伝わらない痛みを

夏。青い空から透明な陽射しがそそいで、じわりじわりと気温が上がっていく。外はどこも時期相応の暑さがあるというのに、病院というものはどうにもひんやりとしていて、足を踏み入れたそのときから肌に外気よりも冷たい空気がまとわりつく。冷房が効いているのか、場所特有の雰囲気がそう感じさせているのかはわからなかった。

日に焼けた腕で冷えた空気を切るように歩く。病室のドアの前でひとつ、大きく息を吸った。薬品のにおい。そうして扉を開ける。今日はこの部屋の主に会うためにここに来たのだ。

「来てくれたんだね」

聞き慣れた、だけど弱々しい声はこちらを向いている。愛しい人はベッドの上から、小さく首をかしげながら微笑みかけていた。

「…具合はどうだ」

「うん、いつもよりは調子がいいよ。今日は天気がいいのかい?なんだか暑そうだよ」

そう言われ、そうだ彼はこの白い箱に囚われて外のことなんて自分の身体で感じ得ないのだと改めて思う。窓から射す陽光は明るく暖かいかもしれないが、それは切り取られた一部でしかない。

「ああ。夏らしい天気だが、風があるからさほど酷い暑さという訳でもない」

彼はそうか、と返事をした後わずかに間を置いて、

「ねえ、だったらさ…外に行きたい。屋上に。一緒に行こうよ」

と身を乗り出し気味に言った。どんなに天気が良くても、この冷たい空気に囲まれたままというのは心が痛む。今日は調子が悪くないようだし、自分がいるから大丈夫だろうと屋上へ向かうことにした。軽率な判断だろうか。それでも、彼を陽射しの下へ連れ出したかった。

長い廊下。並んで歩いていると、左手をつつかれる。そんなに見えないから大丈夫だよと言う。手を繋いでほしいらしかった。あまり見られていないのかもしれないが、人がまばらにいる故にためらう。それでも、少し頬を赤くして、上目遣いに見つめられると結局は押されて従ってしまう。できるだけ気付かれないように、そっと手を握った。

誰もいない屋上は、干されたシーツが光をうけて白くなびいていた。

本当だ、あったかい、とつぶやきながら空を見上げる瞳には青色が映っている。シーツと共にウェーブの髪もふわりふわりと揺れる。元から白かった肌だが、日に当たらないせいでさらに白い。それが痛々しくて、だからなのか、静かにゆっくりと抱きしめた。

「ふふ、珍しいな。どうしたの」

病院の空気と同じ香り。筋肉が落ちた細い腕。痛みが─身体的なものか、心か─伝わってくるようで、力が入るがふと我にかえって腕を解く。

「すまない、本当に、すまない。お前の痛みを俺が共有することなどできないというのに、解った気になっていた」

ぼろぼろと言葉がこぼれる。ああ、自分が情けなくて仕方がない。風が吹く。彼の─幸村の目を、まっすぐに見た。

「馬鹿だな、それなら俺だってそうだろ」

なあ真田。囁く声が耳に届いて、そうして唇を重ねた。


........

Tumblrに置いていたもの。
久しぶりに書いたSSだったので正直よくわからない出来です。よくわからない文しか書いてないけど…。


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