19.オッサンと言われた

Side:Marco



***と共に達してしまった後は、ぐったりとしている彼女の身を起こし、並べたクッションの前に移動してそこに横たえた。
さすがにいろいろ垂れて汚しちまったクッションは、横へと並べたが。
おれも隣に身体を横にすると、胸元にしがみつくように寄ってくる***の身体を片腕で抱いた。
えろおやじ、とはよく言ったものだ。
確かにそうだと、自分でも納得して笑っちまったよい。
何度身体を揺さぶっても、何度激しく奥を突いても満足なんかしやしねェ。
そして恥ずかしがらせたり、困らせたり、とにかく***の秘部が締まることならなんだってしてェ。
確実に、えろおやじだろう。
***はさっきまで卑猥な声を上げておれを興奮させていたとは思えない程、穏やかな表情と雰囲気を持っている。
だが、その片鱗は僅かに残っており、汗を掻いた頬や額に貼りつく髪の毛。
それを一束一束、丁寧に指先で離してやると、くすぐったそうに身じろいでいる。
こういうところは、素直で幼さも見せていて可愛い。


「マルコさん、もっと…ぎゅってして下さい」
「もう名前や、ため口は終わりか?」
「…あ、あんな時じゃないと…」
「興奮した時だけかい」


すぐに頬を染めるところもわかりやすく、愛しくて堪らない。
不貞腐れた素振りを見せながらも、首筋へと両手を絡めてくるから、背に両手を回して抱きしめてやる。
胸の膨らみが密着するほどに、互いの距離を失くしてしまうと、またむくむくと下半身が疼きやがる。
収めたくて***の首筋に顔を埋めるも、その***自身がおれの頬へと唇を寄せてくるから、なんともいえねェ拷問だった。
ったく、こいつはわかってんのかい。
無防備なもんだ。
おれが未だに身体を欲しているなんて考えもしていない。
おそらく、キスをして欲しいんだろう。
こんな状態でキスなんかしたら…。
そりゃ、当然我慢は出来る。
なんっつっても、さっきまで抱いていたわけだから。
だがおれは二回イッただけであって、そこまで十分満足しているわけではねェんだぞ。
今でもまだ足りねェくらいなんだ。
無理をさせちまったかと、今はおとなしくしているだけだ。
いつ爆発してもおかしくねェ。
そんな悪態をつきつつ、求められるままキスをしてしまうから、惚れた弱みというものだ。
横向きのままではきちんと触れられない、との言い訳をしながら、***の身体を押してマットレスに沈めていく。
呼吸さえ塞ぐように唇を強めに押し付けてやった。
案の定、息を乱しながらも必死についてきている***。
…さすがに、おれ自身がもうすでにやべェから、これ以上は追い詰めねェ。


「***の髪、いい匂いがするよい」
「……ん…この匂い、好きですか?」
「ああ、甘い…***の匂いだ」
「シャンプー持ってきてるんです、あとでマルコさんの髪も洗いますね」
「ん?…あ、あぁ、頼むよい」


おれがこの匂いしてるってェのも微妙だが、ここは行為に甘えておこう。
指先に***の髪を絡めると、するすると引っかかることなく落ちていくそれ。
柔らかくて滑らかな滑りを持つその髪の毛は、何度触れても心地がいいもので。
それにおれの指で梳かし、指を差し入れる度に香る甘いシャンプーの匂いは、***の存在を主張しているようで誘われる思いだ。
正直、終わった後にまで、こんなにもまだヤりてェと思うなんてのは初めてだ。
一度出し終えた後も、まだ、ヤりてェ、もっと身体を欲して、愛しく思うなんてのは初体験で、どう落としどころを見つけるのかが今後の課題だと思った。
今まではとりあえず、時間の制限があったから止められていたものだが。
今回のように、時間がある限り、***を抱いてしまいそうで心底困惑している。
思いの丈を完全にぶつけて抱いてしまえば、壊してしまうことは確実だろう。
おれのすべてを受け入れると言った***のことだ、限界を超えても着いてくるだろうことは目に見えている。
それが己の限界で無理をしていることだとしてもだ。
だからこそ、おれの方が制限しなきゃならねェ。
そうしなければ、この旅行中の三日間は、寝る時と飯を食う時以外は全て、身体を繋げてしまうことになるだろう。


「***、少し休んだら散歩に行かねェか?このまま居ると、また襲いそうだよい」
「はい、でも…、まだ立てそうにない、です…」
「立てるようになったらでいい。この宿は敷地内にも景色がいい場所が多いんだ」
「このお部屋だけじゃないんですね」
「その要素も含めて、ここに決めたからな」
「たくさん、下見してくれたんですか?」
「まァ…それなりには」
「…私のため?」
「喜ぶ顔が見てェからな」
「じゃあもうちょっとだけ、イチャイチャして下さい」
「このまま居たら襲うと言ったろう」
「いいですよ、だって…全部受け止めるって言ったじゃないですか」


にこにこと笑みを向けているが、自分で今どんなことを言ったのか理解してんのか。
そこは定かじゃねェが、あまりの言葉に一瞬動きを止めてしまい、自分がこの子の掌の上で転がされているかのような気分になる。
だから遠慮なく、というよりは、お言葉に甘えてってやつだ。



**********



***が立てるようになったのは、夕方になるだろう刻。
流石に何度も、というわけにはいかなかったが、まァ、それなりに。


服を着て外に出ると、また違った景色が見えるから不思議だ。
柵で囲まれた自分達の部屋も庭があったが、そもそもここは宿の敷地内の大きな庭となっており、自由に散歩もできるとのことだった。
部屋とは反対側へ進んでいくと満開の桜の小道を見つけ、そこへ行ってみたいと***が言うから足を向けていく。
さすがに歩きにくそうにしている***の手を取り、共に歩んでいくと遠くから獅子脅しの音が響いてきた。


「何の音ですか?」
「獅子脅し、聞いたことねェか?」
「ないです、…怖い名前ですね」


何の疑問も持たずそう呼ばれているものと理解していたが、確かに物騒な名前ではある。
首を傾げる***の手を引いていくと、獅子脅しの他に水が流れる音も聞こえてくる。
足元は石段になっており、斜めに傾いている石もある為歩きにくい個所もある。
***を抱えてやろうかとも考えたが、覚束ない足元でおれに寄り掛かるようにも進んでいくから、これは役得ということにいておこうと思った。

やがて小道を抜けていくと、辺りが涼しい空気に包まれていく。
その先は開けていて、奥の方に小川が流れており、部屋にあるものと同じ東屋が見えていた。
さすがに、マットレスではなくベンチになっているようだったが。


「素敵…」
「近くに行ってみるか」
「はい」


寄っていくとますます獅子脅しの音が大きくなっていく。
小川に向かって左側に獅子脅し、右側に東屋という位置で設置されており、***は興味のある方へと足を向けていく。
おれはさっきから大きな気配が東屋の方から漂ってきていることが気になっていた。
それに煙草の煙が上がっていることから、誰か居るということは先程からわかっている。
女連れであるということも、油断を誘う要因になったとは思うが、
***があまりに嬉しそうに、そして興味深そうに獅子脅しを眺めるから、警戒が一瞬遅れた。
低めの笑い声がして、東屋に居た人物が立ち上がり、そして声に出して笑っているのが聞こえてきた。
咄嗟に***を背後へ隠す。


「盛りのついたガキがいると思えば、不死鳥、テメェか」
「……ベックマン!?」


顔に大きな傷があり、腰には銃を携えている大男。
昔の記憶にあるこの男のイメージと違っているところは、おかしな柄のマントを羽織っているということぐらいで、それ以外は大差ねェ。
完全に気が緩んでいた。
こんなところで、こんな奴に遭遇することなんて考えもしなかった。
不穏な空気に気が付いたのだろう、***もおれの背に身を寄せている。


「そんなに警戒するな、見たところテメェと同じでおれもオフだ」


奴が手を差し伸べた先、東屋から立ち上がった人影は、気配通り女性のもので。
まァなんというか、うちのナースと負けず劣らずな容姿の、若い女性。
気が強そうな女の肩を引き寄せて、マントの内側へと抱き入れている。
赤髪のところに女海賊がいた記憶はねェから、確かに、オフだというのは間違ってはいなさそうだ。
不穏な空気が和らいだことを***も感じ取ったんだろう、***がおれの背からベックマンを覗いている。
おれとしては隠しておきたい気もしたが、同じ場所にいるんだ、遅かれ早かれ姿は見えることだろう。


「お盛んだなァ」
「どっちがだい」
「随分可愛い娘連れてるじゃねェか、趣向でも変えたか?」
「あんまりじろじろ見るんじゃねェよい」
「いや、でも体の凹凸はある方…いい身体してんじゃねェか」
「いやらしい目で見んな」


にやにやしながらおれの背後の***を覗き込んで見ているから面白くねェ。
背後からは戸惑っているだろう***の様子も見て取れる。
獅子脅しに興味はありそうだが、何もここで観察しなくとも、この庭には他にもあったはずだ。
さっさとこの場を去ろう。
いい宿だと思ったんだが、失敗だったか。
うちのクルーじゃ、***をこんな目で見る奴はいねェ。
船の外の奴、まして海賊に会うのは初めてで、改めて警戒が必要だと肝に銘じられた気がした。
確かに、気が緩んでいたとは思う。
おれとしたことが。
熱に浮かされていたと言われたら、それまでだ。
情けねェ。
何より、***を舐めるように見る目が気に入らなかった。


「今夜貸せよ、交換といこうじゃねェか」


言葉を聞いた瞬間、腹の底から怒りが湧いてくるようだった。
背後にいる***の腕をしっかり握りしめ、戦闘態勢で足が鳥の形になっていく。
自分の意思でというよりは、素早く身体が反応したというような感覚だった。
***を貸せと言ったのか、この男は。
ふつふつとする怒りが後から後から湧いてくる。
おれのものだという気持ちと同時に、***を侮辱したという怒り。
許すわけにはいかねェ。
おれの体勢に、ベックマンも腰の銃に手をかけると思った。
さすがに反応するだろうと。
距離を取り今にも飛び掛からんばかりの自分と、半ば目を見開いてこちらの様子をうかがっている奴と。
数秒程、その体勢のまま互いの様子を静かに見守った後に、先に口を開いたのは奴の方だった。


「悪い、…悪かった。そんなに怒るとは思わなかった、戦闘する意思はねェよ」


すぐにでも、というおれの勢いを察してか、銃に掛かると思っていた両手は頭部の横付近まで挙げられている。
そして首を左右に軽く振るから、今度こそ自分の意思で足の形を元に戻すことにした。
おれの怒りが和らいだのを感じたのか、背後の***も小さくホッとため息をついている。


「うちのクルーに手を出されたと知れば、オヤジも黙ってねェ。必ず報復に来るよい」
「ちょっと待て、…その女、クルーなのかよ」
「うちのクルーで、おれのだ。べっぴんだろい?」
「おまえの…って。…そういうことか、だとしたら尚更悪かったな」


ベックマンは何かを察したようにでかい声で笑い出した。
楽しげな笑い声に聞こえたのだろう、***もおれの背から顔を出して軽く頭を下げている。
奴は咥えたタバコをふかして思い切り吸い込んだ後に、煙をやや多めに吐き出した。
そしていいことを思いついたと言わんばかりに、片眉を上げて提案をしてきた。


「この宿の近くにいい店がある、詫びに酒でも奢るぜ」
「…***、どうする?奴の顔が怖けりゃ断ってもいいよい」
「大丈夫です、なんかすごくいい人そうですし」


いい人そう!?
目がどうにかしてんじゃねェのかい。
どう見ても悪い人そう、だろうよ…。
***の返答を聞いてベックマンもあたバカ笑いしてやがるし。
***はガキの頃から海賊を見慣れているせいで、こういうところは少し鈍いところがある。



**********



ベックマンの言う近くのいい店ってのは、確かに割といい店のようだった。
正直田舎のバーを予想してたんだが、それとは大きく違うものだった。
いくつも並ぶ大きなソファに、落ち着いた雰囲気の店内、男性客ばかりを想像していたが、女性客、しかも一般のってのが付く客層がほとんどだ。
ここ数日、どうやら奴は通い詰めだったらしく、常連よろしく店員と親しくを会話し、一番奥のいい席らしき箇所へと店員に案内された。
***を奥側へ座らせ、対峙する形でベックマンとその女。
おれとこいつが向かい合って酒を飲んでるってのも、なんだかおかしな話な上に、互いに女連れだ。
もう二度とこんなことはねェだろうと思った。

聞けば、レッドフォースは隣の島に停泊中とのこと。
ベックマンは休暇でこの島には一週間の滞在、明日帰還と聞いていくらか安堵した。
随分と近くにいるんじゃねェか…。
面倒なことにはなりそうもねェな。
警戒は必要だが。
こっちも一応休暇中の身だ、その旨を話すと無礼講ということにはなったが。
おれも帰還すりゃ、一応報告は間違いねェなと思う。
電伝虫を置いてきたのが、ここで裏目に出た。



「ありゃお前さんの発案か」
「はい、学生の頃、同期と一緒に制作したものです」


酒も進み、気付けば、隣の***とベックマンが親しげに会話をしているところだった。
***もだいぶ酒が入り、気持ちよくなっているのだろう。
最初こそ緊張して、片言で返事をしていたというのに、今となっては会話がきちんと成り立っている。
というよりも、盛り上がってるじゃねェか。
奴の言動に一つ一つ嬉しそうに笑みを向けて会話をしている。
グラスに酒が減ってくれば、奴が注いでやり。
それに対して、注ぎ返しているから、大したものだとは思うが。
どちらかといえば、友好的な態度に頼もしく思える反面、面白くねェ。
ベックマンを見ると、完全に目尻が下がってんじゃねェか。


「便利な道具だ、毎日使わせて貰ってるぜ」
「嬉しいです、ありがとうございます!」
「お前、もしかして新聞で……表彰されてたか?」
「実は…はい、されちゃいました」
「へェ…で、今は白ひげ海賊団の船大工で、不死鳥の女、ねェ」


***がおれを見て嬉しそうに微笑むから、おれもつられて口元が緩んでしまう。
それを見たベックマンが、ぶふっと小さく吹き出して笑っている。
完全におかしな状況に、深くため息が出た。
それを見た***が、おれの様子をうかがった後に、身体を寄せて抱き着いて来た。
突然の大胆な行動に驚きは隠せなかったものの、ふわりとした甘い酒の匂いに混ざって、***の匂いが鼻孔を突くと、身体が自然に動き出す。
いつもしているように、***の背に腕を回して後頭部を支えて己の胸元に押し付ける。
しっかりと抱きしめてやると、抱き着いてきたのは***の方なのに途端に腕の中で狼狽えだすからまだ可愛いものだ。
少しだけ腕の力を緩めてやると、頬を膨らませて怒っている***が見上げてくる。
それを見るだけで、楽しくなってくるから不思議だ。
苦しかっただの抗議しているから、頬をつついてやれば更に膨らむのがよくわかる。
膨らんだ頬に手を添えて、しっかり固定してやると唇に短い口付けをしてやった。
途端に酒とは全く別の意味で顔が真っ赤になっていく***。
何か言いたそうに何度も口を開いては閉ざし、言葉にならない声を発して慌てている。
もう一度して欲しいのかと、親指で下唇をなぞっていると、ようやく***が言葉を発した。


「マ、マルコさんッ!…ここ、お店ですよ!」
「なんだ、べた惚れなのは不死鳥の方か」
「ああ、心の底から惚れてる。手ェ出したらただじゃおかねェよい」
「そんなのはバカでも見りゃ分かる」


相変わらず腕の中で***は怒って、おれの胸元を拳で痛くない程度に叩いている。
可愛らしい仕草をそのままにしていた。
ベックマンが、笑いながら咥えていた煙草の灰をガラスの灰皿へと落とす。
こんなにも笑う奴だったのかと、面食らいながらも、確かにうちの面子を思い出すと強面の奴らだって仲間内で酒を飲めばよく笑うもんだ。
おれも然り。
外から見るのと、こうして対峙して会話してみるのとじゃだいぶ違ェんだなと、ひとり納得していた時。


ドォン!


入口の方から、大きな音が響いて来た。
さすがにざわついていた店内が静まり返る。
ここで初めて、店内に流れていたBGMがはっきりと聞こえたくらいだ。
開いた扉からは、いかにも柄の悪そうな連中が何人も入って来ているのが見える。
***を腕に抱いていたのが良かった。
じゃなけりゃ、驚いた***は声が出てしまっていたと思う。
おれの腕の中、僅かに震えているからしっかりと密着させて抱きしめた。
向かいにいるベックマンも静かに酒を飲むことを続けている。
驚いたことに隣にいる女も、おれ達同様、驚くこともせずただ黙ってグラスを見つめていた。
この島限定で付添いの女なのかと思ったが、どうやら違うようだった。
ったく…面倒なことになったよい。
このまま静かに帰ってくれりゃ、おれも、おそらく奴も何もしねェ。
休暇中に、騒ぎなんかごめんだ。
だがそうじゃなかった場合…。
あまり考えたくねェから、とにかくこの場は黙っておくことにする。


「15人なんだが、席用意してくれや」
「申し訳ありません、只今満席となっております。お待ち頂くことになりますが、よろしいでしょうか?」
「よろしいわけねえだろ、…ああ、丁度いい、相席で構わないぜ」


偉そうな態度を見たところ、賞金首なのかもしれねェ。
それに小汚い格好をしているが、海賊の端くれだろうとも推測される。
奴らは店内を見渡した後に、女性客のみのテーブルに目を付け、そしてそこになだれ込むように数人が座った。
途端にがある悲鳴。
腕の中の***も声に釣られてビクっと震えている。
あまり、こういう場面は見せたくなかったんだが。
女性客のみのテーブルだけじゃ、足りねェんだろう。
男連れの客のところにも無理矢理押しかけ、男を押しのけて席に着いている暴挙にまで出ている。
そのうちここにも来るだろうか。
あいつらには、絶対に***に触らせねェ。

隣の席にまで奴らが押し入った時、一番最初に店に入ってきた男がおれ達のテーブルの前までやってきた。


「おいオッサン達、可愛いおねーちゃん置いて帰りな。今なら無傷で見逃してやるぜ?」
「静かに飲みてェんだ、騒ぐなら余所へ行ってくれねェかい」


小汚ェ男にオッサンと言われたことは気に食わねェが、仕方ない。
腕の中に***を隠しつつ、あっちへ行けと片手で示すと、逆上していくのが手に取る程よく分かる。
ベックマンへ目線を遣ると、口元を歪めて至極楽しそうに笑っている。


「…んだと、てめェ…!」
「キャ、キャプテン…そいつ、そいつら……!」
「白ひげのとこの不死鳥と…、赤髪のとこの…ベン・ベックマンじゃ…?」
「なにィ…?」


男の背後でそいつのクルーらしき男が、こちらを指して震えているのが見える。
背負った名前で怯えて帰ってくれるんなら、それが一番ではあるものの、さすがにそれだけでは引き下がれないようで。
イキがった男がおれ達のテーブルに片足を乗せて吠えてくる。
ああ…本当に面倒なことになった。


「不死鳥、後ろ…」


背後から漂う不穏な気配、それとベックマンの声、そしてその隣から突如発した銃声は、ほぼ同時だった。
おれが振り返ったのと同時に、こちらへソファ越しに手を伸ばしていた輩の頬を、弾が霞めて壁へと撃ち込まれていくのが見えた。
撃たれた男は放心状態で目を見開いたまま、ソファへと崩れ落ちて行った。
撃ったのは、ベックマンではなく、その隣にいる女だった。
未だ煙の出ている銃を仕舞うのと同時に、ベックマンが肩を引き寄せて、楽しげに言った。


「いい女だろ?おれは気の強い女が好きなんだ」



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