朝から気持ちのいい風と眩い日差しが差し込んでいた所為か、いつもより早く乾いた洗濯物を取り込もうと庭に降りたのはお昼過ぎ。

手のひらで隅々までチェックしながら一枚一枚取り込むと、わたしは言うほど枚数のないそれらを抱え込んで近くの空き部屋に放り込んだ。

障子を閉めれば暗いからと開けっ放し、そのまま座り込んで一枚ずつ手に取れば慣れない手付きで畳み出す。

現代の洋服と違ってどこがどうなっているんだと頭を捻る着物は多数ある、最初は何でこんな畳み方をしたんだと溜息を漏らされたこともあったけど、今はそれなりに文句を言われない程度には畳めるようになった。

それでも斎藤さんには畳み直されたりすることもある、確か土方さんも持って行ったら眉間に皺を寄せたっけ。

一生懸命にやっているのだけは伝わっているようで、だけど毎度毎度畳み直されるのは癪だと、わたしは今日も自ら洗濯物畳み係りをやるとスタンバッていた。

もえこは正直、悔しいほど凄く器用に綺麗に畳む、それもそのはず、彼女は小さい頃日本舞踊をやっていてだから着物の着付けなどには最初から手馴れていて、そんなもえこが一緒だったために何でお前は着れないんだと、土方さんには溜息を吐かれたものだ。

何度溜息吐かれたっけ?あんまり覚えてない、とりあえず、毎日吐かれていたことだけは確かだと、そんな少し前のことを思い出しながらわたしは簡単なものから畳み出した。

わたしの畳み方でも文句を言わないのは新八さんと左之さんと平助、それから案外山南さんも何も言わない。

わざとらしく言うのは総ちゃんだ、溜息を吐きながらも受け取るのは土方さん、問答無用で畳み直すのは斎藤さんだ、みんな手厳しい。

だからじゃないけど文句を言わない組の人たちのものは先に畳みきって端に寄せ、全然上達しないねなんて言う総ちゃんの着物に取り掛かる。

土方さんの長襦袢を畳みに広げ、自分が動きながらえっちらおっちらと畳みきれば、残る難関は斎藤さんの羽織と長襦袢と、



「………あれ?」



思いながら残っている洗濯物を見渡しわたしは、ふと珍しいものに気が付いて思わず声を漏らした。

斎藤さんの洗濯物は案外少ない、あの人は気付けば時間を気にせずひとりで洗い物をしてしまうことがある。

だから大体長襦袢と足袋だけだったりするのだけど、そこにはもうひとつ、見覚えのある白い布が転がっていてわたしは口唇を歪めながら徐にそれに手を伸ばした。

これって、これって斎藤さんの襟巻きじゃない?いつも首に巻いてるあれじゃない?やだ、紛れてるなんて知らなかった。

あの人は自分のものは自分でって感じだから、あんまり長襦袢以外の所有物を洗濯場に置いてくれない。

だからこれは凄く貴重だと両手に取って少し拡げるように持ち上げれば、ふわりとお日様の香りが鼻先を掠め、わたしの心が擽られる。

巻いてみたい、その衝動に駆られるけれどそれよりも何でこれだけこんなにお日様の匂いがするのかな、なんて。

気が付けばゆっくりとその真っ白な襟巻きに顔を埋め、クンクンと匂いを嗅いでしまった。

変態だ、匂いを嗅ぐなんて、でもわたしが変態だなんてそんなことは最初から解ってたこと。

だから後悔なんかしてやらないと、次にいつこれに触れられるか解らないと、まるで抱き締めるように両腕に抱え込んでスンと鼻を鳴らす。

ゆっくりと呼吸をすればお日様のいい匂いが身体中に広がって、ふわふわと身体が浮いてしまいそうな錯覚に陥る。

きゅんと胸の奥が締め付けられたのは何故だろう、なんか小さいけれど幸せが広がった気がして、わたしはそれを噛み締めるように肩を竦めた、と同時、



「………みうこ、何をしている」



背後から聞き慣れた声が聞こえ、思わず力を抜いたはずの身体が跳ね上がり、喉から変な音が漏れた。

振り向かなくても解る斎藤さんの声、勿論斎藤さんだけじゃないのだけど、ここの人はどうしていつも気配の欠片もなく近づいてくるのだろう、心臓に悪くて堪らない。

でも今思うのはそんなことよりも、自分の現状をどう説明するかという問題だった。

クンカクンカと斎藤さんの襟巻きを鼻先に押し付け匂いを嗅いでいる、誤魔化したくてもこの状況、一体どんな誤魔化し方があるというのだろうか。

此処が外だったら、風が吹いてきて襟巻きがアーッ!とか言えただろうけれど、生憎部屋の中でそんな都合のいい風は吹かない。

どうしよう、どうしよう、どうする、わたし?

ゆっくりと顔に宛がった襟巻きを外し、それから静かに腕を降ろせばもう一度斎藤さんが口を開いた、それは俺の、と。

数秒待っても続きを紡がれない言葉と静かな部屋に漂うこの空気、やばい、何か言わなきゃドン退かれるだけで終わってしまう!

そう思ったわたしは背中に大量の冷や汗を掻きながら、くるりと後ろに居るだろう斎藤さんへと振り向いて、言い訳の言葉を放った。



「ち、違…っ、違うんです!違うんですってば、斎藤さん!」

「………みうこ、あんたは…」

「斎藤さんの襟巻きからお日様のすっごいいい匂いがしたんです!だから、その、」

「………襟巻き…?」

「ちょっと出来心というか、もう、あの、ごめんなさい!謝るからぁ!全力で謝りますからそんな退かないで!」



言いながら見上げた彼の顔は少しだけ歪んでいた、だけど返すからと掴んだ襟巻きを彼によく見えるように差し出した次の瞬間、斎藤さんの顔色が見る見る内にかあっと赤く染まって、



「そ、それは襟巻きではない、俺のふん…」

「……………え?」



斎藤さんは再び言葉を詰まらせると、それ以上は言い難いとでも言うのだろうか、そのまま口を噤んで視線を逸らして。

わたしは小首を傾げながらその先に続くだろう言葉を探しながら、手許にある白い布をゆっくりと広げようとして、そして気付いた。

みうこ、これ、襟巻きやない、褌や。





洗濯物が混ざってしまったのだろうか、実はこれを探しに来たらしい斎藤さん。

目の前で自分の褌をクンクンと嗅ぐ女を見て何を思ったのか、想像に難くない、けれど。

とりあえず、もう少しよく見て行動しますと頭を下げたわたしは、それでもガッツポーズを取りたくなる気持ちを抑えることは出来なかった。





end
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