「リーダー、お仕事お疲れ様ですー。あっ」
ノック音と共に扉を開けたメーラはカッフェを手に声を上げていた。それというのも、娘が此処で眠っているからだろう。
部屋へと足を踏み入れたメーラに書類の束をソファテーブルへと置いた。時計を見れば随分と時間が経っていたようだ。メーラから差し出されたカッフェをGrazieと言いながら受け取れば、リモネが小さく呻いて寝返りを打った。
「イルーゾォとシエスタしてるかと思ってました……」
そう言いながら、リモネの髪を梳くように撫でるメーラからは甘い香りがする。付けたままのエプロンに香りとそれらで察する。喉を下る珈琲の苦味に、他に甘い物も悪くないと思う。
「リーダー、一段落したらMerenda(おやつ)をご一緒しませんか?」
その誘いに、あぁ。と返せば空になったカップを手に準備の為に踵を返すようだった。その背のままに今日のMerendaはbiscotti(ビスコッティ)だと告げられる。
気持ち良く眠るリモネを起こすのも悪いな。と、思う。ぎゅっと握られている手を見ていたら、携帯が控えめに着信を伝えた。
「Pronto(もしもし)」
相手はメローネだ。完結に任務完了を告げるそれと、だらだらとメーラとリモネのことを気に掛けるそれ。任務完了の報告にはご苦労と返し、後者のそれには早く帰ってくればMerendaが残ってるんじゃないか?とだけ言って切った。
おやつー。と唸りながらリモネが目を覚ました。眠そうに目を擦るその手をやんわりと止めればもう一度同じことを唸る。
「Buongiorno(おはよう)」
「Buongiorno!なんだかね、甘い匂いがする!」
「あぁ、行くか?」
「行く!」
漸く眠気を上回ったらしい。ばっ、と上体を起こしたリモネがその小さな手で俺の膝をぺちぺちと叩く。
「……あれえ?」
「どうした」
「パードレがね、ひざまくらの後は、こうやって叩いたらびりびりするから叩いてやるんだッ!!って言ってたの!」
「……そうか」
先程までそこに乗っていた頭を撫でていれば、メーラの俺とリモネを呼ぶ声がする。その声にリモネが俺の手を引き始めた。菓子が恋しいのだろう。あぁ、マードレも恋しいのか。
テーブルから舞って落ちた書類と、小さな手に繋がれた自分の手を交互に見た。拾い戻る為にその手を離すのはなんだか惜しくて、小さな彼女に惹かれるままに部屋を出て扉を閉める。
既にMerendaへとありついていたメンバーに彼女が可愛らしい悲鳴を上げるのは直ぐの話だ。