14.キスで火照った身体

Side:***



早朝。
朝目が覚めると、見慣れない部屋の風景。
ここはモビーの船室ではないと、すぐに認識できる。
窓から差し込む光がいつもの部屋のものと違う。
それに船の上特有の揺れがない状態。
何より、マルコさんとの距離がものすごく近い。
私に腕枕をしてくれて、今は目の前ですぅすぅと小さく規則的な寝息を立てている。
可愛い…。
いつもは皆を纏めてくれたり、仕事の指示を出したり色々な計画を練ったり。
なんでも取り仕切ることが上手くて、なのに誰にでも基本親切で。
そんなすごく偉い立場の人が、今こんなに近く、目の前ですやすやと眠っている。
そんな人が私のことを好きだと言ってくれている。
時々信じられなくなる程、この事実が奇跡だと思える時がある。
まだきっと起きる前の時間だろうと思うから起こさなくてもいいんだけど。
っていうか、眠らせてあげたいと思うんだけど。
悪戯心が止まらない。
マルコさんに触れたくて仕方がない。
ぷっくりとしたマルコさんの下唇を僅かに突くと、うっすらとそこが開いた。
わっ…。
めちゃくちゃ色っぽい。
僅かに眉間に皺が寄ってしまっているから、これ以上のイタズラは止めようと思った。
これ以上触ったら起こしてしまう。
睡眠を妨げるのは本来の目的とは違うのだから。
だけどマルコさんの唇がゆっくりと開閉していく。
それが止まらないから困ったものだ。
今すぐにでも、自分のそれを重ねてしまいたい思いに支配されそうになる。
ダメ、今はまだ、ダメ。
自分にそう言い聞かせた。


「***…」


擦れた低めの声で名を呼ばれると、ビクッと肩が震えた。
あれ、起こした?
ドキドキしながらマルコさんの顔を覗き込んで見たけど、呼吸音は未だに規則的に続いている。
なんだ、寝言か。
…ん?
寝言…?
寝言で私の名前を!
自分から仕掛けた悪戯なのに、私自身が照れさせられることになるとは。
ドキドキする鼓動が速度を上げて鎮まる様子が全くない。
あああ、どうしよう。
これは照れる…。
この鼓動で起こしちゃわなきゃいいんだけど。


「…んん…ッ…***」


僅かな唸り声と共に、再び名を呼ばれる。
腕枕をしてくれている手が私の肩に到達して、そこをしっかりと掴まれた。
腕の中に抱き込まれる形となり、より一層マルコさんに強く身体を締め付けられていく。
もう一方の腕が、腰に触れたと思うと、身体を這って上昇してくるのがわかる。
何かを探るように指先が辿ってくるから、くすぐったいのと欲により熱までも上昇してくるのがよくわかる。
自分の身体が次第に火照っていく感覚。
胸の横を通った時は、ぴくりと震えた指先が一瞬迷ったようにも感じたけど、更に上を目指してくる。
あごの感触がわかったのだろう、幾度かそこを撫でられた後に、しっかりと掌で頬を包み込まれた。
やや上を向かされる角度が、いつもマルコさんとキスをする時と同じそれで固定された。
これ…もしかして、起きてる…??
覚醒を疑う程の、適格な動きだった。
動揺していると、そのまま唇を重ね合わされた。
最初は、触れるだけのキス。
でもそれ以上もとなると、私の心臓がもちそうにない。
触れ合わされ、重なり、ぐっと押し付けられた後に、至近距離に唇を残したまま、再びマルコさんが寝息を立て始めた。
ね…寝た…!?
寝ちゃったよね…?
っていうか、やっぱり寝ぼけてた?
寝ぼけてるだけでも、あんなにすごいキスが出来ちゃうんだ。
多分私はこのまま眠れないだろうけど、せめてマルコさんの睡眠だけは守っていたい。
そう思いながら、身体を時折滑るシーツの感触に耐えていた。
一緒に眠る時は裸で、とのマルコさんとの約束。
確かに肌を触れあわせることは気持ちいいし、安心もするんだけど。
未だに慣れない。
時に身体に掛けているシーツや布団や毛布が、素肌を滑って行く時なんかは、ゾクゾクする時さえある。
今みたいに、ぴったり肌を合わせている時は、そういう面積は少ないんだけど。
せめて起こさないように…。
私からも、朝起きるまでは身体を出来るだけ密着させておこう。



**********



Side:Marco



朝。
目が覚めると、至近距離でおれを見つめる***と目が合った。
すぐ傍に、僅かに首を動かしただけで唇が触れてしまいそうな距離を保っているから、挨拶代わりにそれを重ねてやった。
幾度か唇を開閉し、舌先で***の唇を舐めると、一気に脳が覚醒していく。
おれも、おれ自身も目覚めてしまい好み心が刺激され、唇を重ねたまま***の身体の上に体重を乗せた。
***の足を割って自分のそれを差し入れ、重心をずらしていくと、ギシリと耳慣れない軋む音が聞こえた。
そういえば…。
ここは自室ではない。
普段利用する安い宿の一室。
おまけに、男が女に欲望丸出しで利用するような部屋のベッドの上だ。
昨夜あんなにも頑張って、ここでは抱かないようにしたのに、今それを破るわけにはいかねェ。
自分の一環した思いには、呆れる一方それでいいとも思える為、まだ理性は保てているようだ。


「おはよう」
「おはようございます」
「こんな宿は、さっさと出ちまうよい」
「はい、…あ、お腹空きませんか?」


ああ、腹が減った。
どこかで飯を食うのもいいかもしれねェ。
さすがにこの体勢は名残惜しいものの、それはまた今夜にでも自室ですりゃいいことだ。
身体を起こし、同じくベッドから上半身を起こした***に、もう一度だけキスをしてから、ベッドから抜け出た。

互いに身支度を整え、さっさと部屋を後にする。
店主に数日分の宿代を支払い、外へ足を向けるとそこは朝から良い陽気の気候がおれ達を包んだ。
冬島は冬島でいいものもあったが、春の島はやはり心地よい。
宿の淀んだ空気から一転して、呼吸を深くしても身体にはよっぽど良さそうだと思った。
***はどこか朝食の取れる店を、と探していた様子だったが、おれは共に飯を食える場所には思い当たるところがある。
テイクアウトの出来る店で、サンドイッチやコーヒーを買い込み、***の腕を引いて先を急いだ。
何しろ、昼にはモビーが港へ入港する。
その1時間前から、物品搬入の業者が連なり待つことになるんだ。
おれとしては、2時間前から港へ出向いて準備をし始めなくてはならない。
どう頑張っても、ゆっくり飯を食えるのはあと1時間ってくらいだ。
自然と急ぎ足になってしまうのも仕方がねェと思っていた。
***を抱きかかえて飛んだっていいくらいだ。
だが引いていた腕を瞬間的に離され、ひやりとしたものが背筋を伝った。
おれ自身焦ってしまったのも束の間で、それは指先を絡めるように***が手のつなぎ方を変えたようだった。
思わず振り返り、***の顔を見ると、えへへと小さく笑いながら照れている様子。
おれの焦り等微塵も伝わっていなかったことに、何故か安堵した。
***がおれの手を離すわけがない。
そんなことはわかりきっているハズなのに、どうしたってそういう不安が着いて回るから面白くねェ。
さっち曰く、それが恋だ、らしいが。
こんな弱ェ自分は、そんなに要らねェんだがな。


到着したのは桜の木の下。
この島特有の花で、年中咲いてるってヤツだ。
そこかしこに植えられているこの木は、島全体に生息している様子で、どこに行っても綺麗なものが見えはする。
だが偶然、一昨日あたりに訪れたここは、人気も少なく、何本も桜の木が植えてあって静かな場所だった。
丁度円形に植えられている桜。
その中央には舞った花びらが湖のように重なり合い、桃色の絨毯を作っているようだった。
きっと***は気に入るだろう。
見つけた時、真っ先に考えたのはそれだ。
案の定、連れてきたときの歓声は、感嘆としていておれを満足させた。

ひらひらと、ゆっくり舞い降りてくる桜の花びらを眺めながら早々に朝食を片付けてしまい。
今は、***を桃色の絨毯に押し倒しておれが乗り上げている状態。
***をここに寝かせたら、綺麗だろうと思った。
予想以上にそれは艶やかで、照れて染まる***の頬と同じ色をしている。


「桜、マルコさんに似合いますね」
「……ん?」


花びらの上に寝ているのは***の方のはずだが。
おれから見ても、***に良く似合う色だ。
なのに、おれが、か?
怪訝な顔をしていたのだろう。
***がおれの肩越しに、ほらっと立てた人さし指で示すから目線だけ振りかえって見ると。
木の幹から伸びた枝にもびっしりと咲く花、おれの背後にも、桜が広がっていた。
ここは上下に、挟まれた空間だったのか。
***の身体を抱き上げ、そして今度はおれ自身が転がると彼女を自分の身体の上に乗り上げさせる。
なるほど。
絨毯もいいが、空もいい。
どちらもよく似合っている。


「明日予約してある宿も、部屋から桜が見えるよい」
「嬉しい、楽しみにしてます」
「桜を見ながら、***を抱きてェんだ」


その一言で、***の頬が桜以上に色を付けていくから、愛しくて堪らない。
下から***の唇にキスをすると、それから時間ギリギリまで離すことが出来なかった。



**********



Side:Thach



「***ちゃんとエース、マルコには会えたかなァ?」
「お前昨日からそればっかりだな」
「だってよ!?広い島で会えるなんて、奇跡に近ェんじゃねェの?」
「マルコはともかく、***は日ごろの行いも悪くねェんだ、会えてるって信じてやろうな」


イゾウに、どうどう、と慰められること数十回。
これは昨夜から続いている、儀式的なものだ。
ストライカーが転覆してたらどうしよう!?
なんて縁起でもないことを言おうものなら、思いっきり脛を蹴られたから二度と言わなかったけど。
でもさ、そりゃ愛の力ってすげぇのはわかってっけど、そう上手くいかないのもまた現実でもあり。
あああ、もどかしいッ!


昼。
モビーの入港は、今日はお昼の12時。
島が見えて、港が見えて、時計を見ると定刻だった。
やがて近づいてくる港には、いつもの勝ち誇ったようで偉そうに立っている紫の上着の男の姿が見える。
その傍らに、マルコにしっかり肩を抱かれている小柄な女性の姿もぼんやりと見えてくる。
ああ、***ちゃんだ!
会えたんだァ、良かったなァ。
思わず涙ぐみそうになる。
隣に来たイゾウが、おれの顔を覗き込もうとするから必死に堪えたけど。


「どうした、お前は母親かよ」
「う、うるせー!」
「だから言ったろ、日頃の行いの賜物だ。マルコは別として」


会えたんだとしたら、まァマルコの奴は止まらなかっただろうな。
昨夜の兄弟の心中を察すると、胸が熱くなる思いだった
そりゃ、愛しい女がわざわざ会いにやって来たんだ、嬉しくないわけがねェ。
そりゃ、ムラムラっときたっておかしくないわけで。
そりゃ、もう…ねェ?
皆がそろって甲板に出て手すりに並び、各々手を振ったりいている。
それに応えて、***ちゃんが皆に大きく手を振ってくれた。
そうなると、そろそろ表情も見えてくる。
マルコの顔はやはり勝ち誇ったような、いつものクールな表情だったけど。
***ちゃんの表情は、まさにおれ達がずっと見たかった満面の笑みだった。
ああ、嬉しそうだなァ。
良かったな、***ちゃん。
冬島で、マルコがいなくてふらふらっとしてた時に比べたら、今回は嬉しいだろうなァ。
また涙ぐみそうになると、イゾウが面白おかしく茶化してくるから、今度もまた必死で耐えた。


「グラララ、嬉しそうだなァ」
「***ちゃんのあんな笑顔は、おれ達にはさせてやれねェ」
「何言ってやがる、マルコの方だ」


マルコが嬉しそう?
いや、嬉しいだろうけど…今はどう見たって、いつもの仏頂面じゃねェ?
おまけに眉間に皺まで寄っちゃってますけど?
オヤジの目に、マルコの顔がどう映ってんのかはわかんねェけど、嬉しそうなのはオヤジも一緒だから、まァいっか!

やがて港にモビーが横付けになり、甲板から大きな階段状の足場が港に下ろされた。
こっからは割と夜まで忙しいぞ。
食材はあんまりねェけど、酒とかその他物品は今日入れちまうから。
マルコ達の後ろには、業者と思われる商人がわんさかいたし。
全員が船を下りたり、物品を搬入しようと動いた時、オヤジがドンっと剣の柄を甲板に叩きつけて大きな音を立てた。
さっきまでの喧騒が、一瞬にして静けさに変わる。
その場にいる全員が注目して、動きを止め、オヤジを見たからだ。


「マルコォ!次からは偵察に***も連れて行けェ!」
「いや、オヤジ…!危ねェから…」
「惚れた女の一人ぐれェ、死ぬ気で守れ」


まさかの公開処刑に、予想外だったんだろうマルコが真っ赤になっていた。
いつもはクールな金髪パイナップルが、今は珍しい赤パイナップルになっている。
いやおれ等もさ、そんなこと注目させて言うわけねェじゃん、って思って、さすがにポカンとしたよね。
おやじ一人が楽しそうに笑う中、ひとり、またひとりと、マルコとオヤジのやり取りを聞いて吹き出した。
それが全員に伝染していく頃、船全体が揺れる程に皆で笑った。


「わ、わかってるよい!…うるせェぞ、テメェら。さっさと搬入しろい!」


半ばやけくそ気味に当たりの業者に指示を出しているマルコ。
その少し離れたところでは、同じく頬を染めてはいたものの嬉しそうにしている***ちゃんの姿があった。
マルコは時折、あああッて言いながら頭をガシガシ掻いているから、相当恥ずかしかったんだろうな。

でもなァ。
ま、いーんじゃね?
人間っぽくて。



**********



Side:***



夜。
今日は本当に忙しかった。
主にマルコさんが、だけど。
私も自分のチームの発注品は確認したし、個人的にこっそり欲しくてお願いした物品についてもきちんと確認をした。
私がしたのはその程度のことで、マルコさんはほぼ全体の搬入物をチェックしているから、相当大変だっただろうと思う。
夜になってゆっくりお風呂にまで入れた私と、深夜ギリギリになるまでチェック作業を終えて、ようやくシャワーを浴びることが出来たマルコさんとは、疲労具合が全く違う。
…はず、なのに。
まだお風呂やシャワーの熱が冷めない身体を互いにベッドに投げ出し、重なり合うように抱き合って、キスをしている。
かろうじてお互い部屋着は着ているけど、マルコさんはすでに上半身裸だし、私ももうほとんど下着姿にされていた。
呼吸もままならない程、マルコさんの唇が私のそれを塞ぐ。
ただひたすらに、部屋には唇を重ねている時特有の水音が響き渡っていた。
ただ舌がまだ入ってきていないだけで、何度も唇を啄まれるから必死で隠しているけど、ゾクゾクしてしまう。
時折ビクっと肩や腰が震えてマルコさんにしがみ付いてしまうから、そんなことはバレバレなんだと思うけど。


「…はぁ…、ベッド…***の匂いがするよい…」
「三回、…ひとりでッ…はぁ…寝ました」
「淋しかったかい?」
「淋しかったです…でも、皆さんにお願いしてくれたんですよね?」
「…あぁ、バレてんのかい…」
「嬉しかったです。ありがとうございます、マルコさん」


私を見下ろす優しげな目元。
頭をなでてくれている手がゆっくりと頬へ降りてきて、柔らかくそこを撫でてくれる。
その一連の動きが私は好きだ。
まるで指先から、マルコさんから愛してると伝わってくるようだから。
それに今日は、何も縛りがない。
今朝までいた宿のベッドとは違うんだ。
あれはあれで、あの狭さがマルコさんと密着できて私としては嬉しかったんだけど。


「今何か、別のことを考えたか?」
「マルコさんが好きって、考えてました」
「他は?」
「今朝のベッド、密着できて良かったなって」


私の答えが予想外だったんだろう、一瞬目を見開いたマルコさん。
だけどその表情は、いつもより一層妖艶に笑みを浮かべてく。
あ、悪いこと考えてる時の顔だ。
背中に片腕を差し入れられ、あっさり下着のホックを外されてしまう。
もう私に残された衣服は、下のみだ。
マルコさんと一緒。
こんなとこ、お揃いにしなくても!
片手で背中を持ち上げられたまま、マルコさんに胸元にキスをされていく。
それがだんだん熱を帯びてくるから、私もそれを察するようになってきた。
じゃれているキスと、その後があるキスの違いが。


「悪かった、そんなに密着してェなら、今ここでしてやるよい」
「…んッ…灯り…消して…ッ」
「消すわけ…ねェだろい」


それはいつもの愛の儀式。
今日は朝からずっとキスばっかりして、私だって身体が火照っている。
マルコさんと繋がりたい。
私がそう思ったって、いいよね…?

求めるままに、重ねるだけのキスが深いものになっていき、マルコさんの舌にノックされると自然とそれを開いて受け入れてしまう。
それが開始の合図かのように、マルコさんの手が私の身体を撫で始め、衣服が取り払われていった。
今夜はたくさん、私からも愛してるを込めて。
昨日の分も、思い切り甘えようと思った。

明日もまだあるというのに、島に出払って人気の少ないモビーの自室で、朝方近くまで愛し合った。
お互いにキスで火照った身体を冷ますように、何度も。
でもそれは、更に熱を入れることに繋がってしまったようだった。
…良かった、人が少なくて。



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