01.一喜一憂

Side:Marco



頭がガンガンとする勢いで痛み、否応なく睡眠から放り出された。
ここは自室でまだ薄暗い中であるため、早朝前といったところか。
身体を起こすと、また強い痛みが頭部を襲う。
おれが身を起こしたことで掛けていた毛布がずれたのだろう、***が軽く身じろぎをした。
肩が出てしまっている。
これでは風邪を引かせてしまうか。
肩までかけて包んでやると、ほっとしたように再び静かに眠りに落ちていった様子だった。
幾分安心としたが。
サイドテーブルには、水差しと以前冬島で買ったグラスが並べてある。
おれが起きた時に飲めるよう***が置いてくれたのだろう。
残念ながら暗がりの中ではグラスの細工の素晴らしさはわからないが、それに水を注いで一気に飲み干した。
身体に心地いい。
そして一気に昨夜の醜態を思い出す。
自分は酒に飲まれたのだ、記憶なんて飛んでしまえばよかったものを。
逐一自分が発した言葉、行動、言われた言葉等全て記憶に残っているから、腹立たしい。

だが、嬉しかった。
そう感じていたのは認める。
***が世界的な賞や今後受けるであろう名誉よりも、おれ達と居ることを選んでくれたこと。
それに、おれの嫁になりたいと、それが夢だとはっきり口にしたこと。
ただそれが、嬉しかったんだ。
もう一度、シーツに包んだ***を見ていると、無性に肌を合わせたくなった。
抱きたいとかそういう性的な感情ではなく、単に素肌を合わせることの幸せを、今この身に与えてやりたいと思った。
昨日の醜態は、一時忘れよう。

上着を脱ぎ、ベッド下に放る。
どのみちこのシャツは、洗濯行きだ、気にすることはない。
***を包むシーツを捲ると、またひとつ身動ぎしている。
その身体へ腕を伸ばして抱きしめてやると、おとなしくおれの腕の中に収まる***の身体。
まだ目覚める気配はなく、気持ちよさそうに眠っている。
***の着ているものは、手触りがいいもので指先にも優しい感触はあるものの、それよりも手触りのいい肌をおれは知っている。
ファスナーを下ろし、前を開いても、まだ中に来ている薄い下着によって素肌が守られている。
普段よりは少ないものの、今はその厳重な防御が邪魔で仕方がなかった。
それに以前に言ったハズだ。
眠る時は裸で、と約束をしたと記憶している。
これは***のせい。
約束を守らなかった***のせいだと、勝手に腹を立て、薄いシャツも捲り上げた。
これでやっと晒される***の素肌。
上半身を横から重ねてみても、やはり衣類が邪魔だった。
***との間には、こんなものは必要ないんだ。
やはり、脱がせてしまおうと決めて、腕からパーカーを抜き、捲っていたシャツを首から外していた。
すると、さすがにこんな大きな動きをさせていたら、気が付くのは当たり前だろう。
***の目が僅かに開いた。


「マルコ、さん…?」
「お前の肌が、恋しィんだ」
「…ぎゅってして、ねましょ…」


まだ夢現だった様子で、言葉の途中でも寝息を立てて眠ってしまう***。
彼女の望み通り、首筋の下に腕を差し入れて腕枕をし、腰付近に回した手でその身を自分へと寄せた。
暖かい。
決して外気温は寒いわけではない。
だが、こうして肌を合わせると、心が暖まるというのだろうか。
何バカなこと言ってんだい、と、以前の自分なら笑っただろう。
温度は温度、身体に感じるものしかない筈だと。
だが今は違う。
さらりとした素肌の感触、それに自分とは違う体温と触れ合うことの心地よさ。
これを知ってしまったら、手放せるはずもない。

次第に暗がりに目が慣れ、***の寝顔が見えるようになってきた。
呼吸は規則正しくされており、だが、その一方で僅かに開かれた唇が自分を誘っているようにも感じる。
先程、性的なものはないと考えていたはずだが、すぐにそういうものに支配されてしまうのも事実で。
ぞくりと心が擽られ、考える間もなく、***の唇にキスをした。
重ね合わせるだけでも満足だった。
なのに、***の唇からは、甘い吐息が漏れている。
ん…と小さく声が聞こえると、更にそういう気持ちが芽生えてしまうのも仕方がない話だ。
***の唇から発せられる声をいいことに、行為を続けようと手を乳房に乗せてそこを柔らかく揉んでいく。
柔らかさが手に感じられるのと同時に、宴での出来事を思い出してしまう。
ああ…こうして、揉んでしまっていた。
今もこうして乳房に指を沈めると、寝ているというのに僅かに色っぽい表情になってしまうというのに。
昨夜はどうだったのだろうか?
腹が立つことに、そのあたりの記憶は曖昧で覚えていなかった。
もしかすると、ここに触れたことで誰かにこの表情を見られたかもしれない。
もしもで、しかも万が一の話であるというのに、激しく嫉妬した。
リズムを付けて何度か唇を重ね、その動きに合わせ乳房を揉んでいくと、更に上がる***の呼吸。
おれの手によって乱れている、ということに更に興奮が増していく。


「ん〜…っ…眠いの…」


あまりに性急に事を進め過ぎたか、***が大きく身を動かし、首を左右に振っている。
眉を寄せていやいやと首を左右に振り、驚いたおれが思わず手を離してしまうと、表情は元に戻った様子だった。
今までこんなにはっきりとした拒絶を受けたことがなく、胸が痛んだ。
それは無意識にだったとしても、どこかショックが隠せない。
昨夜の失態で嫌われてしまったか…。
こんな小さなことでも動けず、ただじっと***の動向を確認してしまうあたり、まだまだ彼女には振り回されるだろうと思う。
そんな***は、再びおれの温もりを求めて身を寄せてくるから、先程浮かんだ思いが杞憂に終わったことに、心の底から安堵した。

肌が直に触れているだけでも、今夜は満足としよう。
僅かに残る性欲を鉄壁の理性の中に押し込み***の身体を強く抱きしめた。


好きな女と一晩いて、よく我慢できたねお前。


どこからか、バカの声が聞こえた気がした。
我慢なんか出来ねェよい。
だが、無理矢理抱いて嫌われるのが、今は一番怖ェ。
怖い、とおれが感じているのが可笑しかった。
悪い気分ではないが。
おれの腕の中、すやすやと気持ちよく眠るこの少女の動向に、一喜一憂している。
改めて額にキスをすると、頬が緩んだように見えた。

この甘い温もりのまま、また眠ってしまおう。



**********



Side:***



温もりに包まれて目が覚めた。
外からは明るい陽射しが入り込んでいる。
朝になったんだと感じられる。
目の前には、マルコさんの胸のマーク。
素肌に触れているのが気持ちよくて、すりすりと動かしていると、腕に当たる自分の胸元。
指先で探ると、上半身、裸!?
あれ?
服着て寝なかった?
おかしいな…?
ちょっとだけ身を持ち上げてマルコさんの向こう側に目をやると、ベッドの端にかろうじて引っかかっている私の部屋着。
昨晩、というか、朝方?酔いから覚めたマルコさんに脱がされたんだ。
朝だっていうのに、一気に顔が熱くなるのを感じた。
そのマルコさんといえば、今はすうすうと小さな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。

昨晩は、可愛かった。
子供みたいだった。
可愛いなんていうものじゃなかった。
なに、あれ。
もう本当、どうにかなるかと思うくらい、愛しい。


こいつのこと頼むな!


サッチさんに昨日言われた言葉が、頭の中でもう一回再生された。
オヤジにも前に、返すなよって言われたことも同時に思い出した。
家族を大事にしていて、その家族にも愛されてる人。
そんな人に、おれの嫁、って言われた。
嬉しすぎて、ふふって笑うとマルコさんが少しだけ動いた気がした。
部屋の外からは、クルーの皆さんが廊下を行き交う足音も聞こえ出している。
もうそろそろ起こそうと、目の前にあるマルコさんの胸元をとんとんと叩いた。


「マルコさん、おはようございます」
「…ん……?」
「朝ですよ〜」
「…まだ、…起きねェ…」
「もう、モビーは活動を始めちゃってますよ」


眉間にしわを寄せて、まだ起きないと駄々をこねるのも可愛いと思った。
私が先に起きてマルコさんを起こすなんてことはあんまりないから、これはこれで新鮮だ。
何度か胸元を叩いたり、揺すったりするものの、マルコさんは全く起きる気配がない。
どうしたものかと悩んでいると、私の腰を抱く腕が動き出した。
背中をするすると撫でて、滑るように何度も撫でられる。
くすぐったさと気持ちよさが一気にきた。
だけどそろそろ、それは覚醒も意味しているようで、さっきからの試みは成功といった様子だった。
撫でている手が、お尻を通って太もも付近までくると、それを引かれて膝を折り、マルコさんの身体に乗せられてしまう。
そのまま手の動きがおしりへと戻っていき、するりとズボンをお尻から摺り下ろされた。


「ま、マルコさん!?」


これは、もう起きてる!?
あっという間に足からも抜かれ、下着一枚になってしまうと、慌ててマルコさんの顔を覗き込む。
目は閉ざされているものの、口元が緩んでいるように見えた。


「起きてますよね?」


そう問いただしている間も、下着の横の紐に指がかかっているようだった。
ちょっと、もう、ほんと、だめ!
朝からしちゃったら、絶対声も音も、全部誰かに聞こえちゃうから。
抵抗しようと腰にあるマルコさんの指を止めると、すぐに絡め取られて握られ、彼の口元まで移動させられていく。
マルコさんの唇に触れられ、それに指先が挟まれて幾度か揉まれると、意識が完全にそこに集中してしまう。
何度も唇でやわやわと挟まれ、舌先でつんと突かれると、びくりと身体が震えて小さく声が洩れてしまった。
それと同時に、防御していたはずの下着の紐の片方が解かれてしまう。


「マルコさん、てば!」
「ん…起きてるよい。***はおれが好きかい?」
「な、なん、なんでそんなこと今訊くんですか。大好きに決まってるじゃないですか」
「なら、問題ねェ」


解かれた下着の紐はそのままに、首筋からあごにかけてマルコさんの手が昇ってくると、上を向かされて固定される。
もうすっかり目を開いたマルコさんが、私の身体に半身乗り上げて真剣な表情で私を見下ろしていた。
今こんな表情をするなんて!
わかっててやってるんだと思う。
こんなの、絶対抵抗できるわけないじゃない。
マルコさんの目論見通り、全く抵抗しない私を見て唇の端を上げて笑い、そのままそこを重ね合わされた。
簡単に受け入れてしまうけど、大好きなんだから仕方ない。
柔らかなマルコさんの唇が触れてくれれるのは、私自身大好きで、気持ちいいから。
だけどそれが、次第に性的なものに変わっていくと、ずしんと下腹部に響いてきてしまう。
先程解かれた紐が、太ももに落ちて更にその先、下腹部にまで垂れてくると、まだマルコさんに触られているわけでもないのに、しっとりとした感覚に襲われた。
朝から、ダメ!
抵抗しようにも、どんどんマルコさんが私に乗り上げてくるし、キスは深まる一方だし、私も本気で抵抗できないし。


「今朝、一度目が覚めたんだ」
「…ん、は、はい…?」
「今みたいに***に触れた」
「だから…服脱げてたんですね…」
「ああ、だが…何も出来なかった」
「うん…え?…なんで、です?」
「嫌だと抵抗されたよ」


マルコさんの眉が下がってしまっている。
そして小さくため息を吐いている。
えええ?
抵抗した?
私が!?
イヤだって?
嘘だ…。
そんなことあるわけないのに。
それでも目の前のマルコさんが、悲しそうにしているから、私も困ってしまう。
そしてすごく切なくなってしまう。


「もしも…そうだとしても、絶対本心じゃないです!」
「眠っていてもか?」
「だってマルコさんを拒絶するなんて、ありえないです」
「今も、か?」
「もちろんです!」
「安心したよい、朝は特に凄ェんだ覚悟しとけ」


途端に笑顔になっていくマルコさん。
あれ?
今もって言った?


「ああ、言い間違いをしたよい。嫌だじゃなく、眠いと言っていたな」


そりゃ眠けりゃ、抵抗することもあるんだと思うの。
…あー…これは完全にやられた。
もうこれで、今抵抗することは不可能になってしまった。
上機嫌のマルコさんは、私の首筋に唇を寄せている。
私も、本気で嫌がっていたわけじゃないから、心底困るんだ。
だって最近、つい声もおっきくなっちゃうことがあるから。
前は、別の船だったり、宿の一室だったりしたから良かったものの、今はモビーの自室だ。
おまけに、これからこの先ずっとここで生活して行かなければならないんだから。
他の人に聞かれたりするのは、恥ずかしいと思う。

だけど今は止められなくて。
全部脱がされるのと同時に、マルコさんも下を脱いでベッド下に放っているから、もう止められない。
そのまま受け入れて、マルコさんと抱き合った。
朝からだったけど、至福の時間。
いっぱい愛してるって言われて、幸せの時間。
この先も、ずっとこうしてマルコさんに愛されたい。
私もずっと愛していきたい。



なんとか悲鳴だけは押さえたけど、マルコさんの宣言通りすごかった。
どこまで我慢できていたか、正直自身がない。
ふたりで、呼吸を乱してベッドに横になっていた時、扉の向こうから大きなノック音が聞こえてきた。


「マルコォ!!一番隊の隊員がここで困ってんぞ!早く服着て開けてやれ!」
「サッチ隊長、止めて下さいよ!後で叱られるのおれなんですからね!」


聞かれてた!?
扉の外では、おそらくサッチさんと隊員の人が揉めている。
隣にいるマルコさんは、心の底からお怒りの様子で、大きなため息を落としていた。
頭を抱えた後、顔を上げて私を見ると、小さく笑った。


「支度、出来るかい?」
「はい…あ、待って」
「…ん?」


大好きの意味を込めて、マルコさんの唇に自分からキスをした。
ちゅって小さく音のなるキス。
そして小さく笑い合って、お互い身支度を整えだす。
…はずだったのに、マルコさんにまた火が着いてしまい、ベッドへと再び沈められた。
キスが深まり、また口内へと舌先が侵入してくる。
いや、ほんとにダメですって。
待たせてるし!
扉のすぐ外に人がいるし。
今度こそ、本気の抵抗をして、マルコさんを止めた。
多分この先も、ずっとこんな日常なんだと思う。

それが、私の選んだ日常。
っていうか、勝ち得た日常ってところかな。




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