じっと自分の手を見つめる青葉に違和感を覚えた。 「なあ、青葉」 「何」 「なんか、手の傷広がってねぇ?」 そう言うと、青葉はとても嬉しそうに(気持ち悪く)笑って言った。 「先輩に刺された」 「何か、嬉しそうだな」 「嬉しいよ。痛いけど」 痛いのはわかる。 でも嬉しいって何だ、嬉しいって。 いつからお前はマゾになった。 「なあ、コレ、残るかな」 「コレって、何が」 「傷跡」 いとおしそうに膿んだ手を見ている青葉の将来が本気で心配になってきた。 何この子こわい。 「おい、聞いてるか?」 「聞いてる聞いてる」 「残ると思うか?」 「あー、残るんじゃねぇの?」 何だか面倒くさかったので疑問形で答えたら石を投げられた。 しかも結構でかいやつを思いっきり。 「って、あぶねぇッ!!」 「適当に答えるとか、ホントないわ」 「一番ないのは仲間に石投げるお前だよッ!!」 「当たればよかったのに」 「せめて心の中で言えよ・・・」 溜息交じりにそう言うとまた石を投げられた。 しかもさっきよりでかかった。 頑張って避けた。 そんな人の必死の行動に舌打をして、青葉は続ける。 「傷跡残んないかなー」 「そんなに残したいなら自分で傷口広げりゃいいだろ」 と助言しただけなのに、うわこいつ何言っちゃってんの、みたいな目で見られた。 理不尽すぎる。 「先輩がつけた傷だから意味があるっていうのに、そんなことしたら勿体無いだろ」 「へー」 勿体無いって、勿体無いって。 あー、もう突っ込むのも疲れてきた。 「今日さー、俺と紀田先輩どっちが好きですかって聞いたら刺されたんだよなー」 「会話が進行してるとこ悪ぃんだけど、俺帰っていい?」 「『ふざけないでくれる?』って先輩すっごい笑顔でさ」 「スルーかよ」 「見蕩れてたらいつの間にか手にボールペンが刺さってたんだよ」 「痛みで気付くだろ普通」 「それも前に刺された場所と同じ所でさー」 「歪みねえなあの人」 「ほんとそう思う」 あの人が怒るってわかっててそんなことを言う青葉も相当のマゾだけど。 「先輩ってほんとおもしろい人だよ」 青葉は、まるで新しい玩具を買ってもらった子供みたいなキラキラした目を傷口に向ける。 傷つけられて嬉しいなんて理解ができなかったけれど、傷つけられた本人がいいならそれでいいんじゃないかな、もう。 なんて投げやりに思って、今日も深い溜息を吐く。 ありがとう、だけど迷惑よ title 告別 20140731 |