今日も今日とてベルトコンベアの上に並んでいるのは、いつも通りのお弁当。

既に左半分にはご飯が詰まっている。

その白いご飯の上に黒いゴマを振りかけるのが私・ゴマふり子の仕事だ。

次から次へと流れてくる白いご飯が入ったお弁当箱に、ひたすらゴマを振り掛け続ける。簡単だけど、飽きる。

それでも私が毎日『さて今日もコンビニのご飯にごまを振りかける簡単なお仕事に行ってくるか!』とウキウキで家を出るのには、それなりの理由がある。







コンビニ弁当に唐揚げを詰めるだけの簡単なお仕事(タイトル)





それは、私の左斜め向かい側で作業してる人だ。

ベルトコンベアはU字型になってて、私の所までで左側、つまりご飯の部分は終わる。そこからキャベツを詰めて、唐揚げを詰めて、それからその脇にポテトサラダを詰めて、パスタ、お漬物を入れる。

その唐揚げを詰める担当の斎藤さんに、私はなんというか、恋をしているのだ。

工場のダッサイ作業服も、彼が着てるだけでそれ来て銀座を歩いても恥ずかしくないんじゃないかという一流のオシャレに見える。その綺麗な顔も勿論好き。仕事中はマスクしてて全然見えないけど。ふわっふわの髪の毛も、何で巻いてるんだかよく分からないマフラーも、全部が素敵。でも何といっても彼の魅力はその仕事っぷりにあると思う。

お弁当に詰める唐揚げは全部で三つ。唐揚げがところせましと並んでるケースの中から、最適なサイズ・向きを瞬時に見分けてお弁当に詰め込むのだ。その手際は神技で、私は入社してから二週間は目で追う事すらできなくて、なんであの人お弁当の上で手振ってんだろ? なんて馬鹿なことを思っていた。

彼が詰めた唐揚げはとても美しく、私は他の工場で作られたコンビニ弁当を見るといつも小馬鹿にしたくなる。向きも大きさも全然駄目。勿論、唐揚げに愛された左手(と勝手に呼んでるだけで別に彼がこういう通り名を使っているわけじゃない)を持つ斎藤さんに、適う人がいるなんて思ってないけど。

しかも唐揚げを詰めながらも、前のキャベツ係で沖田さんが適当な量を詰めてないかもキッチリチェックしてる。斎藤さんと違って沖田さんは結構適当な方らしくて、いつもキャベツを適当に詰めてしまう。はみ出しとか、量が多いとか、そういうのも全部斎藤さんが調節するのだ。

唐揚げを詰めながらも油断なくキャベツをチェックするその余裕!仕事ができる男にしかできないと思う。

でも悲しいかな、私と斎藤さんの位置は遠いから、実は彼と言葉を交わしたことがほとんどない。

隣り合って作業してる沖田さんと斎藤さんなんて、毎日お話してるのに。

だから私は毎日お昼の休憩時間に、さりげなく斎藤さんの近くの席に座ってご飯を食べながら、斎藤さんと沖田さんが、

「総司、あんたはもうちょっと丁寧にキャベツを詰めるべきだ。今日も量が多いものが三っつ、少ないものが二つあったぞ」
「だってあんなの感覚じゃない」
「あんたの感覚は頼りにならないと言っているんだ」
「僕じゃなくて一君がおかしいんだよ。この前の、何だっけ? 誤差0,3グラム? もう人間技じゃないよね。ちょっと気持ち悪いよ」
「正確であることが何故気持ち悪いのだ」

なんて会話をしているのを盗み聞きしながらニヤニヤすることしかできない。

ちなみに誤差0,3グラムっていうのは、この前あんまりにも正確さに拘る斎藤さんの仕事っぷりを面白がって、ちょっとした実験をやったのだ。

ケースの中から3っつの唐揚げを選んでお皿に置くを10回繰り返して、その平均値を計って見て、プラスマイナスどのくらいの誤差があるかっていうのを見るっていう。

結果はさっきから言ってるように、誤差0,3グラムしかなかった。もはや天才の域だと思う。流石唐揚げに愛された左手を持った斎藤さん!コンビニ弁当に唐揚げを詰める仕事をするために生まれてきたような人だと思う。

願わくばもう少し、斎藤さんと親しくなりたい。

私も彼の仕事っぷりにあこがれて、相当ごまを振りかける練習をした。多すぎず少なすぎず、かつ満遍なく。おかげで見苦しくないくらいには仕事ができるようになったと思う。

ああ、でも私はまだこの工場で働き始めて三ヶ月! 唐揚げなんてお弁当の主役を扱うような仕事にはとても就けない。ううん、唐揚げ係になったら今の斎藤さんのお仕事を奪う事になってしまうもの。だからベルトコンベア上で少しでも近くにいられる作業…。キャベツ係とか、ポテトサラダ係にくらいなりたい。

でもキャベツ係は沖田さんがいるもんなあ。沖田さん、斎藤さんにはよく注意されてるけど、仕事しないわけじゃないし。やっぱり狙うはポテトサラダ係かな。

そんなことを考えながら帰り支度を済ませて工場を出たら、たまたま同じタイミングで斎藤さんが出てきた。すごく緊張して『お、お疲れ様です!』と言ったら、彼はふっと小さく笑った。

「ああ、お疲れ様、ゴマ」
「えっ!?」
「…どうかしたか?」

思わず驚いて声を上げてしまって猛烈に恥ずかしくなる。ばたばたと無意味に顔の前で手を振りながら、首を竦めた。

「い、いえ、私みたいなしがないごま係の人間が、唐揚げ係の斎藤さんに名前を覚えて頂いているなんて思わなくて…」
「知っている。ゴマふり子だろう?」

まさかのフルネーム呼びに固まってしまう。ああ、もっとお話ししたいのに。こんなチャンスもう一生ないかもしれないのに。でも唇が動かない。

「今日もきちんと満遍なくごまが掛かっていた。あんたはごまをかけるのが上手いな」

…え? 嘘、今もしかして私、褒められた?
何事もなかったかのように『ではな』と言って去って行く斎藤さんの背中をぼんやり見つめる。



私、もう一生ごま係でいいかもしれない。





FIN.

------------------------------
大好きなOilの酉加羅揚子さんから戴きました。
チキンなみうこがチキン卒業して唐揚げに昇進した記念に「唐揚げ斎藤夢をひとつ頼む」とむちゃぶりしたにも関わらず、「むちゃぶりらっめええええ」なんて言いながらマジで書いてくれた夢です。
ツイッターにてあまりのクオリティの高さに唐揚げ祭だワッショイワッショイとなっていました。
続きを書こうか、こんなおいしい話をここで止めるわけにゃいくまい、シリーズ化するしかあるめぇよと、おいしく戴いてきました。
こちら発端に何かやらかす模様です。

揚子さん、ありがとうございました゚+.(´・ω・人・ω・`)゚+.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -