「足りない」

「うん…何が?」

「……沖田くん、が」

「僕の何が?」



近づけば近づくほど、まるで誰にも聞かせない内緒話をするような囁きになるふたり。

眼と鼻の先で話せば吐息が掛かってこそばゆい、だけどそんな近しい距離が凄く嬉しいんだと素直に身体を熱らせて、わたしは咥内に溜まった唾液をゆっくりと飲み込んだ。



「………愛?」

「ぶっ、は、」



でもそんな甘くなりかけた雰囲気は次の瞬間思い切り噴き出した沖田くんによってぶち壊され、同時に近すぎた距離の所為で思い切り顔に唾が飛んで小さな溜息が漏れた。

酷い、笑うことないのにそんな思い切り顔を背けてまで、何と言うか、酷い。

だけどすぐさま、ごめんごめんと、笑いながらわたしの顔を手で拭うから酷いと声も零せず、わたしは拗ねた子供のようにそっと口唇の先を尖らせた。

その間も肩を震わせて笑う沖田くん、わたし、そんなに変なこと言ったつもりは、ないのに。

ツボに入ると暫く笑いが収まらないのは知っている、だからこうなってしまえばもう諦める以外の他無くてベッドに背を着けたまま首を竦めればごめんってと大きな声。

それから少しも待つことなく体重を掛けぎゅうっとわたしを抱きしめると、そんな雰囲気でもなかったはずなのに徐にわたしの腰骨を撫でた。

びくんと身体が反応するよりも早く口付けられたのは鎖骨部、リップ音が聞こえると同時に舌が肌を這う感覚がして眼を見開いたけれど沖田くんの指先がショーツに掛かり、小さな声が上がる。

そんな雰囲気じゃないのに、てっきりそのままお預けになると思ったのにこんないきなり、逆に心の準備が整ってない。

そう思ったところで沖田くんはお構いなしだ、チュ、チュ、とリップ音を鳴らしてわたしの身体を下降すれば胸の膨らみにくっと鼻先を押し付け、そのまま頬を擦り付ける。

寒いのと期待が相俟って主張しているそんな乳房の突起を舌先で舐め上げられれば、必然的に腰が浮き上がって、意識なんかしなくとも鼻の奥からか細い吐息が漏れた。

浮き上がった腰の動きを逃さないと言わんばかりに下げられたのはショーツ、既に期待で濡れそぼっていたのか、糸を引いた感覚がした下腹部が恥ずかしいと思わず沖田くんの手を制止させようとしたけれど、戸惑うわたしの手なんて沖田くんに届くわけなかった。

するりと内腿を撫で上げるとそのまま指先を秘部へと滑らせて、同時にカリっと乳房の突起を甘噛み。

一瞬の出来事に喉を仰け反らせた刹那、沖田くんの指が秘部の割れ目をなぞった。



「ん、んっ」

「凄い…濡れてる…」

「ふっ、ん…」

「僕、まだ何もしてないつもりだったんだけど」



ぬるりと滑らかに割れ目を滑る沖田くんの指先は数度往復を繰り返すと、そのまま既に勃起している小陰核を撫で上げた。

喉がひっくり返るような声が漏れると同時にきゅうっときつく収縮するのは膣内、そんなわたしの反応に微かに笑う沖田くんの声が聞こえる。

わたしの反応を楽しむようにもう一度、更にもう一度とわざとらしく大きく撫で上げると、今度は小刻みに小陰核だけに指を宛がいゆるゆると指を律動させた。



「ひ、あっ、あぁ、」

「好きでしょ?これ」

「あぁっ、あ…ぅ、あっ」

「何で逃げるの、」



言うと同時に掴まれたのは肩、逃がさないけどね、という囁きが聞こえた後、舐め上げられた首筋に背筋が震えて何度でも腰を上げてしまう。

だけど沖田くんの指先は腰を動かして逃げたところで言葉の通りいいところなど外れてくれず、わたしを追い詰める一方で、膣内をひくつかせながらか細い声を張り上げるしか術はなかった。

くちゅりと膣内を広げるように指を挿入され、一番強い快楽から逃げられる、そう思った瞬間、再びわたしを襲うのは我慢出来ない快楽。

中指が使えなくても親指があるんだよ、なんて言葉にしなくても指一本でわたしに教える沖田くんは数度の交わりでわたしの身体をわたし以上に知っているようだった。

膣内に挿入するよりも指の方が気持ちいい、それは紛れも無い事実。

だけど指でこうして弄られていれば自然と膣内は沖田くんを欲しがって、欲しい欲しいと垂れ流す涎が益々彼を上機嫌にさせることをわたしは知らなかった。



「あっ、ん、ふぁ…き、たく…んっ」

「なーに?リカちゃん」

「あっ、あっ、」

「気持ちい?ふぅん、そう。知ってるよ、大丈夫」



中指と薬指を2本、膣内の肉を押し分けてゆっくりと律動させながら抜き差しを繰り返し、親指は外れることなく小陰核を刺激する。

身体を這う沖田くんの舌は首筋からゆっくりと下降して乳房の付け根を舐め上げ、わざとらしく突起だけを避けて口唇を落としわたしが背を仰け反らせるとまるで止めのようにその先端に吸い付いて。

シーツを握り締めるのは初めてだった、頭を左右に振って閉じたい脚が閉じられないと膝を震わせ、びくんびくんと膣内を痙攣させ腰を持ち上げるなんてこんなこと、初めてだった。

逃げたいのに逃げられない、だけど逃げたくない、もっともっと沖田くんに触れて欲しい、触れたい、思い切り抱きしめて抱きしめて欲しい。

こんなにも愛おしく、目の前の身体が恋しいなんてこんな気持ちわたしは知らないと、張り裂けそうになる喉を仰け反らせて身体を奮わせた。

きゅうきゅうと彼の指を締め付ける膣内からは、さっきよりも大量に愛液が零れ落ちている。

そんなことが自分でも解るほどに外側の肌すらも敏感な身体は、まるで所有権を奪われたように言うことを訊かない。

膣内と連携してひくひくと震えている小陰核も限界だというのに、それでもまだ沖田くんの指先が撫でれば気持ちいいと腰を浮かせた。

イッちゃったみたいだね、なんて息切れて居るわたしの顔を覗き込みながら言う沖田くんの声も何処か遠くに聞こえるほどぼうっとする頭は痺れているのだろうか。

ずるりと指を抜かれた感覚にすら甲高い声を漏らして、わたしの中の何かがそこから全部掻き出されてしまったような気がして深く眼を閉じた。

見えるのは暗闇とさっき見た沖田くんの満足そうな笑顔、夢中で彼の与える快楽に縋った所為か、どんなに息を整えようと集中しても思考の端には気持ちよかったという浅ましい思いしか浮かばない。

だけど足りないのはやっぱりこの手に掴んでいないからで、わたしも沖田くんをぎゅってしたい、そっと手を添えるんじゃない、沖田くんがわたしを捕まえてくれたようにわたしも捕まえたいのだと薄っすらと眼を開け彼を見やろうとした、と同時、



「っ、あ、」

「ぃしょっと」



ふわりと襲われた浮遊感に上がる声、安定しない体勢に思わず腕を伸ばしてしがみ付いた先に居たのは沖田くん。

突然纏わりついた暖かみと、望んで抱きついたわけじゃないことに恐縮してしまったわたしは彼の肩を押して、



「ご、ごめん…っ」

「何が?」

「あ、んと…」

「さっきは自分で抱きついてきたくせに」



咄嗟のことといえ思わず拒むように離れ、あまつさえ飛び出たのは謝罪を意味する言葉。

そんなわたしに笑みを浮かべ、意地悪そうに声を上げた彼はわたしを自分の上に乗せると、ふっと鼻で笑うように呟いた。



「抱いてくれるんでしょ?」

「………えっ?」

「僕が欲しいんでしょ?」

「………ん、と」

「リカちゃんが僕のもののように、僕もリカちゃんのものだよ」

「…………」





愛してあげるよ好きなだけ





だからリカちゃんも、僕を愛してくれないかなぁ、僕が満足するくらい。

言いながら、わたしを上に乗せたまま腰を埋めようとさせる沖田くんの手、ゆっくりと陰茎を膣口に宛がうその手を掴んだのも思わずだ。

だって上なんて無理、無理だもの、と首を振って抗議をしてみたけれど、そんなもの聞いてくれる彼じゃない。

抱いてみてよ、思いっきり、そう恥ずかしげもなく言ってくる彼にまた耳まで赤く染め上げ口をぱくつかせれば、そういう顔が堪らないと軽口を叩いて。

だけどそんな言葉を平気で言ってのける彼を見ながらわたしも思ったんだ、そうだ、わたしも沖田くんのそういう科白が堪らなく好きなんだと。

瞳に捕まり言葉に捕まり、笑顔に捕まり腕に捕まった。

拒めないんじゃない、だって最初から彼は知らず知らずのうちにわたしの中に何の違和感もなく浸透してきて、心も身体も染めつくした。

いっそこのまま、どっぷりとその君色の世界に染まってみるのも一興なんじゃないかなんて、思ってしまっているわたしは既に虜以外の何だというのだろう。

押し広げ、裂くようにして割り挿った陰茎の与える苦しささえ愛しいと思うほど、わたしは沖田総司というこの人に恋をしているらしい。




end
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