最近、斎藤さんの視線が痛い気がする、そう呟いたら、隣で団子を頬張っていた総ちゃんが何を今更と笑い声を上げてわたしは思わず俯いた。

すね毛事情を聞いて斎藤ビームを食らったあの日から早3日、わたしは一言も斎藤さんとまともに喋っていない。

そりゃあ挨拶くらいはする、おはようございますとかおかえりなさいとかそういう挨拶くらいはするけれど、わたしを視界に入れた瞬間のあの眼の細まり具合はその後のわたしの言葉を簡単に消滅させてくれた。

まあ自分が悪いのは百も承知してるけどね、してるけれど、実際そんな態度を取られてしまうとそこまで怪訝されるようなことをしたつもりはないと、自分のことを棚に上げて泣きたくなるのです。

大体すね毛を聞いたときだけじゃない、思い返せばやっちまったぜなことは他にもいっぱいあって、その度に3日くらいあの人はこうなる。

いつも通りと言えばいつも通りなんだけど、大体はやらかしてから暫くは気をつけようと言う気が自然に働くわけでこうして何事もなく生活が出来ている、のだけど。



「もえこが鬼畜なの」

「一くんのすね毛見てこいって言うんでしょ?」



話は既に聞いているのか、総ちゃんはぽつりと零すわたしの言葉に声高らかに返した。

そう、鬼畜なもえこは見れなかったというわたしの科白を聞いて、見れなかったじゃなくて見て来いよと背中を押すどころか蹴りを入れてくるのだ。

あたしだって土方さんのすね毛見せて貰ったんだからと、そう言った彼女の顔は正しくドヤ顔そのものだった。

というか、もえこは一体どうやってあの鉄壁の土方さんのすね毛を簡単に見ることが出来たのだろうとしつこく問えば、またしても見せるのはドヤ顔。

どうやらいちゃもんを付けたらしいのだ、最近脚を引き摺っていませんか、と。

怪我でもしてるんですかと問えば勿論そんな事実などない土方さんは気のせいだと返して、だけど食い下がり、でも引き摺っているように見えると更に言及したら自ら捲くって怪我なんざしてねぇと見せてくれたそうだ。

はっきり言おう、狡い、何と言う狡さだ、そんな方法があったことを教えてくれないだなんてもえこは狡い。

それに比べてわたしはどうだろう、何て言ったっけ?いやいや、忘れられるわけがない、渦巻いてるのか直毛なのかふさふさなのかとかアホ丸出しの問いをしてしまったと頭を抱える。

もえこに聞いて、よし、その手で行こうと一瞬思ったけれどダメだ、3日前の事実がある以上、斎藤さんはきっとわたしを警戒している。

それなのに聞いて来いよだなんて、もえこってば鬼だ、悪魔だ、ガクブルするわたしと斎藤さんの嫌がる対応を見たいがためにわざと言ってるに違いない。

またそんな風に蹴りを入れられているときに偶々総ちゃんに聞かれてしまったお陰で、こうして馬鹿にされているというわけだ。

あの日は本当に散々だった、近藤さんのお供から帰ってきた機嫌のいい総ちゃんに泣きついて、脚見せてと言ったら普通に見せてくれたから飛びついたわたしも悪い。

だけどそんなわたしを気持ち悪いだなんてあんなにもはっきり言わなくてもいいと思うの、あまりの綺麗なおみ足をちょっと指先で撫でただけなのに。

冷ややかな棘の斎藤ビームの後の冷ややかな錘の気持ち悪い、二度痛かったことは多々あるけれど棘が抜けないのは初めてだった。



「斎藤さんのすね毛とかさあ、もういいよね…脚はちょっと見たいけど」

「見たいの?」

「………見たい」

「みうこちゃんももえこちゃんも変わってるよね、どうして男の脚なんか見たいの?」



別に愉しさの欠片も見当たらないけどなぁ、そう言いながら食べきってしまった団子の串を皿に戻すと、口をもぐもぐとさせながら彼は空を仰いだ。

そりゃ総ちゃんから見れば男の脚なんか見たところで愉しくないだろう、わたしだって別に男の脚もすね毛も興味なんかない。

っていうか、どっちかっていうとわたしは漢って感じの人も毛深い人も苦手だし、毛なんか見たくない。

ただあの日は本当に暇過ぎて、偶々思い付いたのがイケメンたちのすね毛の濃度どれくらいだろうとかそんなくだらないことだったんだ。

もう3日も経った今、すね毛の話とか正直どうでもいいし、だけどどうでもいいと思う傍ら、確認出来ていないのが斎藤さんだけっていうのは何処か勿体無い気がして燻っている本音。

これが土方さんだったらきっと言うほど気になっていないはずなんだ、怖いし。

だけど斎藤さんだからどうしても、あの見えそうなのにいつも見えない着流しの中身が気になるのです。



「脚って言うか、斎藤さんの異様なまでの肌の露出の無さにこう、見たい気持ちが掻き立てられるのはあるよね」

「別にないよ」

「総ちゃんはね!でもわたしはあるの!斎藤さんの着流しの中にはネバーランドがあるんだと思う!」

「ねばー…らんど?何、それ?」

「夢の国ネバーランド!キラキラしてるの!子供の心を持った人にしか見えない国!」

「白い褌しかないよ、何言ってるの?」



冷静に突っ込まれると凄く恥ずかしくなるから本当に止めて欲しいのだけど、総ちゃんはこんなときばかり真顔で言葉を零す。

怪訝な眼でわたしをじぃっと見遣って、その顔は本当にくだらないとでも言いたげなそれだ。

だから本当はその白い褌こそがネバーランドであると言いたいところだけど、流石に我慢してみることにする。

まあ、そんな顔をしながらも、馬鹿だ阿呆だ貧乳だ気持ち悪いだと言いながらも、総ちゃんは普通にわたしをこうやって構ってくれるし特に気にしない。

思い返したら涙が出そうになっただなんてそんなの嘘!わたし、全然気にしてないんだから!

脚ねぇ、なんて言いながら温くなっただろうお茶を啜り上げる総ちゃんの横、気持ち少し目許を袖口で拭うと同時、彼は喉を鳴らして。

それから、仕方が無いなぁ、なんて言いながら湯呑みを置くと、彼はゆっくりと腰を上げてわたしの方へ振り返った。



「脚、見たいんでしょ?」



見上げた先の総ちゃんの顔はちょっと呆れてる、だけどそんな言葉に首を縦に振れば、じゃあ着いておいでよとわたしを誘って。

そんな彼の後ろを追うと、簡単な方法があるよと一言だけ添えて、道場の方へと脚を運んだ。

ぽつぽつと歩いているとすぐに見えたのは平隊士さんたちだ、稽古が終わったのか道場の外に数名屯し、各自手拭いで汗を拭いたり稽古の反省などを口にしている。

総ちゃんの姿を見つけると一例し、こうして見てるとこの人も偉い人なんだなぁなんて失礼な思考が浮かんだり。

それから道場の入り口まで到達すると同時、彼は一度中を覗くと今度はわたしに振り返ってシッと人差し指を口許に立ててわたしの脚を止めさせた。

何だろう、そう思うと同時、彼は再び道場の中へと視線を向けると、ねぇ、と一声掛けて、



「一くん、ちょっと付き合ってよ」



そう言うと同時、いつもの飄々とした足取りで道場の中へと脚を踏み入れた。

斎藤さん居るんだ、そう理解するのは当たり前に早く、それと同時にわたしに静かにしろと言った意味が理解できて、道場の入り口から覗き込むようにこっそりと顔を出す。

きっと入らないでこっそり見ていろとそういう意味だろう、大丈夫だ、こんな男臭い道場の中、入ったらわたしが目を回してしまう。

男子校や男子便所と同じ要領じゃないけれど、屯所の中は男臭い。

現代の道場みたいに至る所に換気用の窓があるわけでもない此処は特にその男臭がして、匂いフェチなわたしにはとてもじゃないけれど堪えられる場所ではなかった。

失礼を承知で口と鼻を覆うように袖口で隠し、それから中を見遣れば総ちゃんが斎藤さんと何かを話している。

暫くすると斎藤さんが軽く頷いて、戻そうとしていた竹刀を再び手に取ると一本を総ちゃんに渡したのが見えて、もしかして、と目が見開いた。

そのまさかだ、一本相手をするみたいな雰囲気の2人はどちらとも言わずに中央に歩を進めて、それからぴたりと互いに竹刀を構える。

私闘はご法度だけど練習相手となれば話は別、この間新八さんと平助もやっていたっけ。

だけど斎藤さんと総ちゃんの組み合わせは初めて見ると、期待に胸を高鳴らせたわたしはもっと良く見たいと身体をもう少し捩らせた、と同時、



「…………こっ、これはっ!」



斎藤さんが構えた所為でほんの少しだけ着流しの裾が開いている、はっきりとは見えないけれどあのままニ、三歩踏み込んだら確実に見える。

これは願ってもいない自然のチラリズムだ!そう興奮したわたしは思わず口許を歪めてしまい、だけどこんなおいしい状況で真顔なんて出来ないと真横の壁をぶっ叩きたくなる衝動を必死に堪えて息を殺した。

簡単な方法がある、そう言った総ちゃんの言葉を思い出して大いに納得、これ以上ないほど一番簡単で一番自然な方法だ。

そのおみ足、拝見させて頂きます、そうきりっと目に力を入れたと同時、2人の竹刀が音を立ててぶつかった。

素早い竹刀の動き、刀身がどころか振るった腕すら残像しか見えない、だけどわたしの視線はそんな2人の試合じゃなくて。

うわあ!白い!細い!けど筋肉質!肌が白くて着流しが黒いから光って見える斎藤さんのおみ足!

チラッチラと見えるそんな脚に釘付けになりながら、大興奮したわたしはひとり、あまりの感動に涙が出そうになりながらただ只管斎藤さんの生脚チラリズムを見続けていた。










「………で、すね毛は?」

「……えっ」

「えっ、じゃなくて、すね毛は?斎藤さんの」

「………麗しいおみ足でした」

「いや、麗しいとか聞いてないし。濃度チェックどうだったのよ」



大興奮で部屋に戻ったわたしは、丁度炊事当番で勝手場に出掛ける直前のもえこを捕まえてやってやったぜとドヤ顔で報告を開始した。

やっと出来たドヤ顔!総ちゃんのお陰だけど!総ちゃんのお陰でわたしお腹一杯だけど!

だけど返って来た言葉は予想を反したもので、



「生脚に興奮したのは解るけどさ、本来の目的、すね毛の濃さだよね?」



これだからみうこは、そう溜息と共に吐き出しながら部屋を出て行くもえこの姿を静かに目で追って、わたしは心の中で叫び上げた。

生脚見れたんだからもういいじゃんっ!

だけどそんなわたしの心とは裏腹に、斎藤さんの濃度チェックへの道はまだまだ続きそうである。






end
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