「吉華の手、綺麗だよな」
唐突も無くそう言った変態に、私は読んでいた雑誌から視線を上げる。目の前に座り込んだ彼、メローネは雑誌を支えている私の手を見てもう一度同じ事を繰り返して言った。
「吉華の手、綺麗だよな」
「どうも」
「何か特別な手入れとかしてる?」
そう言いながら私の片手を取るメローネに、雑誌を読むのを断念しそれを放り出す。紙の束が立てる音を聞き流し、問いに答える為にちょっと考えて口を開く。
「……自分から進んでしてると言い難いけど、してる」
「彼氏?」
「兄さんがちょいと煩くて、ね」
「近親相姦?」
「ちょっと思考回路に付いてけない」
えー。とけらけら笑うメローネの両手は手袋に覆われている。私が注目していたのに気付いたのか、メローネは私の顔を覗き込んで見たいの?と聞いてきた。興味が無いでも無い。うん。無い無い。と不明瞭な事を言ったら何が面白いのかまた、けらけらと笑い出した。
「はい、ドーゾ」
迷い無くすんなりと外した手袋を傍らに放り投げた彼は、肌の露出された手を私へと差し出してきた。今度は私が彼の片手を取る。
「意外と綺麗だね」
「えー?意外かあ。なあ、吉華の兄貴ってどんなんだ?」
「どんな、とな。あー、モナリザ知ってるよね?絵の。あのモナリザの手に性的興奮を覚えるような人。―あの『モナリザ』がヒザのところで組んでいる『手』…あれ……初めて見た時…なんていうか……その…下品なんですが…フフ…………勃起……しちゃいましてね…………『手』のとこだけ切り抜いてしばらく……部屋にかざってました―とか、暴露しちゃいそうな人」
「ッハ、なにそれディ・モールトウケr「女の子がぼっ、勃kっとか、そんな発言許可しないィーッ!!!」イルーゾォもウケルぅ」
「だね、ウケル。綺麗な手はスタンド使ってまで持って帰って彼女にしちゃうんだよ?腐っちゃうのに、駄目じゃんね。社会人としてそこは分別付けないとさあ」
私の言葉にメローネは噴出して、私も釣られて可笑しさに二人で大笑いをしてしまった。
――そうか、身内に犯罪者。尚且つ似たもの兄妹か。
笑い声を上げる二人と同じ空間に静かにいるリゾットは胃に痛みを感じ眉間の皺を深くした。
(fratello-兄)