私の手の中の携帯が、嫌な音と匂いを出して完全にお亡くなりになったことを告げていた。拉げて部品を溢れ出し、私の手の平の隙間から滑り落ちた何処かの部品は、落ちて地面と打つかり衝突音を響かせる。
私は、自分の携帯の悲惨な状況を息を呑んで一瞬見やった後、携帯をこんな状態にした犯人へと、キッ!と目をやって声を荒げた。
「何をするんですかッ、リーダー!」
睨んだ先に腕を組んで立っているその男、リゾット・ネエロ、我等がリーダーである彼が、私の携帯を使い物にならなくした張本人である。
メタリカ。リーダーのスタンド能力を以って、私の携帯はカワイソウに内臓をぶちまけているということだ。
「撮り溜めた写メが……」
「何か煙いんだが。やべぇ、『私のプロシュートさんフォルダが火を噴くぜ!』とか言ってた昨日の吉華に言ってやりたい。もうそろそろ、ほんとに火を噴くんじゃない?ディ・モールト馬鹿だ」
「煩い黙れ変態」
「俺これでもあんたの教育係ってか、先輩、超先輩じゃん」
「……新しい物を此方で用意する」
静かな声でリーダーは告げた。私は変態へとやっていた視線を再度リーダーへと戻した。睨みつけるような鋭さは忘れずに付け加えて。
私の態度も一切気にも留めずに彼は言葉を続ける。
「表ではお前は死んだことになっている。他にも繋がる物があるなら始末しておけ」
「あぁ、……じゃあ早く新しいの下さい。プロシュートさん一色にするんで」
「プロシュートの手、一色だろ?吉華も好き者だなあ」
「煩い黙れ変態」
何時の間にか故人になっていた私、吉良吉華。人生の伴侶を見つけた今、後悔なんて微塵も無いのだけれど、たった独りにしてしまった唯一の肉親のことはちょっと頭を過ぎった。兄なら、きっと今頃『彼女』さんとよろしくやっていることだろうが、これから死ぬまで或いは死んでも会う事がないだろうと思うと、少しばかり寂しく思う。
「あ、プロシュート帰ってきた」
「プロシュートさーん!」
ほんの、少しだけ。
ただの鉄屑になってしまった携帯を放り出して、リビングの入り口に佇むプロシュートさんへと駆け寄った。今日も今日とて、彼は素敵だ。その言葉で全てを語ることは出来ないが、兎にも角にも彼は素晴らしい。
プロシュートさんは私の投げ出した鉄屑をちらりと見た後、私と視線を合わせた。勿論私の視線は手の方を向いていたので、その滑らかな指先を以って。
「オレが新しいのを買ってやろうか?」
「デートですか!」
「あぁ、デートだな」
「是非、是非お願いします!」
「そうか、だったらおねだりしてみな」
「……プロシュートさんッ、(携帯が)欲しいの……っ!」
「お前らそういうことは部屋でやれ」
「リーダー無理だよ。二人の世界築き上げちゃってるし」
私は頭の中のフォルダをプロシュートさんでいっぱいにするのに忙しいので、リーダーの溜息も、メローネの笑い声も知らぬ存ぜぬで、目の前の彼のことに一心を注いだ。死んでみるというのも案外悪くないものだ。
(morto Un lato-死者 A side)