ガシャンッ!と大きな音を立ててカップが割れた。幸い液体を注ぐ前だったのか、一面に広がるのは白い陶器の欠片のみ。床と陶器が打つかった衝撃音にハッと意識を浮上させた私は、悲鳴を上げそうになる自身の口を手で覆った。
まただ。白昼夢のように脳裏に広がった映像。今、目の前に広がる現実。そのどちらも偽者ではなく真実であると理解した。……これはスタンド攻撃だろうか。何時、何処で……?能力を受けてしまったとしたら、それを解除する術はいったい……。
私は鋭利な破片の切っ先へ視線を留めたまま、思考を巡らせていた。
「……何があった?」
不審な音にリビングへとやって来たリゾットは普段通りで、それでも私は顔を青褪めたままに彼から視線を外せなかった。
「す、いません。ちょっと、手を滑らせてしまって……」
「そうか。……顔色が悪いな」
――……具合でも悪いのか?――
重なった姿に息が詰まり、自身の襟元をきつく握り締めた私を、リゾットは怪訝な目で見る。その手には一束の書類を持っていて、それに視線を移していた私に彼は、今夜の任務には同行出来るかどうかを尋ねた。私はそれに無言で頷き、答えを見届けたリゾットは、書類を私へと渡して何事も無かったかのように踵を返す。
そしてリビングに独りになる。
最終確認として渡されたその書類に目を通せば、今夜決行のその任務はよく知るものであった。力を込めた指先に紙面の文字が歪む。
私は、今日という一日に閉じ込められている。そして、その日の中でリゾットは死を迎える。
彼の死を体感したのは二回。いや、三回だろうか。初めのあれが夢だったのかどうか、今では判別することが難しい。
ただでさえ衰弱した神経を、さらに磨り減らされてなるものか。そうやって気持ちを高ぶらせた私を嘲笑うように、その日は何度でも繰り返される。
リゾットが死んだ。
二酸化炭素と酸素の交換が出来ないままに、身体は生命機能を終えた。
リゾットが死んだ。
酷い火傷を負いながら、焼け爛れた皮膚には弾痕まで刻まれていた。
リゾットが死んだ。
身体を蝕む獰猛な病原体は、彼の姿さえ残さなかった。
リゾットが死んだ。
首は折られ、身体の部位という部位をばらばらにされていた。
リゾットが死んだ。
右手首から先を失い千切れぬままに捩れた両足、潰れた右目も逆の目も閉じていた。
リゾットが死んだ。
噛まれた舌先から注入された致死性の毒は、全身へと駆け巡った。
リゾットが死んだ。
尖った鉄柱は彼の首へと後ろから真っ直ぐに貫き、瞬きも許さず死を与えた。
リゾットが死んだ。
リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。リゾットが死んだ。
そして今日を繰り返す。