*ちょっと気持ち悪い話です きらきらと五月蝿いあの瞳が大嫌いだ。ディオはジョナサンのことなら髪の毛の一本からつま先まですべてが嫌いだが、その中で一等大嫌いなのが彼の瞳だった。あの瞳は危険だ。あの緑の輝きはディオに要らぬ不安を植え付ける。早く、彼の瞳を濁らせなければ。でなければ、ディオはどうにかなってしまいそうだった。そう。ディオは、ジョナサンの両目が疎ましい。 いっそくり抜いてしまえばいいのだ、と思ったことがある。 あの邪魔な両目をくり抜き、ついでに握りつぶしてしまえばいい。 そうすれば、ディオを苛む得体のしれない不安や恐怖は消えてなくなるはずだ。 目を閉じて想像する。 きっとジョナサンは泣き叫ぶだろう。 眼球を失った二つの空洞から血と涙を流して、こう言うのだ。 (ディオ、僕の目を返して!) 握り潰した眼球のどろりとした感触まで想像してディオの空想は幕を閉じる。 どたどたと忙しない足音が近づいてくる。 品の無い、全く貴族らしくないその足取りはジョナサンのものに違いなかった。 「ディオ!」 ジョナサンはディオを見つけるなりすぐにこちらに向かって歩いてくる。 目が合う。 緑の目がディオを見ている。 嗚呼、煩わしい。 「どうしたんだい、ジョジョ」 そんなに足音を立てて歩いていたら、父さんに叱られてしまうよ。 ありったけの嘲りを声色に込める。 直情的なジョナサンの瞳は少し煽るだけで怒りに染まっていく。 「どうしただって?ふざけないでくれ!」 「落ち着けよ、ジョジョ」 何をそんなに怒っているんだい。 理由を聞けば、ジョナサンは小さく「ハンカチがないんだ」と言った。 ハンカチ。 何のことだろう。 ディオには皆目見当もつかなかった。 ジョナサンの瞳は真っ直ぐ射抜くようにこちらに向けられている。 無くなってしまったハンカチと、怒りながらディオの元へやって来たジョナサン。 ディオは納得した。 どうやらジョナサンはディオが自分のハンカチを盗んだと考えているらしい。 「君は僕を疑っているのかい?」 「だって君には前科があるじゃないか」 「ひどいなあ、ジョジョ。それじゃあ僕が犯罪者みたいだ」 「本当のことだろ。さあ、早く返してくれ!」 滑稽だとディオは思った。 確かに過去ディオはジョナサンの私物を勝手に拝借したことがある。 その時もジョナサンは今みたいにディオを責めた。 あの時、ディオはジョナサンに不快な思いを抱かせたかったがためにジョナサンの物を拝借した。 だから、ジョナサンがディオの元へ来た時、怒りを込めた目でディオを睨みつけた時は、ディオはもう面白くて面白くて仕方がなかった。 腹を抱えて笑い出したくなるのを抑えるのにとても苦労したことを覚えている。 自分の思い通りに動くジョナサンのなんと滑稽なことか。 その時だけは、あれだけ嫌いだったジョナサンの瞳に自分が映ることが不快ではなかった。 それが今は不快しかない。 なぜならジョナサンの言うハンカチのことなどディオは全くもって知らない。 自分が引き金でない感情を向けられるのは不快だった。 その目に俺を映すなよ。 「不快だな」 「な、に」 気が付けばディオの右手がジョナサンの左の眦に触れていた。 親指を少しずらせば、ジョナサンの目を潰すことができる。 ディオが命令する前にディオの親指の腹がジョナサンの左目の膜に触れた。 じんわりと水気を帯びるその感触はすぐに離れてしまう。 ジョナサンがディオの手を振り払ったからだ。 パシンと小気味いい音がした手首は少しだけ赤くなっていた。 左目からぽろぽろと涙を流してジョナサンがディオを見ている。 もう一度、もう一度ジョナサンの目の感触を確かめたくてディオはジョナサンの目に手を伸ばしたがそれは失敗に終わる。 ディオの手が触れる前にジョナサンはディオの前から走り去ってしまった。 ジョナサンが去った後も、ディオはその場を動かなかった。 先ほどジョナサンの目に触れた左手の親指を舐める。 ジョナサンの涙と自分の皮膚の塩辛い味がした。 20140802 |