欠片 | ナノ






「所謂美人ってぇやつは顔が左右対称らしいね。逆に言えば左右対称であることが美の秘訣。実際、そんな人間はいないらしいけど芸術においてそれを求めたものだってあるわけだし、やっぱり左右対称ってのは大事だ。うん、だからさァ、兼ね兼ね思ってたんだよね。あんたにもこれを当て嵌めるべきだって。あんたの右足、好きだったよ?でも、問題はもう片方にある。左右対称じゃァないとダメ。それに、義足なんて人工的でいて無粋なもの、あんたには似合わないよ。硬質的で、それに加え右足とは違って甘い匂いの一片もない左足。そりゃァもう視界に入れたくないぐらい気に喰わくってさァ。……ん?別にオレがあんたを見て眉を顰めてたのはあんた自身が嫌いだったからじゃァないぜ。あの左足が嫌で仕方無かったんだ。だから今こうしてあの左足の存在を消せて心底嬉しくて堪らないってわけ。で、話は戻るんだけど……そう、左右対称ってのに。だってあんたの義足を取っ払ったからってそこに左右対称が成立するわけじゃァない。そうだろ?あんた自身の足がそこにまだ一本あったじゃないか。オレは当て嵌めたかった。知っての通り、オレって自身の欲に忠実でさァ……うん、でも、痛くはなかっただろ?そこいらはしっかりやってないと困るじゃないか。ショック死なんて笑えないしね、ひとっつも。兎も角、こうしてオレの望み通りの姿になったあんたはやっぱりイイ。ぞっとするほどに綺麗だと思うよ。最ッ高にイイ女だ。……いやまァ、自分の嗜好が世間一般的でないことは重々承知してるつもりだけど、オレ的にはこれが至極普通のことで。うん、理解出来ないだろうねぇ。イッちゃってるんじゃァないかってその目、クるものがあるけどまだお預けくらわなきゃだろ。だけどさァ、世界は広いっていうか世間は狭いっていうか。理解者は身近な所にいたりするわけで。あァ、もう分かった?別に隠してるわけでもないしね。つまり、そっちの方はソルベの案なわけ。サモトラケのニケ……は無いのは首だっけ。……あァ、そうだミロのヴィーナス!両手のないやつはこっちだ。うん?そんなに恐がらなくても首まで切り落とそうとは思わないさ。そりゃァ、そうすることで左右対称により近付けるだろうけど、それじゃァ本末転倒だ。あんたが死んじゃ意味がない。その目にオレらの姿を映してオレらを求めてくれなきゃ、意味なんてひとっつもない。だって愛してるからさ。……え、何でそんなに驚くわけ。そんなに嘘っぽく聞こえるかなァ……ま、良いけどね。気長に伝えるからさ。両足両手、それに声を失ったあんたを心底愛してるよ。ってぇわけで、今後ともヨロシク、ナマエ?」