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W・S
下校の時間になり、校舎を出るとやけに空気が冷たく感じた。ふと宙を見ると、ちらちらと雪が舞っている。なるほどこうも寒ければそうだなと納得してから、雪か、と口に出す。隣にいる彼もまた、雪だ、とつぶやいて白い息を手に吹きかけていた。
「なんかさ、やっぱりテスト前でもないのに明るいうちに帰るのって慣れないよね」
歩き出すと、曇り空を見上げつつ幸村が言う。
以前は同じ時期でも部活が終われば日が沈んでしまっていた。星のない寒空の下、家路につくことに違和感を感じないと言えば嘘になるだろう。とにかく、部活の引退が日常に与えた影響は多々あるのだ。
「そうだな。だがいずれはまた以前のような生活に戻るのだろうな」
「だけどその頃には今の状態に慣れちゃってるかもしれないね」
「あまり良いこととは思えないな」
「そうかな?でもきっとすぐ思い出せるよ、3年やってたんだから」
そんな話をするうち、穏やかだった雪も徐々に勢いを増し、牡丹雪に変わっていた。アスファルトに降りては、少しずつ積もっていく。足音が吸い込まれる。
ふと、ひときわ大きな雪のつぶが俺の鼻に落ち、溶けた。それを見ていた幸村は、何が愉快だったのか少し笑うと一歩前に出、こちらを振り返る。そうして、突然駆け出した。チェックのマフラーが風になびく。
「足元が滑るぞ、危ないだろう」
だいじょーぶ、と答えが返ってくる。急いで後を追いかけると、立ち止まられた。
「突然どうしたのだ、驚いたぞ」
「あはは、ごめんごめん!なんか楽しくなっちゃってさ」
子供のように笑って言う。小さな頃にも似たようなことをしたのではないかと、その姿を見て思い当たる。冬の日の午後、雪の舞う中で突然走り出した彼を慌てて追いかけた。大人びて見られがちだが、幸村精市はたしかに無邪気さを残す14歳の少年なのだ。
「お前は変わらないな」
「え?何が?」
「いや、何でもない。早く帰るぞ」
そうだな、と微笑む幸村の周りには、心なしか春の陽射しが見えた気がした。冬の寒きを耐え、萌え出すあざやかな花。きっと幻などではない。
再び、肩を並べて歩き出す。白い花は降り続く。
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Tumblrに置いていたものその2。荒削り感すごい
タイトルはウィンター・スプリングの略。
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