欠片 | ナノ






 外見というのは大切だ。それで全てを決めることは出来ないが、やはり視覚で捉えたままに印象が残ってしまう。そして見下げた視界に移る物体。それの印象は最悪であった。デートだなんてそれらしい理由を付け逃げ出したソルベとジェラートと、それを生み出したナマエ以外のメンバー全員が、己の見下げた先にある皿の上に乗った物体に顔色を悪くしている。

 目に鮮やかな桃色。といえば多少印象は良いだろうか。しかし、その実は蛍光色ピンク。昼食の料理が乗っているはずの皿には、謎の物体が腰を据えている。彼女曰く、パスタらしいが。衰えない発色のその上には、彩りとして千切ったバジルが散らされている。残念な出来。それしかいえない。

「…………」

 この胃のムカつきは、この生塵に等しい料理によるものだろう。そして食欲云々以上に、この配色を見ていたなら何故か誇りを汚されたような気持ちにさえなってくる。――リゾット・ネエロは胸中で語る。

「こんなモン食えるかァッ!」

 ギアッチョがテーブルを叩き割らんばかりに拳を打ち付ける。が、瞬時に本日料理人の蹴りにより、彼は床へとその身を沈めることになる。

「どうぞ、召し上がれ」

 ある意味、召し上がってしまう。これを、胃の中に落としてはいけない。それは死を意味しているからだ。ペッシやイルーゾォあたりは食べる前から既に瀕死状態だ。

「……ナマエ」

 薄く唇を開いたプロシュートにメンバー全員の視線が集まる。

「なあに、プロシュート」

それは私の料理を食べるより優先すべき話なのか。と彼女の目が物語る

「お前はこれから一切、料理を作るな」

イッタァアアアアアアアアアアアア!!!まさに、兄貴。皆の意見を彼女へと口にしてしまうなんて。

「はあ?」

般若だ。みな、般若なんて見たことがなかったが、確かに彼女の形相は、それであった。

「無理言わないでよ。餓死させる気?」

彼女の所為で暗殺チームが全滅しそうだというに。

「オレが、作る」

「?」

「これから先、外食は抜きにした話だが、お前が口にするものはオレが全部作ってやるよ」

「まるでプロポーズみたいね」

「そのつもりだ」

「プロシュート……?」

 生塵が十皿も並ぶそんな場所でよくもまあ、甘い雰囲気を出せるものだ。その生塵は甘いのかもしれないが。さて、神回避を現在進行形で行う彼へと、メンバー全員でエールを送る中、彼女の答えは……。

「……うん」

 ヤッタァアアアアアアアアアアアアア!!!皆が皆、胸中でプロシュートへと賛美の言葉を贈る。ペッシは兄貴の素晴らしさに号泣し始めた。

「なら、めでたいことだ。ちっとばかし値が張るリストランテにでも行くか」

 まさに兄貴!生塵を食むことは無くなったのだ。無くなった、……。

「二人で」

 …………え?皆の視線がプロシュートへと集まる。彼はその視線の先で、にやりと口角を吊り上げた。

「うん、いくいく!じゃ、皆はちゃんと食べてね!残したり、捨てたら……分かるよね?」

てっ、てめぇえええええええええ!!!胸中で叫ぼうとも、生塵は消費出来ない。苺とバジルの香りが漂う昼下がりの話。