ゴロゴロゴロゴロピッシャーン。
ぼたぼたと雨が屋根や壁を叩く音を遮るような轟音だった。
ピカッと雨粒が垂れる窓の向こう側が白く光るのが見えて目がチカチカする。
雷だ、小さくそう呟くと同時に窓の外がまたピカッと光った。
小さい頃と同じように暗い部屋の中で布団を頭の上から被って窓の正面に座る。
どきどきわくわくしながら次の雷を待つ。
雷は綺麗だ。
白い光が夜空を裂いて一瞬のうちに消える。
発せられる轟音は鼓膜を揺らし、心臓に響く。
ちょっとびっくりするけれどそれがまた楽しい。
三度目の雷は今までで一番大きくて、だからかもしれない、誰かに、誰かに知らせたかった。
充電器に繋いだままの携帯を引っ張り出して、ふたつに折りたたまれたそれを開く。
液晶の光が真っ暗な部屋の中で眩しい。
電話帳を開いたところで指を止めて、じっと画面を見つめる。
しばらくそうしてから意を決してボタンを押す。
プルプルとおなじみの音が数秒続いて、「もしもし」と無愛想な声が聞こえた。


「こんな夜中になんの用だ」
「ねえ剣城さっきの雷見た!?」
「見てない」
「なんで、すっごい綺麗だったのに!」
「寝てたから」
「起こしてごめん!!」


失敗した。
剣城ならこの時間でも起きてるだろうと思ってかけたのに。
さっき迷惑かなって思ったときにやめておけばよかった。


「で、雷がどうしたんだよ」
「・・・また明日話すよ」
「なんで」
「だって剣城寝てたんだろ?だから、明日話すよ。じゃあおやすみ!」


そう言って電話を切った。
明日ちゃんと剣城に起こしてごめんなさいって言わなきゃなあ。
ざあざあと雨の音がして、窓の外をじっと見つめる。
雷はやんでしまったようだった。
今日はもう寝よう、そう思ってベッドの方へ行こうとすると携帯が鳴った。
あわてて名前を確認すれば、案の定そこには剣城京介とある。
やっぱり夜遅くに電話したのが悪かった。
絶対に怒られる。
おそるおそる通話ボタンを押した。


「も、もしもし」
「・・・勝手に切るな」
「ご、ごめん」
「で?」
「へ?」
「続きを言え」
「・・・なんの?」
「さっき、雷がどうとか言ってただろ」
「聞いてくれるの?」


驚いて尋ねれば、当たり前だろって呆れた声で言われる。
剣城はそう言うけれど、天馬にとってそれは当たり前のことなんかじゃなかった。
こんな夜遅くに寝ていたところを起こされて、雷の話なんて剣城にとっては少しもおもしろくないような話を聞かされるだけなのに、掛けなおしてくれるだなんて。
なんだろう、すごくうれしい。


「剣城」
「あ?」
「おれ、剣城だいすきだ」


そう言った瞬間に電話の向こう側でガンって大きな音がした。
びっくりして剣城、剣城って何度も呼びかける。


「剣城、大丈夫ッ!?」
「大丈夫じゃない・・・」
「え、なに、なにがあったの」
「なんでもないからほっといてくれ」


なんでもないって声じゃなかったけれど、ほっといてくれと言われたからには放っておいた方がいいんだろう。
大丈夫かな、ほんとに。
念のためにもう一度、大丈夫って訊こうとした声は轟音にかき消された。
ピカってまた、白い光が視界いっぱいに広がる。


「剣城、かみなり!今かみなり鳴った!!」


興奮してそう叫べば、「うるさい」って怒られる。
耳元で聴こえた声は少し眠そうで、明日はごめんとありがとうの両方を言わなきゃいけないなあと思った。



雷と心臓


20140731









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