今日はもうなにもしていたくないって日が時々ある。 そんな日はサッカーもしないでベッドの上、布団に包まって天馬はかたまりになる。 でもやっぱり何もしないのは落ち着かないからボールを抱えて眠るのだ。 そうしていると次第に眠くなってきてたちまちのうちに夢のなかへと入ってしまえる。 誰の声も聴こえない、あたたかな暗闇の中におちてしまえるその瞬間を、天馬はサッカーをしている時間の次くらいに好きだった。 このままずっと眠れたら、それはどれほど幸せなことだろう。 そんなことを考える。 考えて、やっぱりそれは幸せではないなあと何度も思いなおすのだ。 暖かな暗闇はとても心地いいけれど、そこには天馬の一番大好きなものがない。 サッカーができないなんて、息ができないのと同じだ。 そう思うから、天馬はいつだってこちら側へ戻ってこられる。 「おまえ、変なやつだな」 どんだけサッカー好きなんだよ。 呆れたって顔で剣城が言った。 そんなに変なことなんだろうか。 「変っつうか異常」 「そ、そこまで言うッ!?」 「へんたい」 「ひ、ひどいッ!!」 そこまで言うか。 なんだよ、剣城だってサッカー好きじゃんか。 ぼそぼそ不平をもらせば、おまえみたいな好きじゃないって言われる。 それがどういうことなのかよくわからなかった。 「俺の好きは剣城の好きとは違うの?」 「まったく違うとは言わないけど、違うだろうな」 「どう違うの」 「お前のサッカーに対する好きは、」 どっちかっつーと愛してるに近い。 なんら感情のこもらない目が天馬を見た。 愛してる。 中学生が使うにはいささか重い言葉に思えた。 あいしてる、あいしてる。 そう言われればそうなのかもしれない。 「そっか、俺はサッカーをあいしてるんだね」 「たぶんな」 「剣城はちがうの?」 「あ?」 「剣城はサッカーをあいしてないの?」 「・・・愛してはいない」 サッカーは好きだ。でもおまえみたいに愛してるわけじゃない。 剣城によると、好きとあいしてるの間には埋めようのない差があるらしい。 天馬はまだそれを知らない。 けれど剣城は知っているのだ。 そう思うと、なんだか胸のあたりがざわざわした。 「ねえ剣城、好きとあいしてるの違いってなに?」 「さっきから質問ばっかだな」 「だってなんかすっごい気になる」 期待のこもった視線を送れば、剣城にまた呆れた顔をされた。 なんだろう。最近剣城のこんな顔ばっか見てる気がする。 もっと笑えばいいのに。 「感覚だろうな」 「かんかく」 感覚が違う。 好きとあいしてるの差は感覚らしい。 感覚って言われてもなぁ。 「うーん。やっぱわかんないかも」 「そのうち嫌でもわかるときがくるだろ」 ありふれた愛育 title 告別 20140731 |