呑めるなら呑まねーか?そう言ってわたしともえこの部屋を訪れたのは新八さんだった。 どうやらこの時代から家呑みならぬ部屋呑みは存在するようで、そんなまったりした呑みは大好きなわたしたち2人は二言返事で腰を上げたのだ。 新八さんの部屋にお邪魔すれば既に一杯やっている左之さんと平助がいる、そう言えば今日は珍しく3人共夜勤じゃないんだっけ。 いつもは誰かどうか夜の巡察なんかで揃わない、だからこんな風に揃うのは月に数度で、揃えば揃ったで仲良く島原にお出掛けなんてこともあるもんだから本当に珍しい光景だと思った。 「いやぁ、やっぱりよ、島原で呑む酒はうまいんだが、気張っちまってしょうがねぇよな」 「新八、そりゃお前だけだ」 「新ぱっつぁんは酒じゃなくて女が目当てだろ?」 「お前らなぁ……馬鹿言うんじゃねぇよ、女が目当てだったら今日だって島原に呑みに、」 「女が目当てだから2人を誘ったんだろ?」 「……う、あ……っ、」 「華がねぇとな、なんて言って出掛けたのは誰だっけ?」 言われて言葉を詰まらせ、それを誤魔化すかのように猪口の酒をぐいっと傾け喉に流し入れる新八さんは正直な人だ。 だけどあれだ、化粧も出来ない状況下のわたしたちを華と言ってくれる新八さんを一緒になって茶化すのは可哀想だと、一気に呑み干し荒がる声を聞いてただ笑うだけに留めておいた。 それから5人で呑み出せば、大きめのお銚子の中の酒などあっという間に空になっていく。 気付けば空のお銚子が何本も転がっているという状態ではない、見る見る内に目の前で転がり出すの。 自分も酒は強い方なものだから、わたしたちを酔わせようとくれる新八さんの酌を有り難く呑み干していくのだけど、陶器がぶつかるほどに酔って手が震えている彼の方が心配だった。 折角華だと言って貰ったのだからお酌くらいしようかと手を伸ばすのだけど、静かにお猪口を出していたのは最初だけ。 時間にしてみれば半刻も経っていないというのに浴びるほど呑みたいとでも言うのだろうか、お銚子ごと口付けて呑み始める姿はまるでアホな大学生だ。 調子に乗って一升瓶をラッパ呑みし出すあの感覚に似ている、言葉はなくともこの時代だってアル中はあったはずだ、それが心配で堪らない。 この時代のお酒は度数が言うほど高くないらしい、てっきり昔のお酒は強いものだと何故か思っていたのだけどそうでもないらしくて。 それのお陰か、3人、いや、平助と新八さんが泥酔い、左之さんがほろ酔いになる頃でもわたしともえこは結構素面に近い状態で3人の遣り取りを愉しんでいた。 3人は本当に仲が良い、きっと気が合う以上に深い繋がりがそこにあるんだろう。 だけど別に、此処に他の人が入ったところで特に変わりがない、まあ入る人にも寄るんだろうけれど基本的に器が大きいのだと思う。 器の小さな人間がこうしてお国の為と進んで茨の道を行くことはないはずだ、だからそれはごもっともなのだけど何だろう、それ以上に大きな何かがあるような気がしてならない。 そう思っているのはわたしだけなのだろうかと、隣に居たはずのもえこを見遣ってみたけれど、 「あはははっ、は…ちょ、その顔…っ!マジ芸術っ!」 とりあえずさらしを外し、露にさせた左之さんの腹に描かれた新八さん力作の変な顔を見て笑い転げているだけだった。 や、確かにその落描きは芸術だと思う、何よりもそれを描かれても平然と、寧ろノリノリで腹を動かして遊んでいる左之さんのノリの良さと言ったら天下一品だ。 そうだ、この3人は激しくノリがいい、やっぱり時代が違うから現代のようなノリはないけれど。 それでも現代に生まれていたのなら大変仲良くなりたい人たちだ、合コンとかしたら芸人並に身体を張って笑わせてくれそうだと思って止まない。 ぐいっと喉に流し込む酒は少し濁っている、濁り酒というのだろうか、だけどその味は結構上手い。 現代よりも弱いと言っても酔えないほど弱いわけじゃない、だから気分が高まってくるとついつい手が出る。 そんなことをして行く内に最初は遠慮をして居たわたしたち2人も、手酌をしてまで口に運ぶようになり、飲兵衛が5人、手が付けられない状態になるのは早かった。 半刻を過ぎる頃には用意していた酒はすっかり無くなっていて、明日買い足しておけば文句はねえだろうと台所にある酒を物色しに腰を上げる新八さん。 フラフラと障子に掴まるその様が何処か危うげで、ひとりで行かせるのは如何なものかとわたしも腰を上げようとして左之さんに止められた。 その意図は解らないけれど、そんな言うほど酔っちゃいないと眉を顰めて言われてしまったので仕方なく上げ掛けた腰を戻すことに。 そういえば結構どんちゃん騒ぎをしているけれど、こんなに騒いだら土方さんに怒られないだろうか。 夕餉が終わって少ししてから呑み出したので時間的にはまだ寝るような時間ではない、だからこの騒ぎは他に丸聞こえなはずだ。 今日の夜の巡察は確か1番隊と5番隊だったと思う、だから総ちゃんは居ないだろうから良いとして斎藤さんが居るんじゃないだろうか。 彼は今日、朝に巡察があって午後から非番だったはず、そう思ったと同時だった。 「おい、斎藤拾って来たぞ!」 「……俺は猫か何かか」 「堅いこと言うなって!ついでに酒とほれ、つまみもくすねて来た!」 言いながら、斎藤さんに持たせたのだろう菜物と漬物の入った皿を斎藤さんの腕ごとグイっと引いてドヤ顔で見せる新八さん。 自分は片手に酒瓶を抱えながら、その手を斎藤さんの肩に回してへらへらと笑っている。 斎藤さんを拾ってきたんじゃない、きっと自力で歩けなくなった新八さんを台所で片付けか何かをしていた斎藤さんが見兼ねて連れて来てくれたんだ、絶対にそうだ。 だけど特に呆れた顔も見せない斎藤さんは慣れているとでも言うのだろうか、ゆっくりと腰を降ろしながら新八さんの腕を解くとそのまま腰を下ろし、今度は懐に腕を差し入れた。 何をするのかと思えば取り出したのはお猪口、もしかしなくてもmyお猪口だ、さも当たり前に出されて逆にビックリする。 斎藤さんもお酒が好きな人だと聞く、そういえばいつも夕餉のときには呑んでいたし、前も月が綺麗だと縁側で左之さんと総ちゃんが呑んでいたときも斎藤さんを誘いに行ってたっけ。 島原に誘うときはあまり出ないようなのだけど、酒ならば付き合うと言っていた気がする。 凄く寡黙だから騒がしいのは苦手な人かと思えば、騒がしい中でも平然とひとり自分のペースで呑んでいる。 斎藤さんは不思議な人だ、不思議な雰囲気を持っている。 もしかしたら自分ははしゃぐのは得意じゃないけれど、こうしてみんなと居るのは苦ではなく、顔には出さないけれどその場の空気を愉しみながら呑んでいるのかな? いや、ただ単に自分の世界を持っていて、特に周りが騒がしかろうと気にならない人なだけかもしれないけれど。 そんな特に表情の変わらない斎藤さんを加え新たに酒瓶を開けると、また再び騒がしい空気が部屋の中に広がった。 最初にお銚子を転がした頃からどれくらい経っただろうか、一刻以上は過ぎてるけれどプラス半刻は過ぎていないだろう。 へべれけになって呂律が回らず、自分が何を言っているのか解らない状態になっているのは新八さんだ。 平助は空の酒瓶を股の間に抱えながらまた新しく開けた酒を食らいながら斎藤さんの横で何度も同じ話をしている、ダメだ、この子も重傷だ。 だけどしらっと呑んでいるはずの斎藤さんもまた、何度も同じ話をしているはずの平助と噛み合わない会話を始めているものだからこの人も重傷の部類に入るかもしれない。 そういえば少し頬を染めて潤ませた眼が座っているようにも見える、とろんとさせた眼で噛み合っていない会話をしている2人は傍から見て居てちょっと可愛い。 それから思い出すのはこの2人は年が近いと言うことだ、大人びているように見えるけれど斎藤さんはまだ19、平助は18。 まだ2人共現代で言えば高校卒業したての一番馬鹿やりたい放題の年なのに国を護る為に命を掛けているなんて、そう思うとこうして息抜きをしている姿が微笑ましかった。 そんな2人を見てと言いたくて隣で呂律が回らない新八さんを見て笑っているもえこに、ねえと声を掛けたと同時だった。 「籠が来てるな」 「おかえり、左之さん」 「……おかえり…籠?」 厠へと席を立っていた左之さんが返って来ると同時にそう呟いて、わたしたち2人は小さく小首を傾げた。 声を掛ければ、ああ、と返事が返って来て、それから障子を後ろ手で閉めるとよっこらしょ、なんて言いながらゆっくりと彼はもえこの横に腰を降ろす。 それから呟くのは変だなという一言、屯所に来ているのかと問えば八木邸の隣に来ているらしいと一言零した左之さんは、中途半端に中身の残っているお猪口をくいっと一気に傾けて呑み干した。 「こんな時間に、籠?」 「おかしいね、何かあったのかな?」 「そういや、隣のじいさん、ずっと床に伏せてたって聞くしな…医者が来てるのかもしれねぇな」 言いながら呑み干して中身のない猪口を片手に手の中で遊ばせると、彼はふぅ、と溜息を吐いた。 隣のじいさんの事情はわたしたちは良く知らない、だけどもしかしたら左之さんたちは何か縁があるのだろうか。 何も知らないわたしたちはたぶん同じ気持ちで居たはずだ、知らないからこそ余計なことを言ってしまわないように口を噤んだ。 だけどそんなわたしたちの顔は少し沈んでいただろうか、左之さんはそんな顔するんじゃねぇよ、なんて言いながらわたしともえこの額を軽く一発ずつ小突いて見せて。 それから注いでくれと隣のもえこにお猪口を傾けるから、もえこが気を取り直して傍にあったお銚子を手に取って空いたお猪口に酒を注いだ。 そうだ、この時代の乗り物は籠、それか馬だ。 馬だって誰しもが持っているものじゃない、一般的なのは籠である。 つまり現代のタクシーのようなもので、乗ったことはないからその乗り心地は解らないけれど巡察の際に見かけたときの感想は、あれ、良く落ちないなぁ、というものだった。 まじまじと見たわけでもないから仕組みも解らないけれど、掴まるところがあってそれに掴まって揺さ振られる身体を振り落とされないように乗るんだ。 だけど左右どちらもあの御座のようなものが開きっ放しだった、ひとりしか乗れないし、あれでえっさほいさと揺さ振られたら乗っている方も相当バランス感覚がいると思う。 そう考えなくても思うけれど、現代の技術というのは本当に便利で素晴らしいものだと思う。 急患があったときにあれじゃあ間に合わないだろうし、医療が進む一方で移動の早さも本当に感心するくらいだ。 まだこの時代は歩くことが当たり前の時代、みんなも江戸から京まで歩いて来たのだろうし。 でもわたしからしてみれば東京から京都まで歩くなんて考えられなかった、出来れば想像もしたくない。 新幹線で3時間の道のりを歩いたら何日掛かるんだろう、想像しようとしただけでも恐ろしくて仕方がない。 だって巡察の道のりだって酷く長く、どうしてこんなに歩いてみんな平然としていられるのだろうと本気で思うくらい長いんだもの。 まず、壬生から街へ出るのが遠い、初めて歩いたときは街に着く頃にはもうへばっていたりもしたもので。 だけどそれは今も変わらない、歩くのが嫌いなわけじゃないけれどあまりにもよく歩き過ぎる巡察ルートは楽なことばかりしている現代人には結構過酷な道のりだった。 あまりにも疲れると眼に入れてしまうのが籠、だけど不思議かなあれに乗れる自信がなくていつも落ちないんだなぁと不思議でガン見してたっけ。 一度、あまりにも見過ぎた所為で総ちゃんに突っ込まれたことがあった、何?乗りたいの?もしかして疲れたの?って。 素直に疲れたけれど乗りたいかと言われたら違うと言えば、じゃあ何なの?なんて睨まれて。 だけど言えなかったな、その後の気持ちは、だってなんか揺さ振られるアレがちょっとエロいとかそんなの、流石に真昼間からそんなこと、言えない。 現代の車にはヤリ車なんて言われる車も存在する、例えばだけどオデッセイとか、ああいう車が人気の少ない公園の脇に止まっていると内心あっと思うことはよくあった。 偏見なのは解っている、けれど実際に仲間内ではそう呼んでたこともあったし、男友達が乗ってるとそんなことでからかったりしたこともあったようななかったような。 この時代の車は一応籠で、カーセックスが存在するならもしかしたら籠セックスも存在、 「ないよ、籠セックスなんて」 「何で心を読んだ……」 「いや、みうこ…ぶつぶつ言ってたからね、ぶつぶつ呟いてたから」 「えっ………どの辺から?」 「この時代の車はってとこから」 「……あっ、」 「流石にないでしょ、籠セックスは…っていうか、笑わせんなよう!」 何真剣な顔して頭悪いこと言ってんの?なんて言いながら、ひいひい言って笑い出したもえこは笑い上戸だろうか。 いや、今はそんなことどうでもいい、とりあえずあまりに色々考え過ぎた所為か気付かない内にキャパオーバーを超えていたわたしの口からはぽろぽろと不味い独り言が零れていたようだった。 良かった、この時代にセックスなんて言葉が認知されていなくて良かった、危なく本気で怪しい子になるところだったじゃないか。 だけどそんなわたしの胸を撫で下ろした安心感は平助の一言で元に戻るのだった。 「んなぁ、何だよその、か…かあせっくふって」 「…………平助、カーセックス、はい、もう1回言って?」 「…え?かあせっくふ?」 だけど非常に可愛い発音が聞こえて卑しさの欠片もなくなっていた、やだ何この子可愛い。 その前にこんな言葉、平助に教えてもいいのだろうか、いやホントはいいわけないんだけどそれでもリピートアフターミーと言いたくて仕方なく、もう一度振ってみる。 「違う違う、カーセックス!」 「か、かあせっくしゅ!」 「うーん……惜しいんだけど、」 元々呂律が回っていない状態の平助にしっかりとした発音を求める方がおかしいのだ、そんなこと解ってる。 大体何を教えてるんだ、わたしは!だけど、とろんとした大きな眼に可愛い顔、酒瓶を抱えたまま子犬のようにふあふあとしている平助の絡み方が可愛くて止められそうにない。 そんな遣り取りをしている真っ最中だった、突然隣の斎藤さんがくいっとお猪口を傾け一気に酒を呑み干すと同時、 「…平助、違う、かあしぇっくすだ」 「さ…っ!」 あまりの突然のことに勢い良く噴き過ぎてちょっと鼻水出ちまったけど、そんなことは今どうでもいいと手のひらで鼻を押さえてみる。 えっ?待って待って!意味を知らない言葉だと言えど斎藤さんがカーセックスって言った?言ったよね?正しくはかあしぇっくすだったけど言ったよね? やだ可愛い、っていうか、斎藤さんの口からそんな言葉聞けてしまうなんて何だろう、嬉しいというよりも驚きとやっちまったという気持ちの方が大きい。 手のひらで鼻を押さえた後、その衝撃の大きさからその手が退けられないわたしはそのままを口許を抑えてプルプルとこみ上げる何かを我慢して。 だけどそうにも耐えられそうにないともえこに助けを求めるためにゆっくりと振り返ってみれば、我先にと身体を震わせて顔を隠して肩を震わせている彼女が居た。 笑ってるよ!絶対に笑ってる!全然隠しきれてないし!ひぃひぃ聞こえるし! だけど一度火種を落としてしまったのはわたし、そんなわたしを無視して平助と斎藤さん、眼がとろんコンビは2人で発声練習のように何度も繰り返しカーセックスを連呼する。 不味い、どうしよう!これ意味を聞かれたら何て答えればいいの?そんな風に心音を高鳴らせたと同時だった。 「なぁ、そのかあせっくすって何なんだよ?」 はい、左之さん正解!よく出来ました!だけど一番恐れてた爆弾落としてくれたのでアウトー! そう言ったところでアウトの意味が解らない左之さんには言っても無駄だ、アウトって何だよと再び聞かれるに決まっている。 こんな風に連呼している2人に意味を教えるのは不味い、非常に不味い!それよりもどうしてこんな話になった!意味が解らない! そう悲観するのだけどよくよく考えてみれば事の発端は、わたしが心の声を漏らしてしまったのがいけないわけで。 もえこは優秀なレシーバーだ、そこも拾ってくれたかと拍手喝采したくなることがよくあるほどの優秀っぷり。 そんな優秀なもえこがこんなアホのような心の声を拾わないはずがないと、今回のレシーブが珍プレイなのか好プレイなのかどちらなのか解らないけれどと再び彼女を見遣ってみた。 眼が合えば、それだけでわたしの言いたいことを解ってくれるもえこはまさしくジャイアンが言うように心の友だ、だけどわたしはその言葉を安売りしたりしない。 頼んだぞと眉を顰めれば解った解ったと、笑いすぎて涙目になっている表情のまま数度頷いて了承の合図を送って来て。 それから意味が解らないと、わたしともえこの顔を言ったり来たり眼で追っている左之さんを無視して背を向けると同時、あのね、ともえこの声が聞こえてくる。 ぼそぼそと呟くそれは聞き取り難い、だけど小さなその声が止むと同時、あのなぁという左之さんの呆れるような言葉と乾いた笑いが聞こえてわたしは思わず耳を塞ぎたくなった。 「聞いたことねぇよ、そんなの」 「でも未来にはあるんだよ、」 「未来は明るいのだ」 答えれば左之さんは冗談だろうと言いたげな顔をして、それから視線を宙に彷徨わせて暫し何かを考えるとやがてフッと鼻で笑うような声を小さく漏らした。 手許のお猪口に視線を落とすその顔を見遣れば何処か口許が歪んでいて、まるで未来の女はとんでもねえこと言いやがるとでも言いたげだ。 そういえば少し前、何の話か忘れたけれど下ネタを話していたら左之さんに言われたっけ、女がそんなこと口にするもんじゃねぇよと。 もっと恥らうものだと眉を顰められた、勿論、顔は笑っていたけれど実際この時代では女が下世話な話を時間問わずするのは恥じらいがないと思われるのだろう。 勿論、そういう話題はタブーではない、この時代のことは疎いけれどそれでも春画とか普通に出回っているしセックスを普通に愉しんでいたという文献が多々あったと聞く。 現代でも婚前交渉などもっての外だと考える人も居れば色んな人と色んな恋愛を愉しみたい人だっている、詰まるところ人それぞれだ。 だけど左之さんは言ったっけ、そんなことを軽々しく言うもんじゃねえと。 確かそんな凄いことを言った覚えはなくて、だけど言われたんだよね、その所為か全くその時のことを覚えていない。 だけど今回のことよりもランク的には5つくらい下のことだった気がするので、セックスなんてこと言い出したら酒の勢いで説教が始まるかな、なんて。 そんな風に視線を落とした顔を見遣りながら、ほんの少しだけ肩に力を張った瞬間だった。 「籠ん中でか……まず2人入らねぇんじゃねぇか?」 「……えっ」 「後、そんな狭いところでする意味がねぇだろ?」 強張らせた肩が脱力したのは二つ目の科白を聞いてからだ、酒の所為だろうか、にやりと笑った顔がスケベ顔に見えて仕方がない。 あれ?いつだかはどうでもいいことで説教染みたことをされたと言うのにこの人は。 というか、酒の力って人の心を大きくすると言うけれど本当だなとつくづく感じながら、わたしはもえこと顔を見合わせて口許を歪ませた。 「左之さんはお布団派なの?」 「布団派って……それが普通だろうが、床って言うくらいだからな」 「籠は左之さん的にはなしなの?」 「なしって…お前らなぁ…」 「こうさ、えっさほいさと揺られながらって言うのはなしなの?これぞ籠セック…んん、みたいな」 「おい、みうこ……運ばれてる真っ最中にどうやってするんだ?」 「……………こう、座位的な、」 「はい、みうこアウトー!」 もえこが叫ぶと同時、いや、わたしが座位なんて言葉をしどろもどろな手付きと一緒に出したと同時くらいか、左之さんが口に含んだ酒をぶっと噴出したのは。 特に広くもない部屋の中、すぐ目の前で潰れてうとうと寝かけている新八さんの顔に飛沫が飛んだのか、冷てっなんて声が上がる。 それからスッと静かに席を立ったのは斎藤さんだ、何も言わずに立ち上がって障子を開けると閉めもしないでそのまま廊下へと脚を踏み出して。 だけど厠か何処かに行ったのだろうと特に気にせず、お前酒噴出すんじゃねぇよと新八さんに抗議を受けている少し慌てた左之さんを見遣って。 そんな慌てた左之さんもまたあまり見ることはないなぁと笑いながら、何となく平助の方に視線を向けて見ると、 「…………あれ?平助?どうしたの?」 「………あっ、やっ…」 酒の所為というよりはもっと違うことで顔を赤く染めて、だけど酒の所為で潤んだ眼はそのままにあたふたと視線を泳がせている平助が映った。 何があったと顔を覗き込めばあからさまに眼を逸らし、口許を歪ませている。 あれ?もしかして、もしかして?そんな風に少しだけ嫌な予感を感じながら覗き込んだ姿勢を元に戻すと同時くらいだった。 意を決したように潤んだ眼で顔を真っ赤に染めたまま、少しだけフルフルと身体を震わせて言い難いだろう言葉を放ったのは。 「かあせっく……そ、それって、そういう…そういう意味だったのかよ!」 顔を真っ赤にしながら眼を瞑って、恥ずかしげに顔を背ける平助の可愛さは何と言うことだろうか。 あまりの可愛さに思わず撫でたい衝動を抑えきれずに手を頭に持っていけば、振り払われるかもしれないと思ったけれど案外俯いたままで。 だけどわたしも次の平助の言葉で身を凍らせることになったのだ、だって、 「は、はじめくん…青褪めてた……」 「…………」 斎藤さんがこの後、部屋に戻って来なかったのは言うまでもない。 そんな真っ赤になっている平助と青褪めているわたしの後ろ、揺られながら籠の中では無理だろうけど地面に着いてれば何とか入ることは出来るんじゃない?そう左之さんにこそりと聞いたもえこが、なら試してみるか?と囁かれて顔を真っ赤にしたと言うのは後で聞いた話である。 end ---------------------------------- あるわけないよね、籠セックsアーッ! |