アリスとなぞなぞ猫
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 莉緒は偶然見つけた泉で休憩していた。
 右を向いても、左を向いても、見えるのは何もない草原だけ。そっと木の根元に腰を下ろして、膝を抱える。
 そんなときだった。

「そんな顔してたら、せっかくの可愛いおまえの顔がもったいないよ」
「え……?」

 莉緒以外誰もいないはずなのに声がした。

「そっちじゃないよ。"アリス"」

 こっちこっち。と呼ぶ声。
 莉緒は立ち上がると、ぐるりと回転する。が、やはり誰もいない。

「上だよ。"アリス"」

 言われた通り上を向く。そこにいたのはピンクと黒のボーダーが特徴的なファーを纏った少年。
 あの人間バージョン白兎と同じように、ピンク色の猫耳が頭にくっついている。

「ば、化け猫…?」

 確か、妖怪に似たようなものがいたはず。
 莉緒が思わずそう呟くと、奇妙な沈黙が流れた。

「あ、えっと、その。ごめんなさい……?」

 目を真ん丸くして固まってしまった少年を見て、傷付けてしまったと思い慌てて謝る。

「い、良いよ。"アリス"なら許すよ。……他のやつなら絶対に許さないけど」

 後半は聞き取れなかったが、どうやら許してくれるらしい。
 莉緒は、良かった、とほっと胸を撫で下ろした。
 初めてあの白兎以外の人物と会ったんだ。(外見以外は)まともそうな人だし、ここが何処なのか教えてくれそう。
 だが、その前にひとつ聞いておかなければならないことがある。

「あの、なぜ私を"アリス"と呼ぶの? 私は"アリス"なんて名前じゃないわ」
「ん――…。"アリス"は"アリス"でしょ? おまえがなんと言おうと"アリス"なんだ」
「意味がわからないわ」
「おまえは"アリス"の魂を持ってる。だから、"アリス"」
「………」

 話が通じない。
 これでは埒があかない。
 莉緒は、とりあえず話題を変えようと口を開いた。

「じゃ、じゃあ、ここはどこなの?」

 少年は少しの間考え込むと、急に目がキラキラと輝き出す。まるで、悪い悪戯を思い付いた子どものように。

「じゃあ、さ」

 少年が木の上から飛び降りる。

「俺が出すなぞなぞが解けたら教えてあげる。どう、やる?」

 ニコニコと微笑む少年の顔が、息がかかるくらいまで間近に迫る。

「――っ!!」

 莉緒は、急に恥ずかしくなって思わず飛び退いた。
 顔が熱い。
 こんなの初めてだ。

「どうする? やるの?」
「えっと、」

――どうしよう。やるべきか。否か。
 莉緒が迷っていると、少年の耳がピクリと動いた。

「……うーん。時間切れかー、まあいいいや。……ねぇ"アリス"、俺の名前はチェレン=ロール。邪魔が入りそうだから、なぞなぞは次に会ったときにしよう」

 邪魔が入る?
 どういう意味なのだろうか。
 少年――チェレン=ロールが見つめる先。そこには赤色が目立つ兵隊軍団があった。
 規則正しいリズムで近づいてくる。

「見つけたぞ。"アリス"。貴様を女王陛下のもとへ連行する」




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