あの時仰いだ空の青さを、今も覚えている。澄んだ空は何処までも高く、上限など無いようにさえ思えた。あんたの隣に逝けるなら、死んでしまうのも悪くない。そう思わせる青だった。
「リゾット、死後の世界は信じるか?」
何を言っているんだ、こいつは。そう、思った。そのままに表情に浮かべてローザを見返すと彼女は肩を竦めた後、笑う。指先で空になったグラスを弾いて、悪戯な笑みを浮かべたローザが俺を横目に言う。
「生まれ変わりは?」
「信じるしか、ないんじゃないか?」
「信じてたか?」
「……さあな」
たった一杯のワインで、酔ったわけでもあるまい。それでも俺へと撓垂れ掛かるローザの頬は、仄かに朱に色付いている。俺は彼女のグラスに、二杯目のワインを注いだ。良く冷えた白のワインは、何時かの夜を思い出す。今、彼女は物寂しく笑んではいないが。
俺は自身のグラスを空けた。ローザがボトルに手を伸ばし、俺のグラスへと注ぐ。ラベルに綴られた産地を視線で読んだ彼女は目を細める。それは笑みだ。彼女が俺にも確認できるように翳して読み上げる。
「シチリア」
「……粋なもんだ」
随分と融通が利くらしい。それなら、彼女の作ったミネストローネをまた食べたいものだ。そう思った俺へと彼女が、何を考えているんだ?と、問い掛ける。あんたの手料理についてだ。と、答えると、彼女は笑った。料理の腕前が一向に上がらないんだ。何故か自信満々に彼女は言った。やはり料理は俺の担当らしい。
「リゾット」
「……何だ」
「お前に会えて、良かったよ」
そう言った孤を描く唇は、俺の頬に触れるように口付けた。その様子を見ていたらしい奴等が、茶化すように口笛を吹く。それを俺は、振り向かないままで手で払った。それでも喧しい数人には、剃刀を吐かせた。不思議なもんだ。スタンドまで使えるなんて。俺とチームメンバーのやり取りに、彼女は笑う。笑むその唇に、俺は自身のそれを重ねた。
「こうも幸せだと、生まれ変わる必要性を感じないな」
「……そうだな」
「ベッラとグリチネは相変わらず喧嘩していて、お前の従妹とうちの弟は笑い合ってる」
「こっちの面々も騒がしい」
「リーダーは大変だな」
「お互いに」
互いの息が唇にかかる距離で密事の様に言って、どちらからともなく引き寄せられるかのようにまた唇を合わせた。そういえば、俺は彼女の唇が愛を囁くのを聞いたことが無かった。忙しなく絡む舌を解き、俺から愛を囁いた。
「ローザ」
「何だい」
「愛してる」
「知ってる。……なんだ、不服そうじゃないか。ん?……あぁ、私も勿論お前を愛しているよ。リゾット、お前が私を思う以上に、私の方がお前を愛しているからな」
「俺の方がより愛しているに決まっているだろう。なんだったら、証明してやるが?」
言うが早いか、俺は彼女を横抱きに自身の腕で支えた。ローザは片手のグラスを器用に操り、ワインが零れるを防ぐ。が、彼女の指先はするりとグラスを離れて、両腕は俺の首へと回された。彼女が言う。
「あぁ、まるで天国だ」
確かに、彼女は笑んでいる。
〔fine!〕