか。

またそれはもう暫く先の話なのだけど、あまりの似合いっぷりに、今度はロック散歩も教えてあげようとわたしは笑いながら心に決めた。

平助も何か教えてと言われたので、おっはーを教えたというのも、また別の話。





end
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