55.ずっと傍にいさせてください

Side:***



果物でべたべたになった身体を洗っても、またマルコさんと抱き合ってしまった為、共にシャワーを浴びた。
でもそのシャワーでも互いを求め合ってしまって、何度も身体を重ねてしまうから、最後はお互いひとりでシャワーを浴びた。
バスルームの床は、さすがに痛かったし冷たかったから。


互いの身支度を確認しつつ、部屋を出る頃にはもう外は真っ暗になっていて、廊下にはいい匂いが充満していた。
夕食の時間になっているんだろう。
連れ立ってラウンジに戻ると、イゾウさんがさっき私達が座っていたソファに、イルヴァさんとお酒を飲んでいるところだった。
そこへ近づいていくと、二人は気が付いた様子で、笑顔だったのになんだか呆れているような、それでいて私には同情しているような目線を向けられる。
マルコさんはイゾウさんの隣に腰を下ろして、ちらと目線を彼に送ると、首筋に片手を当てて困ったように呟いた。


「悪い、ベッドやソファ、果物でよご…」
「いやいい、言わなくていい。生々しいから今は止してくれ」


イゾウさんは片手で顔を覆って、マルコさんから背け、更に腕を振って否定を示していた。
そうだよ。
言わなくていいと思うんだ。
確かにお部屋の掃除もあるだろう。
…そんなに、汚してない、よね…?
タオルくらいかな。


「***は変態の老害に襲われて、本当に大変でしたわね」


少しお酒が入っているのだろう、いつも以上に色っぽいイルヴァさんが私の首筋へ指先を伸ばしてくる。
そこはさっき、マルコさんが強く吸い付いたところ。
多分、赤くなっているだろうと思うんだけど。
イルヴァさんが触れている箇所が、いち…に…さん。
さん!?
丁度三角形を描くように触れられたから、三か所あるのだろう。
慌ててマルコさんを見ると、バツが悪そうに目線を反らされた。
…そういうことなんだろう。
ひとつでも恥ずかしいのに、みっつも。
しかも今日は、オヤジに報告もしなきゃなんないし、モビーで待ってる皆にもお礼を言わなければならないのに。

反面、マルコさんの所有だという証が嬉しくもあったりして、本当に困る。

給仕をしてくれている4番隊の出張クルーが来て、食事お持ちしましょうかと尋ねられたけど、私を見て、目線を下げて確認した後に、ここにお持ちしますと自己完結してしまっていた。
これは思った以上に恥ずかしい思いをするだろう、そう感じていた。
でも、恥ずかしくてもどうなっても、皆に早く会いたいな。



**********



Side:Thach



「ただいま〜!」


マルコ達が乗ってった船とようやく合流できたのは、夜も深まった頃だった。
途中おかしな海流に捕まって、なかなか前に進めないという現象に飲まれてしまった為、こちらから迎えに来るのが遅れたんだ。
それでも船の甲板に見える皆の姿は、元気そのもので安心した。
マルコに抱えられてジャンプしてモビーまで登ってくる***ちゃんも、どうやら元気…?みたい?

こちらに駆けてきて、おれの前で立ち止まってくれたけど、髪の毛がふわりと持ち上がって、晒された首筋。
あれ?
コレ、髪の毛あってもなくても、よく見えるわ。
こんな暗がりでも分かる、はっきりとした赤い印が3つも!


「おかえり!…うわー…授賞式だったん、だよね?」
「はい、授賞式に出て、セッケルノさんの研究所にもお邪魔してきました」
「なんか、それ以外にもすげー大変だったんだろうね。…愛され過ぎて?」


軽く頭を撫でてやると、おれの言葉に気が付いたのか自分の首筋に掌を当てて真っ赤に染まる***ちゃん。
いや、もう遅いでしょ。
見ちゃったし。
ていうかそこ、めっちゃ目立つし。
マルコをチラリと見ると、口は動いていないものの、目が怒ってる。
触るな、と念でも飛ばして来てるのか、激しく睨んでくるから、にこにこしながらわざとぐりぐり撫でてやったわ。

その後、首を隠しながら、それでも隠しきれず何人にもからかわれながら、***ちゃんはオヤジのところに向かって行った。
グラララと楽しげなオヤジの笑い声と、その足に抱き着いて甘えている***ちゃんの姿を見て、心底安心したんだ。
手すりに腰かけ、***ちゃんの動向を見守っているマルコの隣に移動してみた。
マルコが座ってる手すりに、背中側から寄りかかる形で覗き込むと、嫌そうな顔をしておれを横目で見た。


「その、ナントカ氏のラボに、誘われたりしたのか?」
「セッケルノな、誘われた。だが***は自分で断りを入れてたよい」
「それで嫉妬して、毎晩ヤッちゃったわけ?」
「あれは***が…!うるせェ…黙ってろい」


おれの言葉にまんまと乗っかって言ってしまいそうになるのを、懸命に止めている様子だった。
こんなに簡単な誘導尋問に引っかかるやつじゃなかったのに。
それに物にも人も執着するような奴でもなかった。
もう一回、ぶはっと笑ってしまうと、今度こそマルコにぶん殴られた。
ま、全然痛くないんですけどね。
や、うそ。
割と痛ェ。
マルコは変わらず、***ちゃんが挨拶して回っているのをずっと見ている。
オヤジの時こそ、念は送ってなかったみたいだけど、他のクルーだと全然違う目線を送っている。
こんなに、誰かについて執着して、嫉妬するような奴でもなかったよな。
あのキスマークだって、無意識に自分のだっていう証が欲しかったんじゃねェかなって思う。
やり過ぎ感は否めねェけど。
いい方向に、普通っぽくなって本当嬉しいなって思っちまう。
ぐふふと笑ったら、今度は蹴りを入れられた。



**********



Side:***



「宴だァ!」


オヤジの一声で、甲板ではさっそく料理が並んだり、酒樽が運び込まれたりしている。
私が受賞したことによる、お祝いの宴だそうだ。
正直、本物の授賞式よりもずっと嬉しかった。
最初に全体にスピーチというご挨拶をさせて頂いて、その後それぞれ個々に挨拶に向かったけど、さすがに新人の挨拶の時みたいに酔い潰れるまでは飲まされなかった。
途中、マルコさんのところに立ち寄ったけど、他の隊長さん達と気持ちよく飲んでいる様子だった。
また後でねってその場から立ち上がろうとしたら、腕を引かれてキスをされた。
唇くっつける本当のキスね。
そしてキスをした後に、私の下唇を親指でいつものようになぞるから、恥ずかしくて堪らない。
マルコさん自体は恥ずかしさも全くないようで私の方が照れて妙な動きをしてしまう。
隊長さん達に口笛を吹かれたり、イチャイチャしやがって〜と殴られたりしていたけど、全然平気そうだった。
むしろ、すごく楽しそうに、いい笑顔で皆と喋ったりしていた。
その姿を見ていると、本当に嬉しくなって幸せだなって思った。


私はというとマルコさんから少し離れて、今回の授賞式のことや、ラボでの体験を話す為に、船大工チームのいる小集団のところで楽しんでいた。
皆私の研究には興味を持ってくれていたから、ラボでの話も真剣に聞いてくれていた。
途中、厨房にいろいろ機材を入れたいという相談の為、サッチさんが加わったけど、話の趣旨はそのままに、サッチさんも話を聞くことを楽しんでくれている様子だった。
その技術をモビーでの活動にいかに活かすか、ラボでの経験をモビーに持ち込む話などで大いに盛り上がることができたんだ。
本当に楽しくて、他の皆の意見をちゃんと聞ける機会もあまりなかったから、すごく勉強になった。
だから余計に、あまりお酒は飲まずに酔わなかったことは、結果として良かったのかもしれない。

サッチさんが突然、私の背後に目を向けたかと思うと、真正面から腕を伸ばしてくる。
あわわわわ、と言いながら覆い被さるように向かってくるから珍しいなと思っていると、突然叫びだした。


「***ちゃん、歯食いしばれ!」


分からないながらも、言われた通りに噛みしめた瞬間に、後頭部にゴンッという鈍痛が走った。


「…ってぇぇええええ!」
「いッ、たッ!」


その瞬間は、目の前に火花が飛んだように感じた。
私と同時にサッチさんが叫んだけど、サッチさんは私の後頭部に伸ばした手を抑えて震えている。
何かが思い切りぶつかった衝撃があったのに、鈍い痛みだったのはサッチさんの手があったからのようだった。
何事かと思って振り返ると、額から僅かに再生の炎を出しているマルコさんが、今まさに私の背後で、身体を抱きしめようとしている、という姿を見た。
その後すぐに、足の間に身体を挟まれて、肩にマルコさんの腕に抱きしめられている感覚がある。
それはまるで、部屋でそうされているかのような格好だった。
いつも、外じゃ絶対にしないのに。


「マ、マルコさん?…どうしました?」
「***、…おれの、***…」
「はい、マルコさんのです」
「ならはやく、おれのとこに来い」
「…ってェな、くそ。マルコ、お前すっげぇ酔ってる?」
「酔ってねェよい」


そうサッチさんに抗議しながらも、首筋に鼻先を埋めて私の首筋に唇を寄せている。
時折甘く、強いお酒の香りがふわりと漂ってきている。
これは、相当飲んだ…?
でも普段、マルコさんはどんなに飲んでも全く酔うっていうことがないから、どうしたんだろうと不思議に思った。
一緒に飲んでいても、たいてい潰されるのは私の方だし、こういう宴でも誰よりも意識がはっきりとしていて、潰されるということは一度だってない。
どうしたんですか、と見えているふわふわの金髪を撫でてみると、更に肩へぐりぐりと額を押し付けられた。
ちょっとだけ身体を横に向けると、マルコさんの腕がわきの下に入ってきて、更に横へ向くように移動させられる。
それは、今度はマルコさんの身体の間で横向きに抱っこされているようになった。
これで、顔が見れるようになったんだけど…。
珍しく頬が染まり、目もなんだか虚ろで、私の顔をじっと見詰めている様子だった。
そんなに見られたら、照れてしまう。


「マルコさん、恥ずかしいです…」
「恥ずかしがる***も可愛いよい」
「イヤイヤイヤ、ちょっと待てって!」


そのまま顔を近づけて、私の下唇に親指で触れ、キスをしようとしたところでサッチさんに止められた。
マルコさんは、思惑通りにいかなかった為か不貞腐れたように、僅かに唇を尖らせている。
なにこれ…。
可愛い。
思わず口に出てしまうと、マルコさんの表情が柔らかくなり、そしていい笑顔で笑った。


「マルコ…お前、鬼の一番隊隊長はどこいったんだよ」
「そんな奴は知らねェな」
「いやお前、顔キリッとさせてっけど、すっげェかっこわりぃからな?」


サッチさんに抗議する時だけ、硬い表情になるというか、普段仕事をしている時の顔つきになるんだけど、その目線が私に戻るとまた緩んだ笑みに戻ってくれる。
何か話をする度に、その繰り返しで、さすがに周りの船大工チームの皆さんも、驚いている様子だった。
だって絶対、こんな姿誰も見たことがないと思う。
私だってこんなに、破顔した様子は初めて見た。
どんな時も、いつだって冷静で格好いいから。
だけど今日のマルコさんは、本当に可愛い。
私の頬を突いたり撫でたりしてはいるけど、主に唇を狙われている感覚は否めないけども。


「***…おれの、嫁…」


嬉しそうに言いながら、私の頬にキスをして、そのまま力なく肩に頭が落ちてくる。
規則的な呼吸が聞こえてきた様子だったから、そのまま寝ちゃった…?


「あーあ…寝ちゃった」
「もうちょっと襲うとかしたら、面白かったのに」
「いやぁ、でもおれ、マルコがあんな風になるの見れただけですっげェ満足!」


ぎゃはははと背後から声がしたと思ったら、隊長さん達がこっそりそこに集結していた。


「お前らか、マルコにこんなに酒飲ましたの!」
「こんなに潰す気はなかったんだけど、マルコが***の話をしながら酒を進めるからつい」
「***のこと、嬉しそうに嫁、嫁って言うからさ〜」
「ああ、嫁が離れて座ってるぞって言ったら、…ここに来てしまったんだよな」


笑いながらだけど、ビスタさんの手にある大きな酒瓶は、もうほとんど空っぽだった。
あの瓶は、この船にあるお酒の中で一番度数の強いお酒だったと思う。

肩を抱きしめているマルコさんの手が力なく落ちていったけど、胸元で引っかかるとそこをやわやわと揉みだした。
え、起きてる?
と思ったけど、やっぱり耳元では規則的に寝息が続いている様子だし。
寝ていても、無意識で触っちゃってるんだと思う。
前も一緒に寝てて、マルコさんの手が私も胸元に当たった時に、同じことをされたから、本当に無意識なんだろうと思う。
そしてだんだんと、その動きが性的なものに変わっていくのを感じた。
最初こそ、そこにあったから揉んでいると言った様子だったのに、今はその…する時、のように甘く指先が動いている。
本当に、寝ているんだよね?
さすがにまだ、誰も気が付いていないみたいだけど、どうしたものか。

私が困っていると、サッチさんがぎょっとした顔をしてこちらを見ていた。
目が合うと、困ったように眉を下げて笑っている。


「さすがにこれは、見せられねェだろ」
「あの、お部屋まで一緒に運んで貰えますか?」
「***ちゃん一人に任せるワケにはいかねェからな」


誰にも気が付かれないように、そっと掌を外させると、何度かやわやわと五指が動いていたけど、代わりに指を絡めてそれを止めた。
他の体調さん達には、もう行っちゃうのかよ、と渋られたけど、さすがにこの状態のマルコさんを申し訳ないと思っているのか、立ち上がるまで手助けしてくれた。
その場にいた、船大工さん達にも謝って、船室へと向かったんだ。


最近は、きちんと自室の鍵をかけているため、ポケットから取り出した鍵で部屋の扉を開くと、マルコさんに肩を貸しているサッチさんが、気まずそうに頬を掻いていた。


「なんか、すげぇ背徳感。…今まで無断で入ったことも何度もあんのに、そうやって二人の部屋ってなると、すっげー照れるね」
「でもそんなに、私の私物も多くないし、あんまり変わってないんですよ?」
「そーいう意味じゃなくってさ」


サッチさんが笑いながら部屋に足を踏み入れて、ベッドへとマルコさんを下ろした。
ベッドへ下ろされると、慣れたそこに安心したのか、マルコさんの頬が緩んでいく。
そしてその後、自分の隣をポンポンと掌で叩きながら何かを探っている様子だった。
サッチさんがその様子を見て、ぶふっと吹き出して笑う。


「これもしかして、***ちゃんのこと探してんの?」
「…多分…?」
「手握ってやんなよ」


言われるまま、マルコさんの手に自分のそれを絡めると、何度か指先でするすると探られた後に、ゆっくりと指先に力が入って握りしめられた。
その様子を見たサッチさんが、また大きく笑うのだった。


「何度も言われたかもしれねェけどさ、こいつほんと、こんなに誰かに執着するとか初めてだと思うよ」
「それは本当に、光栄です」
「なんかさ、マルコの嫁になりたいって言ったんだって?」
「えぇ!?…もう知ってるんですね、その…言いました、けど」
「いやいや、ごめん、からかうつもりはないんだぜ?そうじゃなくてさ、すっげェ嬉しそうだったから、マルコのヤツ」


嬉しそうだった、と言われるとくすぐったいような、照れるような。
マルコさんの顔を見ると、本当に気持ちよく眠っている様子で、胸がきゅんと締め付けられた。
頬を軽く撫でると、唇の端が持ち上がって気持ちよさそうに表情を緩めてくれる。
寝ていて無意識な状態のはずなのに、そんなに無防備にされたら、愛しくて堪らなくなる。


「こいつとは、ギリ10代からの付き合いでさ。正直言うと、昔っからすげーもててたし、それなりにいろいろあったとは思うんだけど。今は立場もあるから厳しくしてっけど、本当はすげー優しいやつだからさ」
「…はい」
「いや、知ってっと思うけど!まぁ…なんだ、その、悪友から言わせて貰うと、マジで、こいつのこと頼むな!」


真面目なことを言うことに照れてしまったのだろうか、最後の方は誤魔化しながら早口だったけど。
その内容は、しっかりと心の中に入ってきた。
乱暴に、それでいて痛くないように私の頭を撫でてから、扉の方へと向かっていくサッチさん。
じゃ、またね、なんて部屋からすぐに出ていってしまった。
だけどまたすぐに扉が開いて、その顔だけが覗く。


「あ、ヤるなら、鍵かけてな?」
「もー、大丈夫ですって!」


がははと豪快にサッチさんの笑い声が響いたと同時に、扉が閉じられていった。
部屋には静けさが戻って。
時折遠くから、クルーの笑い声が聞こえたくらいで、マルコさんの規則的な呼吸音が響いている。

多分明日には、今のこの出来事を悔やむんだろうけど。
でも今は、お酒の力で本心を聞けたと、感謝しようと思う。

今この小さな部屋で、マルコさんと二人きり。
この状況、今の立場。
全て、どんな名誉な賞にも敵わないだろうと思った。
マルコさんに握られているこの手を、一生離さないと心に決めた。
眠るマルコさんの頬、それから唇に無断でキスをした。


愛してます、ずっと傍にいさせてください。



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