なれないよ、父親なんて | ナノ






 気が滅入る。メローネは、いるだろうか。いるだろうな。うんうん唸りながらもアジトには着いてしまった。気配を消したままに室内へと入る私は、メローネに会いたくないのだろうか。
 考え事をしていた所為で、中に入るまで扉の外にまで聞こえてそうに荒げられた声に気付かなかった。と、いうかどういう状況なんだろうか。声を荒げて暴れるメローネに、それを押さえ込んでいるソルベ。メローネの前にいるジェラートがメローネを鎮めようとしている。リーダーはソファからそれを眺めているだけなので、大事ではないのだろう。

「放せ!放せよ!」

「もう戻ってくるって!行き違いになるぜェ」

 ジェラートの言葉に聞く耳も持たずにさらに暴れるメローネ。それを押さえ込んでいるソルベと目が合った。口でにやっと笑うソルベ。ジェラート。と、彼が呟けばその意味に気付いたのかジェラートはメローネを鎮めるのを止めてひらりと横に避けた。すると、メローネの視線は直線状にいる私にくるわけだ。ソルベにも開放されたメローネは目を大きく見開いた後、私へと飛び込んできた。……飛び込んできた?

「メーラ!」

「うわっ」

 その勢いに思わず尻餅をついた私に構わず、メローネは私の頭を抱え込むようにして何度も何度も名前を呼んでくる。あぁ、本当に大きな子供だ。と、思ったらメローネはバッとその腕と身体を放し今度はその両手で私の頬を包み込み、距離が縮まる。
 uno,due,触れるだけのそれ。
 tre,深く甘く痺れるそれ。
 前言撤回。全然子供なんかじゃない。生まれた距離を繋ぐそれがぷつりと切れた。と、また私を抱き締めるメローネ。横目でリーダーと目が合った。これはいったい、

「何事?」

「お前の負傷の報告でこうなった」

「…………負傷?」

「プロシュートからだ」

 頑張れって、……そういうことかッ。あの時の電話はこれの仕込みだったのだろう。メローネは、私の負傷でこんなに動揺しているのか。私が小さく負傷、と呟けば、それが耳に届いたのかメローネが腕を放し、私の顔を覗き込んできた。

「っそうだよ!怪我は大丈夫なのか!?」

「大丈夫だよ。怪我なんか、してないし」

 私がそういうも、メローネは落ち着かない様子で身体のあちこちに触れて確認してくる。肩に触れては、ここは?腕に触れてはここは?それら一つ一つに、大丈夫。何時も通り、と返す。
 気が済んだのか、ホッと息を吐き出し強張った顔が緩んだ。と思ったら、次の瞬間には何かに気付いたのかまた顔を強張らせた。私の両手を取った手の指先が震えている。メローネ?と呼びかければ俯いてしまって、覗き込めば長い彼の睫毛がふるふると震えていた。

「本当に、怪我はしてないのか?大丈夫、なのか?」

「うん、何ともない」

「メーラは怪我もしてないし、無事、なんだな?じゃあ、…………俺の子は?」

 私は息を呑んだ。俯く彼から視線を床へ向けて呟いた言葉は自分でも驚くほどに弱弱しい。

「…………大丈夫じゃない方が、良かった?」

 バッと顔を上げるメローネが、ふるふる震える睫毛と唇で叫ぶように言う。

「っそんなわけないじゃないか!俺の子だ!俺と、メーラの子なんだ!!俺と、メーラの…………ッ」

 そう言った後、メローネは子供のように泣き出してしまった。大粒の涙を流しながらも私を優しく抱き締めてくれて、途切れ途切れにも言葉を紡いでくれる。

「ごめん、ごめんなメーラ。子供が、嫌だったわけじゃないんだ。俺が、俺なんかが、父親になれるわけないって。ましてや良い父親なんて、そう、思って。でも、俺、なるから。良い父親に。だからッ、産んで欲しいんだ……」

「…………もちろんだよ、メローネ。……良かった。良かったッ……!」



 ――そうして、二人で子供のように泣きあった。

 その後にはソルベ、ジェラートに「パードレ!」に「マードレ!」なんてからかわれたり、鏡の中から事の成り行きを見守っていて出てきたイルーゾォに「おめでとう」なんて言われたり。その後にメローネに「間男退散!」なんて言われながら突進されているイルーゾォを微笑ましく見ていたら、いつのまにか横に立っていたリーダーが「そうか、マードレか……」なんて穏やかな顔で頭を撫でてくるから、恥かしいやらなんやらで。勿論、帰ってきた他のチームメンバーも話を聞いてそれぞれに祝福してくれた。プロシュートには感謝を述べたら「ハンッ!」とやられた。さすがプロシュート兄貴だ


「なあ俺さ、メーラ似の娘だったら嫁になんか出せないと思う。俺似の美麗端麗な息子だったとしても、男として愛するのは俺だけにしてくれよ!」

「はいはい。メローネが一番ですよー」

「俺も全ての一番がメーラさ!それで二番は此処にいる子だ!……ディ・モールト幸せだッ」

 はいはい。私も非常に幸せですよメローネさん!