昔からきらきら光るものが好きだった。
特にお気に入りだったのが色とりどりのビー玉で、病院で暇を持て余すだけだった太陽に母が買い与えてくれたものだ。
赤、黄色、緑、透明、いろんな色があったけれど、その中で太陽が一番好きだったのは青色をしたビー玉だった。
日に透かせた時の深い青さに、この中には海があるのかもしれいと信じていたあの頃が懐かしい。
本当の海を見に行くことはできはしない。
そう思っていた太陽にとってビー玉の中の海が本当の海だった。


 今、太陽の手のひらの上にはあの頃と同じように、色とりどりのビー玉がある。
赤、黄色、緑、透明。
ただあの青だけがなかった。


「せっかく天馬に見せようと思ってたのに」
「見つかんなかったんだから仕方ないよ」


天馬はそう言うけれど、やはり太陽はあの青いビー玉を天馬に見せたかったのだ。
あの中の海を見てほしかった。


「どこいっちゃったんだろ」


最後に見たのはたしか小学生のときだった。
その時に全てのビー玉を小さな箱に入れて、いつでも見ることができるように置いておいたはずなのに。
なんで無くなっちゃったんだろう。


「もしかしたら、海に還っちゃったのかもね」


 太陽の手のひらからひとつ、天馬の指が透明なビー玉を挟んだ。
透明のそれの内部を覗き込むみたいに自分の目に近づける。
そんな天馬を観察しながら、太陽はさっき天馬が言った言葉の意味を考えていた。
海に還る。
まあるいガラス玉が解けて、あの青の中に眠る海が溶けて、本当の海に還っていく。
あの青いビー玉が、天馬が言ったみたいに本当に海に還っていればいいと思う。
太陽の海が広大な海の一部になるなんて、すごく素敵なことなんじゃないだろうか。


「天馬は意外にロマンチストだね」
「なんか、それ恥ずかしいよ」
「えーほめてるのに」


透明なビー玉が天馬の手のひらでころころと踊っている。
窓から差し込む光が当たってきらきらきれいに輝いていた。
じっとそれを見つめている天馬の瞳もビー玉と同じくらいにきれいだと思った。


「それ、天馬にあげる」
「へ、いいの?」
「だって気に入ったんでしょ?」
「う、うん」
「じゃあ、もらってよ」


天馬にもらってほしいんだ。
そして、そしてね、もし僕がいなくなったら、それを還して。
天馬が一番大好きだって思う海に、そのビー玉を還してね。
そうしたら、ほんのちょっとのちょっとでいいんだ。
ふとした時にその海を、僕のことを思い出してさ、笑ってね。


天馬の流した涙が、透明なビー玉に吸い込まれるみたいにガラスをはねる。
そんなのやだよって嗚咽と一緒にこぼれた言葉を聴かなかったふりをしてもう一度、おねがいって残酷なことを言う僕をどうか許して。






思い出の海葬

title 告別


20140731









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